【インスリンの効きが悪くなる「インスリン抵抗性)】
身体を動かしたり、頭を働かせるときのエネルギー源となるのが、脂質と「糖」です。
糖は体内で分解されて「ブドウ糖」となり、脳や筋肉のエネルギー源となります。
全身の細胞が血液中のブドウ糖(血糖)をエネルギー源として取り込むときに必要なのが、
膵臓から分泌されている「インスリン」というホルモンです。
インスリンは、血糖値を下げることのできる唯一のホルモンで、そのインスリンの効きが悪くなるのが、インスリン抵抗性です。
インスリン抵抗性が起こると、血液中のブドウ糖を細胞がうまく取り込めなくなるため、血糖値が上がります。
何とか血糖値を下げようとして、膵臓はより多くのインスリンを分泌するため、血液中のインスリンも多くなります。
これらの結果、糖尿病をはじめとして、脂質異常症や高血圧などの病気が起こってくるのです。
メタボリックシンドロームはどのようにして起こるのか
「メタボリックシンドローム」は、コレステロールと並ぶ、冠動脈疾患の大きな危険因子です。 このメタボリックシンドロームの基盤には「内臓脂肪型肥満」、「内臓脂肪」の蓄積があります。
■内臓脂肪型肥満とは?
腹腔内の「腸間膜」などに脂肪が溜まっている状態
脂肪は、人間の体内では、主に「脂肪細胞」として皮膚の下や腹腔内などに分布しています。 どこにあるかによって、脂肪細胞の働きは違ってきます。
●皮下脂肪と内臓脂肪の違い
皮膚の下にある脂肪を「皮下脂肪」といい、皮下脂肪が多いタイプの肥満を「皮下脂肪型肥満」と呼びます。 皮下脂肪型肥満は主にエネルギーを長期的に貯蔵する役割を担っています。皮下脂肪には血管があまり多く分布していないため、 ”付きにくく減りにくい”という特徴があります。 これに対して、腹腔内にある脂肪を「内臓脂肪」といい、 内臓脂肪が多いタイプの肥満を「内臓脂肪型肥満」と呼びます。 内臓脂肪は、主に小腸を包んでいる「腸間膜」に蓄積します。 小腸で吸収された栄養素の多くは、腸間膜の血管から肝臓に流れ込みます。 そのため、食事から摂る栄養分が過剰になると、皮下脂肪よりも先に内臓脂肪が増えてきます。 内臓脂肪は、主に小腸を包んでいる「横隔膜」に蓄積します。小腸で吸収された栄養素の多くは、腸間膜の血管から 膵臓に流れ込みます。そのため、食事から摂る栄養分が過剰になると内臓脂肪が増えてきます。 一方、エネルギー源としては、皮下脂肪よりも先に内臓脂肪が使われます。 その意味では、内臓脂肪は”付きやすく減りやすい”脂肪と言えます。 この内臓脂肪の蓄積を基盤として起こってくるのが 「メタボリックシンドローム」ですが、 その鍵となるのが「インスリン抵抗性」です。 脂肪がエネルギー源として使われるときには、脂肪細胞に蓄積されていた中性脂肪が「遊離脂肪酸」に分解され、 血液中に放出されます。内臓脂肪は皮下脂肪より分解されやすく、肝臓にも近いため、内臓脂肪の多い人では、 大量の遊離脂肪酸が肝臓に流れ込みます。この状態が、インスリン抵抗性の一因となるものです。
■インスリン抵抗性
インスリン抵抗性が招くもの
「インスリン」とは、血液中の「ブドウ糖」を全身の細胞に取り込んでエネルギー源に変えるのに必要なホルモンで、 膵膜から分泌されています。このインスリンの効きが悪くなった状態が、インスリン抵抗性です。 インスリン抵抗性は、次のような状態を招くと考えられています。
- ▼高血糖
- インスリン抵抗性が起こると、全身の細胞がブドウ糖ををうまく取り込めなくなるため、 血液中にブドウ糖が溢れて「血糖値」が高くなり、 動脈硬化が高い状態が慢性的に続くのが「糖代謝異常」、そして「糖尿病」です。
- ▼高血圧
- インスリン抵抗性が続くと、血糖値を下げようとしてインスリンが多く分泌されるため、 「高インスリン血症」になります。 高インスリン血症では、腎臓での「ナトリウム」の排泄が抑えられ、血圧が上がります。
- ▼脂質代謝異常
