冠動脈疾患防止のためのコレステロール対策
【ポイント】
●「脂質異常症」とは、LDLコレステロールなどの値に異常がある状態。
●脂質異常症を放っておくと、心臓や脳の病気につながる恐れがある。
●「高血圧」や「糖尿病」など、他の危険因子も併せて改善する必要がある。
■コレステロール
体に必要な脂質の一種だが動脈硬化の一因にもなる
「コレステロール」は、体内の脂質、すなわち「あぶら」の一種で、 細胞を包む「細胞膜」や「ホルモン」などの材料となる、体に不可欠な物質です。 しかし、体質や食生活などの影響で血液中のコレステロールの量に異常が生じると、 血管壁にコレステロールが入り込んでたまる「動脈硬化」を起こしやすくなります。
◆動脈硬化と血液中の脂質の関係
脂質であるコレステロールは水が主成分である血液にはそのまま溶け込めないため、タンパク質になどに包まれて血液中を流れています。 包んでいる物質の構成や大きさなどの違いにより、コレステロールはさまざまな種類に分けられます。 動脈硬化にかかわる脂質は、次の2種類のコレステロールと「中性脂肪」の、合わせて3つです。
- ▼LDLコレステロール
- 血液中に増えると血管壁に入り込み、動脈硬化を進める大きな要因になります。 そのため、”悪玉”とも呼ばれています。
- ▼HDLコレステロール
-
血管壁にたまったコレステロールを回収する働きをするため、血液中に増えると動脈硬化が多少抑えられます。
そのため、”善玉”とも呼ばれています。
- ▼中性脂肪
- 食べ過ぎや運動不足などによって血液中に増える脂質です。 LDLコレステロールの味方をして、特に血管壁に入り込みやすい”超悪玉”を増やします。 反対に、HDLコレステロールには敵のように働き、その数を減らしてしまいます。 これらのことから、動脈硬化を促進させる原因になります。
■脂質異常症
血液中の脂質の値が1つでも診断基準値に当てはまる状態
前述の3つの脂質のうち1つでも診断基準値に当てはまった状態を「脂質異常症」といいます。 具体的には、血液中の「LDLコレステロール値が110mg/dl以上」「HDLコレステロール値が40mg/dl未満」 「中性脂肪値が150mg/dl以上」のどれか1つにでも当てはまった状態を指します。 また、血液中のLDLコレステロール値が120~139mg/dlの場合は「境界域」とされます。 動脈硬化によって起こる病気の危険因子がほかにあれば、境界域でもLDLコレステロールの目標値を設定して治療が行われます。
◆放っておくと命に関わることがある
脂質異常症で治療が必要なのは、動脈硬化が進行すると、命に関わる病気を発症する危険があるためです。 コレステロールが血管壁にどんどん入り込むと、その部分の血管の内腔が狭くなっていきます。 すると、その先の血管への血流が悪くなってしまいます。 これが心臓を取り巻く「冠動脈」で起こると、心臓の筋肉に十分な血液が供給できなくなる「狭心症」を引き起こします。 さらにもろくなった血管壁が破れたり傷つくと、そこに血栓ができ、血流が完全に止まってしまうことがあります。 これが「心筋梗塞」です。これらの病気を「冠動脈疾患」と呼びます。 同様のことが脳の血管に起これば、「脳梗塞」を発症することになります。 動脈硬化は、進行しても自覚症状はほとんどなく、ある日突然、心臓や脳の病気として現れます。 そのため、脂質異常症は、放っておいてはいけないのです。
■冠動脈疾患のリスクと検査値
脂質異常症のほかの要因が加わるほど、高まっていく
冠動脈疾患の危険因子は、脂質異常症だけではありません。「喫煙」は冠動脈疾患の非常に大きな危険因子です。 また、「高血圧」「糖尿病」「慢性腎臓病」などの病気や、「年齢(男性45歳以上、女性55歳以上)」 「性別(男性)」も危険因子になります。
◆危険因子に応じて死亡リスクもわかる
日本人を19年間にわたって観察したデータから、その人が持っている危険因子に応じた、冠動脈疾患での死亡リスクが 判定できるようになっています。危険因子が重なるほど、冠動脈疾患での死亡リスクは高くなっていきます。 さらに、冠動脈疾患を発症するリスクは、死亡リスクのおよそ3倍とされています。 そのため、1つでも危険因子を減らして、冠動脈疾患を防いでいくことが重要です。 そのためにも、脂質異常症がある場合は、まずその改善に取り組みましょう。
■脂質異常症の改善
血液中の脂質の値を、自分に合った目標値まで改善させる
冠動脈疾患を防ぐためにも、血液中の脂質の値を目標値までコントロールする必要があります。 HDLコレステロール値は40mg/dl以上、中性脂肪値は150mg/dl未満を目標にします。 つまり、それぞれの診断基準値に当てはまらないようにすることが目標です。 一方、LDLコレステロールの目標値は、危険因子によって異なります。
◆LDLコレステロール値の目標値とは?
血液中の脂質の中でも、LDLコレステロールは動脈硬化の大きな要因であるため、冠動脈疾患の危険因子に応じて、
100mg/dl未満から160mg/dl未満まで、段階的に目標値が設定されます。
100mg/dl未満を目標にするのは、既に冠動脈疾患を起こしたことのある人です。
再発予防のため、厳しい目標値を設けてコントロールする必要があります。
120mg/dl未満を目標にするのは、「糖尿病」「慢性腎臓病」「脳梗塞」「末梢動脈疾患(脚の動脈硬化など)」のいずれかがある人です。
以上に当てはまらない人は、「冠動脈疾患での死亡リスク」「HDLコレステロール値」「家族の冠動脈疾患の病歴」「血糖値」に応じて、
120~160mg/dl未満の間で目標値を設けます。
◆冠動脈疾患を確実に予防するには
冠動脈疾患を防ぐためには、血液中の脂質の値のコントロールと併せて、糖尿病や高血圧など、他の危険因子の治療も必要です。 喫煙している人は、禁煙が必須です。これらの危険因子を併せて治療する「包括的治療」を行って初めて、 より確実な予防効果が得られるのです。