肩腱板断裂の治療(薬物療法・運動療法・手術)
薬物療法と運動療法が、基本の治療となる
■薬物療法
腱板断裂の治療では、多くの場合、薬物療法と運動療法を行います。
一般的に、治療では、まず炎症を抑え、痛みを和らげるための薬物療法が行われます。
薬物療法では、非ステロイド性消炎鎮痛薬の飲み薬や貼り薬を使い、断裂による炎症を抑え、痛みを緩和します。
就寝中にも痛みがあるときは、プレガバリンやトラマドールを服用します。
痛みが強い場合は、「ステロイド薬」や「ヒアルロン酸液」の関節注射をすることがあります。
7~8割の患者さんは、薬物療法によって炎症が抑えられ、痛みが和らぎます。痛みが和らいだら、運動療法を開始します。
運動療法では、痛みによる刺激で過度に緊張した筋肉をほぐすリハビリを行います。
また、断裂していない他の腱板や肩周囲の筋肉を鍛えて、断裂した側の肩の動きを回復させます。
運動の仕方によっては、断裂を拡大させたり、症状を悪化させてしまうことがあるので、必ず医師や理学療法士の指導に従って行うようにしましょう。
■運動療法では肩の状態を改善させる
一度孔が開いた腱板は、自然に塞がることはありません。孔がさらに大きくなるのを防ぐためには、 運動療法で腱板の周辺の緊張をほぐしたり、腱板を鍛えたりして、断裂した腱板への負担を減らすことが大切です。 運動療法は、開始してもよいかどうかを医師に確認したうえで行いましょう。 また、運動中に痛みが出た場合は、医師に相談しましょう。勧められる運動は「ストレッチ」と「ゴム体操」です。
- ▼ストレッチ
- 腱板が肩甲骨の一部である肩峰に圧迫されて痛むのを防ぐために、腱板と肩峰の衝突を和らげます。
- ▼ゴムバンド体操
- 腱板につながる、棘下筋、小円筋、肩甲下筋、棘上筋を鍛えることができます。 これらを鍛えることで、腕を外側や内側に回したり、上に上げたりする動きをスムーズに行えるようになります。
■肩腱板断裂の手術
断裂した腱板を引っ張り、上腕骨につなげて修復する
薬物療法や運動療法で症状を軽減できない場合や、肩の痛みや動きが改善せず、日常生活に支障があるとき、 短期間に断裂が拡大する場合は手術が検討されます。 孔が開いた腱板は、自然に塞がることはありません。孔がさらに大きくなるのを防ぐには、 運動療法で断裂していない腱板の筋力を増加させることによって、断裂した腱板への負担を減らすことが大切です。 棘上筋の腱板断裂だけでも、肩を使う仕事やスポーツをする人は、手術の対象となることが多いです。 60歳以下では、活動的な生活により断裂が進行することが多く、手術が勧められます。 70歳以上では、適切な薬物療法や運動療法を行うことで痛みが改善し、日常生活に支障がなくなる場合が多いので、手術については医師とよく相談しましょう。 頑固に痛みが続く場合は、手術が検討されます。
手術では、断裂した腱板を上腕骨の骨頭につないで修復する、「腱板修復術」が広く行われています。 肩の一部を切開して断裂部位を直接見ながら行う「直視下手術」と、肩に1cmほどの孔を数か所開けて、 そこから関節鏡を挿入して行う「関節鏡下手術」があります。 現在は、関節鏡下手術が多くの医療機関で行われています。 直接下手術より手術時間はやや長くなりますが、傷跡は小さくて済みます。 直接下手術は、断裂部位が大きい場合や全身の状態から麻酔時間を短くしたい場合などに適しています。 直接下手術は、上腕骨の上部にアンカー(糸付きのネジ)を差し込んで、上腕骨に腱板を繋ぎます。 この手術ができない場合は、大腿筋膜を移植して、上側の関節包を再建する手術を検討します。 最近は70歳以上の患者さんを中心に、リバース型人工関節置換術を行うことがあります。 多くは手術により肩の痛みや動きが日常生活に支障のない程度まで回復可能です。 ただし、回復には、筋力トレーニングなどのリハビリを長期間続けることが重要です。
●約半年で腱板が上腕骨に固定される
手術後、数週間は腱板をしっかり固定しておく必要があるため、多くの場合、入院が必要になります。 退院後は低下した筋力を回復させるために、通院してリハビリテーションを行います。 ただし、手術後の腱板の強度は断裂部位の大きさや患者さんの年齢などによって異なります。 したがって、個々の患者さんに応じたリハビリテーションが必要です。 リハビリテーションの方法は、担当医の指導を受けましょう。 一般的に、手術後、腱板が上腕骨にしっかり固定されるまでには、約半年間かかるとされています。 また、日常生活では無理に肩を動かすと、再び腱板が断裂する危険性があるため、水泳やテニスなどのスポーツは控え、 腱板に負担がかからないように生活することが大切です。