- インスリンは、「リポたんぱく」を分解する働きのある「リポたんぱくリパーゼ」 という酵素の働きが抑えられて、脂質のバランスが乱れます。
肝臓に流れ込んだ遊離脂肪酸は、再び中性脂肪に作りかえられ、中性脂肪を多く含むリポたんぱくである「VLDL」となって
血液中に送り出されます。内臓脂肪型肥満では肝臓に流れ込む遊離脂肪酸が増えるため、血液中のVLDLも増え、
「高中性脂肪症」を招きます。
VLDLなどがリポたんぱくリパーゼによって分解されるときに、「HDL」の材料になる物質も作られます。
しかし、リポたんぱくリパーゼの働きが低下していると、VLDLなどの分解が進まず、材料が減るためにHDLが減り、
「低HDLコレステロール血症」を招きます。このことも動脈硬化を進めて、冠動脈疾患を起こしやすくする一因になります。
■インスリン抵抗性を強めるもの
内臓脂肪から分泌されるホルモンが影響する
近年、脂肪細胞は”エネルギーの貯蔵庫”としての役割を果たす一方で、 動脈硬化に関係する様々なホルモンを分泌しているということがわかってきました。 これらのホルモンは 「アディポサイトカイン」 と総称され、「動脈硬化を抑制するもの」と「動脈硬化を進めるもの」に大別されます。 内臓脂肪の蓄積はこれらのホルモンのバランスを乱し、インスリン抵抗性を強めます。
- ▼動脈硬化を抑制するホルモン
- 「アディポネクチン」が代表的な存在です。インスリン抵抗性を改善して血糖や血圧、脂質代謝に良い影響を与えるため、 ”善玉ホルモン”とされています。内臓脂肪が増えれば、アディポネクチンの分泌も増えそうに思われますが、 実際には分泌は減ります。その結果、動脈硬化が進みやすくなり、インスリン抵抗性が促進されます。
- ▼動脈硬化を促進するホルモン
- 「TNF-α」「アンジオテンシノーゲン」「IT-6」「PAI-1」などがあります。 TNF-αは、インスリン抵抗性を強める作用があることから、”悪玉ホルモン”の代表的な存在だといえます。 アンジオテンシノーゲンから作られる「アンジオテンシンⅡ」には、脂肪細胞を大きくする作用があるため、 肥満を促進します。IL-6は炎症に関わる働きを持ち、動脈硬化を促進します。 PAI-1は心筋梗塞などの原因となる血栓を作りやすくします。 内臓脂肪が増えると、これらのホルモンのバランスが乱れ、動脈硬化がより一層進行していくことになります。
■冠動脈疾患の予防のために
生活習慣を改善して、内臓脂肪を減らす
メタボリックシンドロームは、動脈硬化を促進して冠動脈疾患などの発症を招く、大きな危険因子です。 冠動脈疾患の予防のためには、まずは内臓脂肪を減らすことから始めましょう。 そのためには、現在の食生活や運動などの生活習慣を見直して不適切な点を見つけ、改善することが重要です。
【メタボリックシンドロームと脂肪肝】
肝臓の細胞の中に中性脂肪が過剰に溜まった状態を、「脂肪肝」といいます。
一般に、脂肪肝はお酒の飲み過ぎで起こることが多いと考えられていますが、最近はお酒を飲まない人の脂肪肝が増えています。
このような脂肪肝はメタボリックシンドロームと関係が深く、メタボリックシンドロームの10~20%程度に脂肪肝が
合併していると言われています。お酒の飲み過ぎによる脂肪肝では、肝臓に炎症が起こり(アルコール性肝炎)、
肝臓が線維化する「肝硬変」や「肝癌」に進行することがあります。
稀にですが、お酒とは関係のない脂肪肝でも、炎症が起こり、肝硬変や肝癌に進行することがあるとわかってきました。
これは、「非アルコール性脂肪肝炎(NASH)」と呼ばれています。内臓脂肪の蓄積やインスリン抵抗性との関係も指摘されていますが、
はっきりした原因はまだよくわかっていません。
脂肪肝が見つかったら、肝硬変などを招かないよう、治療に取り組むことが大切です。
脂肪肝の治療では、脂質異常症と同様、食生活や運動などの生活習慣の改善が効果的です。