尿漏れ対策『お尻キュット体操』

尿漏れ・残尿感や股間の冷感が現れたら手術が要検討だが、お尻キュットで軽快する人も多く、何と狭窄症自体も大幅に回復。 狭窄症で排尿と排便が自力でできなければ手術が急務で、普段から尿の出の変化に要注意。 尿の出の悪さや股間の違和感は骨盤底筋具のゆるみも一因で、お尻キュットで鍛えれば回復。 お尻キュットは肛門を閉じたり緩めたりするだけの簡単体操だが、脊柱管狭窄症そのものの改善にも有効。


■脳の命令がうまく伝わらなくなる

腰部脊柱管狭窄症は、脊柱管を通る神経や血管が圧迫されることで発症するため、その症状は腰痛ばかりか、足の痺れ、 足裏の違和感など多岐にわたります。なかでも厄介なのは、排尿・排便障害です。 「尿が最後まで出ない」「一週間以上便秘が続いている」「尿意に気付きにくい」「歩くと尿が漏れる」 「歩くと便が漏れる感じがする」などの症状に思い当たるなら、排尿・排便障害の疑いが濃厚です。 尿や便の排泄トラブルは、腰椎の脊柱管が狭窄され、その中を通る馬尾(脊髄の末端にある末梢神経)が強く圧迫されることで 生じます。馬尾は膀胱や直腸の働きと密接に関わっており、「尿や便を排出せよ」という脳の命令を膀胱や直腸に伝えます。 しかし、馬尾が強く圧迫されて命令の伝達に障害が起こると、残尿感や尿漏れ、便秘などが起こりやすくなり、 最悪の場合は自力で尿や便をコントロールできなくなります。

脊柱管狭窄症の治療では、保存療法が第一に選択されますが、排尿・排便障害が現れた場合は話が別です。 特に自力で排泄できなくなった場合は、直ちに手術を検討しなくてはなりません。 脊柱管狭窄症と診断された人は、日頃から尿や便の出に問題がないか注意し、少しでも異常が現れた場合は適切な治療を受けてください。


■肛門のジリジリ感やむずむず感が現れる

腰部脊柱管狭窄症による頻尿や尿漏れ、便秘などの排尿・排便障害は、腰椎の脊柱管が狭窄し、その中を通る馬尾が強く 圧迫されて起こることは前述したとおりです。馬尾が障害されると、お尻から両足にかけての広範囲に痺れや麻痺が生じます。 また、排尿・排便障害のほか、股間にも違和感が次々と現れます。具体的には、お尻回りの冷感や灼熱感、 肛門・股間のジリジリ感やむずむず感などです。また、会陰部(生殖器と肛門の間)がほてったり、 男性の場合では、歩行中に陰茎勃起を起こしたりする場合もあります。 股間の違和感に加え、排尿・排便障害が悪化して自力で排泄できなくなった場合は、早急な手術が検討されます。 しかし、中には、手術を受けたのに尿漏れや股間の違和感がスッキリ回復しない患者さんも少なくありません。 実は、こうした人では、馬尾の圧迫以外に尿漏れや股間の違和感を引き起こす理由があると考えられます。 その理由の一つが、骨盤底筋の緩みです。

◆人間の排泄行為を担う重要な筋肉

骨盤底筋とは、骨盤の底を覆っている筋肉で、腸や膀胱・子宮などの臓器を下から支えるほか、収縮・弛緩することで 尿や便の排泄をコントロールしています。骨盤底筋の大きな特徴は、他の30種類以上もの筋肉とつながっていることです。 骨盤底筋が中心になり、多くの筋肉を連動させることで、尿や便を排泄する力を生み出すわけです。 そのため、加齢や運動不足などが原因で骨盤底筋が衰え緩むと、尿漏れや失禁、便秘などの排尿・排便障害が起こりやすくなります。 つまり、こうしたトラブルを改善するためには、骨盤底筋を鍛えることが急務なのです。
そこで、排尿・排便障害に悩む脊柱管狭窄症の患者さんにおススメしたいのが「お尻キュット」です。 お尻キュットは、骨盤底筋を動かし、強化するトレーニング法です。 実際、排尿・排便障害のある脊柱管狭窄症の患者さんにお尻キュットを指導しているクリニックでは、 尿漏れや失禁、便秘などの改善に一定の成果を挙げているそうです。そればかりか、股間のほてりやムズムズ感といった 違和感まで回復する患者さんもいるようです。 これは、骨盤底筋を動かすことで骨盤や腰周辺の血流がよくなり、その結果、馬尾に栄養や酸素が十分に行き渡って、 その働きが高まるためだと考えられます。お尻キュットについては次の項目で詳しく説明しましょう。


