胃癌の予防『減塩』

日本人の胃癌の第一の原因は塩分の摂取過多です。 したがって、胃癌を防ぐ秘訣の第一は、胃粘膜を傷める塩分の制限で、食塩摂取は1日6g以下が理想です。 減塩食を簡単に行うには、低塩分で特効ミネラルの豊富な藻塩や、ダシ醤油の活用が一番効果的です。


■日本人の胃癌の第一の原因「塩分摂取過多」

漬物をよく食べる人は、胃癌が2.7倍多い

日本人の胃癌の最大の原因は、「塩分の摂取量が多いから」ではないかと指摘されています。 最近では日本人の食生活が欧米化しているとはいえ、日本の食事には、醤油や味噌、漬物など塩分のたくさん含まれる 食品が数多くあります。厚生労働省研究班が行った疫学調査の結果を紹介しましょう。 これは、岩手県・秋田県・長野県・沖縄県に住む40~59歳の2万人の男性を対象に、塩分が多く含まれる食品を摂る頻度と、 胃癌の発生率について調べたものです。その結果、漬物については、「ほとんど食べない」人に比べて 「週に1、2回食べる」人の胃癌発生率は1.54倍、「週に3、4回食べる」人は2.71倍に上っていました。 また、塩蔵魚卵(イクラやタラコなど)や、塩辛・練りウニでも、同じように胃癌の発生率は高くなっていました。


●塩分が胃の粘膜を刺激し胃癌を誘発

食塩自体には発癌性はありません。では、塩分の摂りすぎは、何故胃癌を引き起こすのでしょうか。 残念ながら、そのメカニズムは解明途中で、まだ明らかになっていません。 しかし、次のような説が有力視されています。
塩分が胃に入ると、胃の粘膜に高い浸透圧がかかり、胃の粘膜を保護している粘液が溶けてしまいます。 これは、ナメクジに塩をかけると縮んでしまうのと同じ現象です。 粘液が溶けると、胃の粘膜が強力な胃液に直接さらされるようになり、粘膜細胞が壊れて胃壁に傷ができます。 その傷が修復されるときに、食べ物などから入ってきた発癌物質が作用して、粘膜細胞の癌化が進むのではないかと 考えられているのです。つまり、塩分は癌が発生しやすい環境を作るもとになるわけです。


●塩分の排泄能力の低い日本人

食塩を摂ると、体内の塩分濃度は一時的に高くなります。 しかし、人間の体はよくできていて、汗や尿として排泄する仕組みが備わっています。 ところが、日本人には、こうした「塩分を必要な分だけ保持し、いらない分を排泄する」という調節機能が 遺伝的にうまく働かない人が多いことがわかっています。つまり日本人は、塩分を細胞内に取り込む能力が高いのに、 排泄する能力が低いため、胃癌を引き起こしやすいと考えられるのです。

実は、私たち人類は、太古から進化の過程で、体内で塩分が少ない方が都合のいい体になっているのです。 新石器時代の人類の栄養摂取量と、現代の米国人と日本人の栄養摂取量とを比較した調査があります。 そのうち食塩の1日当たりの摂取量を見ると、新石器時代では約1.5gですが、現代の米国人は約8.6g、 日本人にいたっては、何と約12gと8倍も増えています。 そもそも、私たち人類が塩を調味料として日常的に使うようになったのは、たかだか200~400年前からのことです。 それまでは塩は貴重品で、富裕層の食べ物でした。また、日本でも欧州でも、海の近くで採れた塩を都に運ぶための 「塩の道」が作られたように、かつて塩は贅沢の証でした。

このように、私たちの体は、もともと塩分の少ない環境に適応して作られており、塩分の摂取量が少なくても 健康を保つ仕組みが備わっているのです。実際、人間が生命を維持するために必要な食塩の量は1日3g程度ということが わかっています。そうしたことを考えると、塩分の摂取量が過剰に増えた現代の日本人の食生活は、 胃癌をはじめ病気を招きやすい危機的な状況にあるといえるのです。


●日本の食塩摂取上限の目標は欧米の2倍

こうした中、厚生労働省は、1日当たりの食塩の摂取量の目安を10g以下としています。 一方、欧米では5g以下と、日本の半分の量を目標に掲げています。 ところが、現代の日本人の食塩摂取量を見ると、1日平均11g台と飛びぬけて高い状態が続いています。 日本人の食塩摂取の目標値上限が欧米の2倍に設定されているのは、現状の塩分の摂取量があまりにも多いため、 とりあえず達成できそうな目標値を示したのではないかと考えられます。 しかし、胃癌をはじめとする病気の予防のためには、食塩の摂取量を1日6g以下にするのが理想的だと考えられます。 特に高血圧の人は、塩分を摂ると血圧が高くなるので、1日6g以下を目標値にするのが適当でしょう。

