急性骨髄性白血病
『急性骨髄性白血病』は、急速に進行する病気です。 早期発見・早期治療が大切で、診断と同時に治療を開始することが重要です。 急性骨髄性白血病は、高齢者でも、さまざまな工夫で治療を受けられる人が増えています。
■急性骨髄性白血病とは?
白血球になる前段階の細胞が癌化する病気
血液を作る過程すべての血液細胞の元になるのが「造血幹細胞」です。 『急性骨髄性白血病』は、造血幹細胞が分化した「骨髄芽球」に異常が起こり、癌化した白血球(白血病細胞)が増殖する病気です。 子供から大人まで幅広い年齢に発症し、大人では特に60歳代以上の高齢者に多く見られます。 「慢性骨髄性白血病」との違いは、異常が起こるのが骨髄芽球であることのほか、 進行のスピードが大きく異なることです。慢性骨髄性白血病は年単位でゆっくり進行しますが、 急性骨髄性白血病は週単位から月単位で急速に進行します。診断がつくと同時に治療を開始することが大切です。
●主な症状
急性骨髄性白血病では、次のような症状が起こります。
- ▼正常な白血球の減少
- 細菌やウィルスなどへの抵抗力が弱くなり、風邪や肺炎などの感染症を併発し、発熱する場合があります。
- ▼赤血球の減少
- 貧血が起こるため酸素を体の隅々に届けにくくなり、動悸、息切れ、だるさなどが現れます。
- ▼血小板の減少
- 出血しやすくなったり止まりにくくなったりして、皮膚の青あざや点状出血、鼻血、歯茎の出血などが起こる場合があります。 「熱が下がらない」「風邪が治りにくい」「鼻血が止まらない」などの症状から内科などを受診した際に、 血液検査から白血病が疑われ、専門医を受診して病気が発見されることが多いようです。
■治療
抗癌剤治療と造血幹細胞移植の2本柱
急性骨髄性白血病の治療では、「Total Cell Kill」という基本理念があります。 白血病細胞を根絶したうえで正常な造血の機能を回復させて治すという考え方です。 治療法には、抗癌剤治療と造血幹細胞移植があります。
●抗癌剤治療
抗癌剤治療は、寛解導入療法と地固め療法の2段階で行われます。
- ▼寛解導入療法
- まず、抗癌剤を7日間使い、骨髄の白血病細胞を顕微鏡でも認められないレベルまで減らします。 そして、正常な血液細胞が一定以上回復した状態を、血液学的寛解といいます。
- ▼地固め療法
- 次に、抗癌剤療法を約1ヵ月に1回程度のペースで、3~4回行い、さらに白血病細胞を減らします。 遺伝子検査でも白血病細胞が検出できないレベルになるのが、分子レベル的寛解です。 この状態を維持すれば、正常な血液細胞が回復し、症状も治まってきます。
●造血幹細胞移植
急性骨髄性白血病が再発した場合、あるいは再発の可能性が高いと予想される場合は、造血幹細胞移植が検討されます。 ドナーから造血幹細胞の提供を受ける同種移植で、ドナーの造血幹細胞を採取する部位は、「骨髄」 「体内を流れている血液(末梢血)「赤ちゃんのへその緒と胎盤に含まれる臍帯血」の3種類です。 造血幹細胞の移植は、HLAという白血球の血液型が一致することが条件です。 HLAが一致するドナーを探す流れは、血縁者、骨髄バンク、臍帯血バンクの順です。 骨髄バンクに登録するドナーの数は年々増え、臍帯血バンクまで行くと、移植を希望する患者さんのほとんどにドナーが見つかります。 移植では、まず前処置として、大量の抗癌剤と全身の放射線照射により、白血病細胞と正常な細胞を全滅させます。 このあとドナーの造血幹細胞を点滴で移植します。2~3週間ほどすると、移植された造血幹細胞が新しく血液を作り始めます。 正常な白血球が増え、一定値に達した段階を生着といいます。
大量の抗癌剤と放射線を使うので、55歳くらいまでの体力のある患者さんが移植治療の対象となります。
また、移植直後は白血球がほとんどなくなるので、免疫の働きが落ち、無菌室にいても感染症にかかりやすくなります。
発症した場合は、適切な抗菌薬を使って対処します。
移植における重大な合併症が、生着後に起こるGVHDと呼ばれる免疫反応です。
HLAが一致した骨髄を移植しても、ドナーのリンパ球は、患者さんの組織(皮膚、肝臓、腸など)を異物とみなし攻撃します。
そのために、皮疹、黄疸、激しい下痢などが起こる場合があります。
そこで、GVHDの予防や治療のために、免疫抑制剤やステロイド薬を使います。
反面、このような免疫反応には、体内に残った少量の白血病細胞を同時に攻撃して根絶へと導く、よい働きも期待できます。
これをGVL効果といいます。
●高齢者の治療
急性骨髄性白血病の治療は、体力の十分でない高齢者にとっては負担が大きく、容易ではありません。
しかし、最近では治療の選択肢が広がっています。
抗癌剤治療では、寛解導入療法で使う抗癌剤の量を減らしたり種類を変えたりします。
寛解に至らない場合もありますが、症状が緩和され、生活の質を上げることができます。
造血幹細胞移植では、前処置で使用する抗癌剤や放射線の量を減らし、体の負担を減らすミニ移植という方法が開発されています。
ミニ移植の登場により、70歳くらいまで移植を受けることが可能になりました。
●治療の展望
急性骨髄性白血病の基礎研究は、この数年で非常に進歩しました。 白血病細胞のすべての遺伝子の解析は、アメリカで2012年に終わり、病気の原因になっている多くの遺伝子の異常が発見されました。 それらに効果を発揮する分子標的薬も多数研究され、中には有望なものもあります。 こうした薬により、今後の治療成績の皿なう向上が期待されます。