■加齢や運動不足で骨盤底筋が衰え緩む

腰部脊柱管狭窄症による排尿・排便障害や股間の違和感が起こる原因には、馬尾の圧迫以外にも、骨盤底筋の緩みが かかわっている場合があると考えられます。骨盤底筋は、30種類以上の筋肉とつながり、それらの筋肉と連動しながら 尿や便の出をコントロールする重要な役割を担います。しかし、加齢や運動不足などによって徐々に衰え、 緩んでいきます。つまり、排泄を担う骨盤底筋を鍛えて強化すればたとえ脊柱管狭窄症による排尿・排便障害であっても ある程度は改善していくのです。ただし、骨盤底筋は腕や脚の筋肉のように意識的に動かせる筋肉ではないため、 他の筋肉と連動させて動かす必要があります。そこで、お勧めなのが、肛門と連動させることで簡単に骨盤底筋を鍛える 画期的なトレーニング法「お尻キュット」です。

◆家事の合間や通勤途中に行おう

皆さんもよくご存知のように、引っ張り上げるような感覚でお尻に力を入れれば、自在に肛門をすぼめることができます。 この肛門をすぼめる動作は、肛門括約筋の働きによるものです。 肛門括約筋は骨盤底筋と連動しているため、肛門をすぼめれば、骨盤底筋の収縮が促されて、鍛えられるというわけです。 お尻キュットは、こうした肛門と骨盤底筋の連動に着目した排尿・排便障害の自己療法なのです。 お尻キュットははとても簡単で、お尻にキュッと力を込めて肛門を閉じたり、緩めたりを繰り返すだけ。

やり方は、まず背筋を伸ばし、上体をニュートラルポジション(それ以上にそらすと症状が現れる上体の傾き)まで起こします。 そして、お腹の前で手を組んだ後、肛門を閉じたり緩めたりします。 肛門を2秒間閉じた後緩めるのを1回として、1セット5回を目安に行ってください。 毎日、朝・昼・夕方・就寝前に1セットずつ行うといいでしょう。歯磨きをするときや家事の合間・通勤電車の中などで行えば、 習慣にしやすいはずです。

お尻キュットのコツは、深く息を吸い込んだ後に肛門を閉じ、緩めるときにフーッと息を吐くことです。 こうすることで、リラックスしながら行えるでしょう。基本的に、お尻キュットをするときは立って行ってください。 座った状態では、肛門を閉じにくいからです。また、可能であれば、つま先立ちで行うとトレーニングの効果が 一層高まります。高齢者は、転ばないように壁や椅子の背もたれに手をかけながら行ってください。 足腰が痛んで立ちながら行うのがつらいという人は、ドーナツ状に丸めたタオルをイスに置き、その上に座って行えば、 座ったままでもお尻キュットが行いやすくなります。

◆姿勢が正され脊柱管狭窄症の症状も回復

お尻キュットは、排尿・排便障害のほかに、脊柱管狭窄症そのものの改善にも役立ちます。 脊柱管狭窄症は、前かがみ姿勢を取ると症状が和らぐ特徴があるため、前かがみ姿勢が癖になっている患者さんが多くいます。 しかし、前かがみ姿勢ばかり取り続けると、背骨本来のS字カーブ(ナチュラルライン)が崩れて、腰に多大な負担がかかり、 狭窄症の症状が悪化します。その点、背筋を伸ばして行うお尻キュットを継続して毎日行えば、 前かがみ姿勢による背骨の歪みが徐々に正され、理想的なS字カーブに近づいていきます。 その結果、姿勢がよくなって腰の負担が減り、ひいては脊柱管狭窄症そのものの改善にもつながるのです。 また、前述したように、骨盤底筋をよく動かすことで骨盤や腰周辺の血流が促されます。 その結果、神経に栄養や酸素が行き渡って馬尾の働きが高まり、股間のムズムズ感や肛門のジリジリ感などの違和感も 回復していくのです。排尿・排便障害や股間の違和感に悩む人の中でも、手術を受けたくても高齢であったり、 他の病気を併発したりして受けられない人は、ぜひ試してください。