現代の日本人は「食塩中毒」といってもいいほど、塩分を摂りすぎています。 昨今、塩分の害が叫ばれているにもかかわらず、未だに改善されていません。 地域差もあります。関西や沖縄の食事は薄味で、食塩の摂取量も少なめです。 一方、秋田、山形、新潟などの東北地方は塩辛い食べ物を好む傾向が強く、胃癌になる確率も高くなっています。 東北地方は米どころが多く、ご飯が美味しいと、味噌汁や漬物など塩辛い食品を食べる量も増えます。 また、農閑期には保存食として塩漬けや味噌漬けを食べる習慣もあります。 こうした食習慣が塩分の過剰摂取につながっているのでしょう。


●塩分を多く使っている加工食品に注意

そこで、減塩が必要になるわけですが、その前に、皆さんに知っておいてほしいことがあります。 それは、自分がふだんどのくらいの食塩を摂っているかということです。 加工食品以外の食品や外食の多くは、塩分の含有量が示されていません。 そのため、自分がどのくらいの食塩を摂っているのか、なかなかわかりにくいものです。 そこで家庭で食塩の摂取量が測定できる検査紙が市販されているので、そうしたものを利用するといいでしょう (『尿中食塩濃度測定用試験紙』)。 これは、起床時の尿をコップに取り、その中に塩分の濃度を測る検査紙をつけ、1日分の塩分摂取量を推定するものです。

塩分を減らすためには、食事に注意するしかありません。食事は、癌の原因の3割を占めるといわれていますが、 食生活で塩分を減らせば、日本人に最も多い胃癌にかかる危険度が大幅に低くなります。 癌だけではありません。塩分を摂る量が多くなると、高血圧・心臓病・脳卒中・動脈硬化・骨粗鬆症などの 病気にかかる危険度が高くなることが明らかになっています。 薄味を心がけることは、生活習慣病やメタボリックシンドロームを防ぐ上でも大切な要素なのです。 食塩は、調理に全く使わなくても、ある程度の量が素材そのものに含まれています。 また、調理に使う食塩の絶対量はもちろん、タラコやスジコ、ハム、ソーセージ、漬物といった塩蔵食品にも 塩は多く含まれています。特に加工食品やインスタント食品、外食、出来合いの惣菜などは塩分の摂りすぎにつながるので 注意が必要です。しかも、出来上がった料理に醤油やソースをたっぷりかければ、塩分の量は一気に増えてしまうので 気をつけましょう。

反対に、胃癌を防ぐ効果が明らかになっている食品が、野菜や果物です。 野菜や果物には、抗癌作用の優れた ビタミンA・C・Eミネラル食物繊維のほかにも、 発癌を招く活性酸素を除去する 抗酸化成分も豊富に含まれています。


●減塩は段階的に行うのが成功するコツ

前述のように胃癌を防ぐ一番の秘訣は「減塩食」です。日本人は特に塩分過多の食事を摂る傾向が強いので、 塩分を控える食生活が大切です。 まず日本人に目立つのは、漬物や魚の干物、佃煮、塩辛など塩辛い食品をたくさん食べること。 また、調味料として、醤油や味噌をしばしば使うことも、塩分の摂りすぎに影響しています。

とはいえ、こうした食品や調味料は日本人の舌になじんできたものなので、急に止めるとストレスになってしまう かもしれません。そこで、塩辛い食品は、食べる回数や1回に食べる量を減らす工夫をしてみましょう。 また、調味料は、醤油や味噌など濃い味のものをなんにでも使うのではなく、少量を味付けのアクセントとして使うのが コツです。塩分が少ない薄味でも美味しく食べるには、香味野菜や香辛料などを使うのも一つの方法。 例えば、ニンニクやショウガ、シソなどの香味野菜や、スパイスや七味唐辛子、ワサビなどの香辛料は、 薄味の料理でも美味しさを引き出してくれます。 また、塩の代わりに酢や柑橘類などの酸味を用いたり、醤油の代わりに、コンブとカツオでとったダシに 少量の醤油を混ぜたダシ醤油を使ったりするのもいいでしょう。 そして、食卓に調味料を置かない工夫も必要です。

そもそも、濃い味付けのものばかりを食べると、食材そのものにある微妙な味わいを感じにくくなってしまいます。 反対に、薄味の料理に慣れると、濃い味の料理は余分な味付けがされていると感じるようになります。 深い味わいを楽しむためにも、新鮮な旬の素材を使って、少しずつ薄味になれていきたいものです。

◆ナトリウム含有量の少ない塩を使おう

塩とひと口にいっても、ふつうの食塩(精製塩)だけでなく、マグネシウム・カルシウム・カリウム・ヨウ素などの ミネラルが豊富な「自然塩」も最近数多く市販されています。 そして、自然塩の中でも、特にミネラルが豊富なのが「藻塩」です。 藻塩とは、海藻のホンダワラやカジメなどを焼いた灰の抽出液を濃縮し、乾燥させて作った塩のことです。 藻塩のミネラル量は、食塩に比べるとマグネシウムは約40倍、カルシウムは約50倍、カリウムにいたっては約500倍 にも上るものがあります。また藻塩は、胃癌の原因になるナトリウムは少ないのが特徴です。 食塩にはナトリウムが約40%含まれていますが、藻塩には、その1/3ほどしか含まれていない製品もあります。 藻塩は、減塩食を簡単に実行する大きな手助けになるでしょう。

【関連項目】:『藻塩』