なぜ増える?高齢者・女性のアルコール依存症
日中からお酒を飲んだり、毎晩飲んだりしていませんか?
特にアルコールの害を受けやすいのが、高齢者と女性です。
■増加の程度
新規の受診患者の約4割は高齢者と女性
『アルコール依存症』では、最近、高齢者と女性の患者さんの増加が目立っています。
アルコール依存症専門の医療機関を新規に受診した患者さんの中で、高齢者(60歳以上)と女性が占める割合は、
この10年ほどの間に、いずれも大きく増加していることが報告されています。
2007年には、高齢者と女性が新規の受診患者の約4割を占めました。
高齢の患者さんが増えている背景には、高齢人口の増加があります。若いころに発症して高齢期を迎えた人もいますが、
最近増えているのは、高齢期に入ってから発症する人たちです。特に定年退職後に発症する例が多く、今後、団塊の世代の
退職が進むにつれ、高齢の患者さんがさらに増えるとの予測もあります。
女性の患者さんが増えているのは、女性の社会進出に伴って、飲酒する女性が増えているためと考えられます。
特に若い世代の女性には飲酒する人が多く、今後さらに女性の患者さんが増えることも予想されます。
また、高齢者と女性は、壮年男性よりも、アルコールの害を受けやすく、アルコール依存症を発症しやすいことが指摘されています。
■高齢者の飲酒
ライフスタイルの変化で飲酒量が増えることも
●発症のきっかけ
高齢者では「定年退職」「配偶者との死別」「離婚」など、ライフスタイルの変化をきっかけにアルコール依存症を発症する例が よく見られます。定年退職すると、自由な時間が増え、飲酒が仕事に影響する心配もなくなるため、日中から飲み始め、 多量に飲酒するようになることがあります。 また、配偶者との死別や離婚などによって強いストレスを受けると、それを緩和しようとして飲酒量が増えていき、 多量に飲酒するようになることもあります。そして一般に、高齢になると人との交流が少なくなり、社会から孤立しがちで、 孤独感や寂しさを紛らわそうとして飲酒が増えることもよくあります。
●高齢者の体の特徴
高齢者がアルコール依存症を発症しやすいのは、アルコールの害を受けやすい身体的要因があるからです。 アルコールには、水によく溶け、脂肪には溶けにくいという性質があります。 加齢とともに体内の水分量が減るため、高齢者の場合は、若いころと同じ量を飲酒しても、血中のアルコール濃度が高くなりがちです。 また、若いころに比べてアルコールの代謝が遅くなるため、アルコールの影響がより長く持続するようになります。 抗不安薬など、服用している薬の影響でアルコール依存症が起こりやすくなることもあります。 なお、アルコールを薬と一緒に飲むと、薬の副作用が起こりやすくなります。 一般に高齢者には複数の薬を服用する人が多く、飲酒する高齢者は注意が必要です。
■女性の飲酒
鬱病や摂食障害などを併せ持つことも多い
●飲酒する女性が増えている
女性のうち、飲酒する人の割合は、1968年には約2割だったのが、2003年には約7割と、3倍程度高まりました。 年代別では、20歳代前半が約9割と最も高いことが2008年に報告されています。 この数字は、同年代の男性(8割程度)を上回っており、若い女性が男性以上にお酒に親しんでいることがわかります。 また、アルコール依存症で入院した患者さんの年齢を調べた調査では、男性では50歳代が最も多いのに対し、 女性では30歳代が最も多く、平均年齢には約10年の差がありました(専門医療機関54施設の調査)。 これは、女性は、男性より短時間でアルコール依存症を発症しやすいことを示しています。
◆短期間で発症する理由
女性が、男性よりも短期間でアルコール依存症を発症しやすいのは、精神・身体的要因の影響が大きいためだといえます。 アルコールは肝臓で代謝されますが、女性の肝臓は男性より小さく、アルコール代謝に時間がかかります。 また、女性の体には男性よりも脂肪組織が多いため、アルコールは血液中に多く溶け、血中アルコール濃度が高くなりがちです また、「鬱病」「パニック障害」「摂食障害」などが、アルコール依存症の発症に影響することがあります。 憂鬱感や不安感を紛らしたり、よく眠りたいと思って飲酒量が増えることがあります。 摂食障害では、過食嘔吐のタイプの人が食べる代わりに飲酒するようになると、飲酒量をコントロールできずに、 ごく短期間でアルコール依存症を発症することがあります。なお、29歳以下の女性のアルコール依存症患者では、 約7割が摂食障害を併せ持っているという調査結果があります。
◆アルコールの影響
女性では、アルコールによる臓器の障害が男性より起こりやすく、肝硬変などの肝機能障害は、男性の半分程度の飲酒量で起こってきます。 自然流産や不妊の危険性が高まるなど、女性特有の問題もあります。 妊娠中に飲酒すると、アルコールが胎児の発育や知能などに影響し、出生時の低体重やさまざまな障害が起こりやすくなります (胎児性アルコール障害)。また、乳癌が起こる危険性も、飲酒量が多いほど高まるといわれています。
■高齢者・女性の注意点
害を受けやすいことを自覚し、適量の飲酒を心がける
●サインを捉える
アルコール依存症のサインがいくつも見られるときは、専門の医療機関を受診することが勧められます。 一般的なアルコール依存症のサインには次のようなものがあります。
- 飲酒量が多い
- 飲むスピードが速い
- 1人でよく飲む
- 休日の翌日などに突然欠勤する
- いつもいらいらしている
- ミスが多い
加えて、高齢者のアルコール依存症に特有のサインもあります。
- よく転倒する
- 骨折の経験や傷がある
- 物忘れ、生活の乱れ、失禁
- うつ状態、不眠、高血圧
高齢者特有のサインは、飲酒していない高齢者にもみられることですが、飲酒の習慣があり、一般的なサインや高齢者特有のサインが いくつも見られるときは、アルコールの影響を疑うことが必要です。 高齢者特有のサインのうち、特に見逃されないように注意したいのが、転倒と失禁です 加齢による運動能力の低下に飲酒が重なると、転倒や、それによる骨折が起こりやすくなります。 また、飲酒すると、夜中などに失禁することがよくあります。
◆飲酒の注意点
高齢者の場合は、若いころに比べて、アルコールに弱くなっていることを理解し、飲酒量を減らして、二日酔いにならないようにしましょう。 朝や昼から飲まないようにしたり、できるだけ1人では飲まないことも大切です。 女性の場合も、アルコールの害を受けやすいことを自覚し、高齢者と同様、飲酒量などに注意します。 また、胎児への影響についても理解し、妊娠の可能性があるときや、妊娠中、授乳中には飲酒しないようにします。
◆飲酒量の目安
飲酒量を現す世界的な単位が「ドリンク」です。1ドリンクは「純アルコール換算で10g(約12.7ml)」を意味します。 日本では、1日の平均飲酒量が「6ドリンクを超える」のが多量飲酒とされ、この量になるとアルコール依存症の危険性が高まり、 肝臓などの病気が起こりやすくなると警告されています。一方、健康的な生活を送るためには、1日の平均飲酒量を「2ドリンクまで」 にすることが勧められています。壮年男性はこれを目安にしますが、高齢者と女性はその半分の「1ドリンク」を目安としましょう。