肩腱板断裂

60歳以上の人の肩の痛みの原因で多いのが肩腱板断裂です。 「肩腱板断裂」は、擦り切れるように鍵盤に孔が開き、痛みが生じます。 多くの場合、薬物療法と運動療法で、肩の動きや痛みが改善します。 症状が改善しない場合には、手術が検討されることもあります。 五十肩のように自然に治ることはほとんどないため、整形外科を受診しましょう。


■肩腱板断裂の原因と症状

『肩腱板断裂』は、肩の腱板に孔が開き、痛みが生じる肩痛です。 肩関節は主に上腕骨頭と肩甲骨から成り、上腕骨頭と肩甲骨は「腱板」という板状の腱で繋がっています。 腱板は4つあり、肩関節の後方にある腱板(棘下筋腱、小円筋腱)は腕を外側に回すときに、前方にある腱板(肩甲下筋腱)は腕を内側に回すときに働きます。 肩関節の上部にある腱板(棘上筋腱)は、腕を上げるときに働くもので、最も断裂しやすい部位です。 肩腱板断裂には、腱板が完全に断裂する完全断裂と、一部が切れる不全断裂とがあります。 肩を強打した場合などには腱板が完全に切れることもありますが、ほとんどの場合、靴下が擦り切れるように腱板が擦り切れ、孔が開いた状態になります。 男女差はなく、利き腕の肩にやや多く発症します。60代から発症する人が増え始め、80歳代では、約3割の人に見られます。 肩腱板断裂が最も起こりやすいのは、腕を上げるときに使う棘上筋です。 重い荷物を持つ仕事なので肩を酷使している場合、転倒などによる外傷がある場合です。 利き腕の肩にやや多く発症します。

肩腱板断裂が起こると、「腕の外側が痛む」「腕を動かすと痛む」「夜眠れないほど痛む」など、「五十肩」と共通した症状が現れます。 また、腱板に孔が開き、肩関節が不安定になるため、腕を上げる動きに支障が出ます。 腱板断裂は、長年肩を酷使し続けた人に起こりやすく、肩を使う機会の多い職業の人や、転倒して肩を打ち付けたり、スポーツで肩を激しく動かすなど、 肩に強い衝撃が加わった時に、急に起こることもあります。また、60歳代で約5人に1人と、加齢とともに増える傾向にありますが、 肩の酷使やけがなどによる強い衝撃がなくても、40歳代で発症することもあり、体質的な要因も関係があると考えられています。

腱板断裂は、腱板が切れた場所に炎症が起こり、その炎症の程度や肩を動かす角度によって痛みが生じることがあります。 約4割の人は痛みなどの症状を伴いますが、残りの約6割の人には痛みがみられないとする報告もあります。 特に高齢者は、激しい動きをしなくなるため、痛みを感じにくいことがあります。 ただし、痛みがない人でも、何らかのきっかけで痛みを感じるようになる可能性があります。 また、断裂が大きくなったり出血や炎症が起こると、強い痛みが現れたり筋力が低下したりします。 上腕二頭筋が不全断裂すると、肩を動かすたびに擦れて痛みが出ます。 ただし、完全断裂してしまうと、擦れなくなり痛みがなくなります。
腱板断裂は自然に治ることはありません。肩から上腕部にかけて痛みを感じるようなら、整形外科の受診をお勧めします。 特に痛みが徐々に悪化している場合や痛みが強い場合は、断裂が広がっている恐れがあるので、早めに受診しましょう。 診断は、問診、MRI(磁気共鳴画像)や超音波による画像検査などで行います。


●五十肩とは異なる特徴もある

肩腱板断裂が起こると、「腕の外側が痛む」「腕を動かすと痛む」「夜眠れないと痛む」など「五十肩」と共通した 症状が現れます。また、腱板に孔が開くことで肩関節が不安定になり、腕を上げる動きに支障が出ます。 腕を上げられることもありますが、「重い荷物を上げられない」「ビールのジョッキを持ち上げて乾杯することができない」など、 力が入らないという場合もあります。 五十肩の場合、腕を上げることが困難になり、痛みのない側の手で補助しても腕を上げることができなくなります。 しかし、肩腱板断裂の場合は肩の力を抜き、痛みのない側の手で補助すれば、腕を上げられることが多くあります。


■肩腱板断裂の治療

薬物療法と運動療法が治療の基本となる

肩腱板断裂かどうかを調べるためには、まず「視診」や「触診」が行われ、肩の筋肉の状態や動きの制限の有無などが確認されます そして、確定診断のために、MRI検査が行われます。MRI検査では水が白く(高輝度)映る条件で撮影した場合、 腱板は黒く(低輝度)映り、腱板に断裂している部分があると、そこに関節液が入り込むため、白く(高輝度)映ります。 一般的に肩腱板断裂の治療では、まず炎症を抑え、痛みを和らげるための薬物療法が行われます。 「消炎鎮痛薬」の内服薬や貼付薬が用いられるほか、痛みが強い場合は「ステロイド薬」や「ヒアルロン酸」 を肩に注射することもあります。7~8割の患者さんは、薬物療法によって炎症が抑えられ、痛みが和らぎます。 痛みが和らいだら、運動療法を開始します。薬物療法や運動療法を行っても症状が改善しない場合などには、手術が検討されます。


■手術で断裂した腱板を上腕骨頭につなぐこともある

手術では、断裂した腱板を上腕骨頭につないで修復する「腱板修復術」が行われます。 肩の一部を切開して断裂部位を直接見ながら行う「直視下手術」と、肩に1cmほどの孔を数か所開けて、 そこから関節鏡を挿入して行う「関節鏡下手術」が多くの医療機関で行われています。 手術後、数週間は腱板をしっかり固定しておく必要があるため、多くの場合、入院が必要になります。 退院後には、低下した筋力を回復させるために、通院しながら、個々の患者さんに応じたリハビリテーションが行われます。 一般的に、手術後、腱板が上腕骨にしっかり固定されるまでには、約半年間かかります。 修復された腱板が再断裂しないように、日常生活では注意して、水泳やテニスなどの運動は控え、 腱板に負担がかからないように生活することが大切です。