癌Q&A

』は、日本人の死因第1位を占めるだけに、誰もが避けたいと願う病気でしょう。 これまでの多くの研究を総合した、科学的根拠に基づく癌の予防法を紹介します。


■癌てどんな病気?

私たちの体を構成する約60兆個の細胞の「核」には、体を作るための様々な情報が書かれた「DNA」があります。 このDNAのうち、タンパク質を作るための情報を持つ暗号文(塩基配列)を、「遺伝子」といいます。 「癌」は、癌の発生を促す「癌促進遺伝子」や、発生を抑制する「癌抑制遺伝子」などが傷ついて起こる病気です。 これらの遺伝子の本来の役割は、細胞が一定の規則に従って分裂・増殖したり、何らかの役割を持つよう分化するのを、 正確にコントロールすることです。しかし何らかの要因で、この癌関連遺伝子が傷つくと、本来の役割を失ってしまいます。 ただし、遺伝子が傷ついた細胞の多くは、自然に死滅したり、免疫作用などによって排除されます。 この防御態勢から生き残り、コントロール機能を失った異常な細胞が、際限なく増殖してしまうのが癌という病気です。


【質問】癌の多くは遺伝によるもの?

【答】

「癌は遺伝子に関わる病気」だというと、”癌は遺伝する病気”と考える人がいます。 また、家族に何人も癌の患者さんがいるから、”我が家は癌家系だ”と考える人も少なくありません。 癌の中には、親から子へと受け継がれる遺伝的要因が原因になることも、確かにあります。 しかし家族性の遺伝が特定できるのは、ごく一部の癌だけです。 癌の多くが、遺伝とは無関係に起こることは、遺伝子が100%も合致する一卵性双生児でも同じ癌ができる確率は高くはない、 という事実などから明らかです。癌の原因のほとんどは、遺伝ではなく、生活環境にあります。 中でも、毎日繰り返される生活習慣が、最も大きな要因であることがわかっています。


【質問】癌を防ぐことはできるの?

【答】

正常な細胞を癌化させる要因は、身の回りにたくさんあります。代表的なのが、多くの発癌物質を含む「タバコ」です。 また、「アルコール飲料」や「大気汚染物質」のほか、「ウィルス・細菌の感染」「紫外線」「放射線」なども、 特定の癌の要因になることがわかっています。そして、「偏った食生活」や「運動不足」などの生活習慣も、大きな要因です。 理屈から言えば、これらのすべてを避けたり、対策を講じていくことで、癌の発生を防ぐことができます。 しかし現実の生活において、こうした癌の要因を完全に排除することは到底不可能です。 そこで、回避が困難な要因については「共存すること」を考え、危険度のより高い要因や、 生活の中で避けられる要因を選び、その対策を講じることで、できるだけ癌の発生を防いでいきましょう。


【質問】癌予防のためにできることは?

【答】

癌の予防法については、これまで個々の研究による断片的な情報や、海外の研究成果は多く流布してきました。 そうした中で日本人を対象とした研究成果を中心に、科学的手法による総合的な予防策の研究が進められました。 その結果として導き出されたのが、「5つの習慣」を実践することが、癌のリスクを確実に下げるというものです。
筆頭にあげられるのは、「禁煙」です。言うまでもなく、タバコに含まれる数々の有害物質を避けるためです。 喫煙は、本人の癌のリスクを高めるだけでなく、家族など周囲の人のリスクも上げてしまいます。 また、お酒は日本酒換算で1日1合程度にとどめる「適度な飲酒」が重要です。 「食生活」では、塩分の摂り過ぎに気を付け、野菜や果物を十分に摂ります。熱々の飲食物も避けるようにします。 毎日の「運動」も、癌の発生に深く関係します。運動不足の生活は発癌リスクを高めるため、毎日を活動的に過ごして、 身体活動量を増やすことが大切です。その人の「体格」も関係します。肥満がよくないのはもちろんですが、 日本人の場合は、痩せ過ぎも癌になりやすいことがわかっています。適度な体格を維持するようにしましょう。


【質問】注意が必要な食べ物はある?

【答】

現時点では、「これを食べると癌になる」「これを食べれば予防できる」といった食品はありません。 食生活で何より大切なのは、偏りのない栄養バランスの整った食事を摂ることです。 その中で特に注意したいのは、現代社会では不足がちな野菜や果物を、意識して積極的に摂ることです。 詳しいメカニズムは不明ですが、野菜や果物に含まれる、「βカロテン」「葉酸」「フラボノイド」などの栄養素が、 癌のリスクを下げると考えられます。 豚肉や牛肉、羊肉に当たる「赤肉」を食べ過ぎると、「大腸癌」や「乳癌」のリスクを高めると言われます。 ただ、日本人の場合は赤肉を食べ過ぎている人はそれほど多くはありません。 肉食ばかりの食生活なら注意が必要ですが、肉も必須の栄養素を含むので、心配しすぎないようにします。


【質問】紫外線や放射線は避けたほうがよい?

【答】

紫外線は、「皮膚癌」のリスクを高めるとされますが、日本人の場合は、それほど影響が大きいわけではありません。 また、日照時間の短い地域では、大腸癌が多く、紫外線はビタミンDの合成に関わることから、 大腸癌の予防になるとの研究報告があります。従って、紫外線については、過度に浴びなければ心配する必要はありません。 放射線を心配する人も、多いものです。しかし放射線は、自然界に多く存在するので、すべてを避けることはできません。 紫外線も放射線も、日常生活から排除できるものではないので、過剰にならない程度に「共存する」ことを考えたほうが現実的です。