難聴対策に補聴器機能を併せ持つハイブリッド式の『新型人工内耳』

近年、補聴器と人工内耳の機能が一体になった「残存聴力活用型人工内耳(EAS)」>という 補聴器機能を併せ持つハイブリッド式の新型人工内耳が登場し、重い難聴でも聴力が大幅回復すると注目を集めています。 EASは、低い周波数の残った聴力を活用しながら、高音は従来のように電気信号として内耳に伝える一方、 低音は補聴器で音を増幅して外耳道(鼓膜の外の部分)から送り込む、ハイブリッド型の人工内耳です。 EASの場合、母音は補聴器で、子音は人工内耳で聞こえます。そのため、従来よりも多くの情報が入ってきます。 最終的には70~80%の言葉が聞き取れるようになります。


■低音域の聴力を守る新型人工内耳が登場

以下は健康雑誌に掲載された某病院聴覚センター長の寄稿を転載したものです。

90デシベル以上の音さえ聞き取るのが難しい重度の難聴者は、補聴器をしてもほぼ効果がありません。 90デシベルは「騒がしい工場の中」の音を想像すると近いでしょう。 そうした人は「人工内耳」の手術をすることで聴力が改善します。 人工内耳とは、内耳の蝸牛に手術で電極を埋め込み、外付けのマイクから拾った音を電気信号にして、 聴神経に伝えるというものです。 手術は、全身麻酔後、耳の後ろを6cmほど切開し、側頭骨を削って内耳の蝸牛に電極を差し込んだ後、 受信装置を削った部分に固定すれば完了です。手術時間は、およそ3時間程度です。

そして、術後3週間ほど経ってから、体外装置を装着します。装着方法は簡単で、マイクとスピーチプロセッサ(音を電気信号に 変化する装置)を搭載した部分を耳にかけ、ケーブルでつながった送信コイルを側頭部に当てるだけ。 受信装置と送信コイルには磁石が付いているので、磁力でくっつきます。 これまでに約4000人以上がこの人工内耳の治療を受け、聴力を回復させてきましたが、問題もありました。 それは、補聴器を利用しても聞こえにくいものの、人工内耳の対象になるほど難聴の重くない人が意外に多かったことです。 そのため、こうした人は補聴器に頼る以外に治療法がありませんでした。
そうした中、近年、補聴器と人工内耳の機能が一体になった「残存聴力活用型人工内耳(EAS)」>という 新しい人工内耳が登場し注目を集めています。

◆文章の聞き取り方が86%まで改善

EASは、低い周波数の残った聴力を活用しながら、高音は従来のように電気信号として内耳に伝える一方、 低音は補聴器で音を増幅して外耳道(鼓膜の外の部分)から送り込む、ハイブリッド型の人工内耳です。 ESAの電極は、挿入の際に蝸牛を傷つけないよう短く、細くしなやかにできているので、聴力を残すことができるようになったのです。 手術の手順は従来とほぼ同じですが、電極の挿入に工夫を加えます。

EASの場合、母音は補聴器で、子音は人工内耳で聞こえます。そのため、従来よりも多くの情報が入ってきます。 最終的には70~80%の言葉が聞き取れるようになります。実際、EAS治療を受けた患者さんの中には、 文章の聞き取りが補聴器の装用でほぼ0%だったのがEAS装用後6ヶ月で86%にまで改善した人もいます。
EASの費用は、先進医療として、自己負担で14万円ほどかかります。 現在では当院のほか、信州大学医学部付属病院、神戸市立医療センター中央市民病院、長殺気大学病院、 宮崎大学医学部付属病院の5つの医療機関で実施されています。