石灰沈着性肩関節周囲炎

石灰沈着性肩関節周囲炎は、非常に強い痛みが特徴です。 まずは薬物療法や石灰を吸引する治療などで強い痛みを和らげ、痛みが和らいで来たら、運動療法を行います。 肩の動きを改善したり、腱板を鍛えたりする運動も大切です。


■「石灰」による肩の激痛

非常に強い肩の痛みが、特に夜間に起こりやすい

「石灰沈着性肩関節炎」は、肩関節の周辺に石灰(カルシウム)が沈着して非常に強い痛みが起こる病気です。 強い痛みによって肩を上げられなくなるなど、運動が制限されるため、日常生活に支障を来すことも少なくありません。 肩関節は、主に上腕骨と肩甲骨から成り、上腕骨には腱板がつながっています。石灰は肩関節の周辺のさまざまな部位に 沈着することがありますが、最も多いのは棘上筋から繋がる腱板(棘上筋腱)部分です。 石灰が沈着すると、体内では石灰を異物とみなして排除しようとするため、強い炎症作用反応が起こります。 その結果、突然非常に強い痛みが生じるのです。
肩関節の周辺に沈着した石灰は、最初は濃厚な牛乳のようなドロドロっとした液状で、進行するにつれて、練り歯磨きのような形状、 さらにはチョークの粉のような形状へと変化していきます。沈着する石灰の量が増えてくると腱板の周辺にある活液胞が圧迫され、 炎症が起こることでも痛みが生じます。 石灰が沈着しているかどうかは、エックス線検査で分かります。沈着した石灰が白く映っていれば、 石灰沈着性肩関節周囲炎と診断されます。


●五十肩と共通する点も多い

石灰沈着性肩関節周囲炎が起こる原因はまだよくわかっていませんが、40~50歳代の女性に多く見られます。 主な症状は、「突然激しく痛む」「腕を動かすと痛む」「夜眠れないほど痛む」などです。 これらは、「五十肩」と共通した症状ですが、石灰肩関節性肩関節周囲炎では、 五十肩よりも激しい痛みが、特に夜間や明け方に起こるのが特徴です。 症状は、共通していても石灰沈着性関節周囲炎と五十肩では対処法化が異なります。 気になる症状がある場合は自己判断をせずに、整形外科を受診してください。


■まずは薬物療法などで強い痛みを和らげる

治療では、まず強い痛みを和らげるために「薬物療法」が行われます。主に用いられるのは、炎症を抑える作用のある 「消炎鎮痛薬」の内服薬や貼付薬です。痛みが強い場合には、「局所麻酔薬」「ステロイド薬」を肩に直接注射します。

●石灰を吸引することもある

石灰が沈着し始めた初期には、注射器で液状の石灰を吸引する治療が行われることがあります。 X線で石灰が溜まっている部位を確認し、そこに注射針を刺して石灰を吸引します。 石灰が固まってできている場合には、生理食塩水や局所麻酔薬を注入し、石灰を溶かしながら吸引する方法もあります。 まれに石灰が大きな塊になり、強い痛みが生じることがあります。このような場合には、手術が検討されます。 「直視下手術」や「関節鏡下手術」によって、腱板内に沈着した石灰を取り除きます。

●痛みが和らいで来たら

治療によって痛みが和らいで来たら、運動療法を行います。夜間に眠れるようになったら、運動療法を開始しましょう。 運動療法の目的は、痛みや炎症によって悪くなっている肩関節の動きを改善することと、石灰の沈着によって 傷んでいる腱板を強化することです。効果的な運動は2つあります。 1つ目は、「おじぎ体操」です。腱板と肩峰の衝突を和らげることができます。 2つ目は、「腱板強化体操」です。両手で押しあうように力を入れることで、腱板につながる筋肉(肩甲下筋、棘下筋、小円筋) を強化することができます。 運動療法は重要な治療の一つで、正しく続けることで肩の動きを改善していきます。 しかし、炎症や痛みが強いときは逆効果になるため、運動は行ってはいけません。 また、運動中に痛みが出た場合は、正しく行えていない可能性があるため、医療機関を受診し、医師や理学療法士に相談しましょう。 運動後、しばらくたっても痛みが続いたり、翌日になっても痛みが続いたり、違和感が残る場合は、 運動を行いすぎていると考えられます。回数を減らし負担を軽くして、痛みが残らなくなってきたら、 少しずつ回数を増やしましょう。


◆おじぎ体操

  • 椅子に座り、両手を机やテーブルの上に置き、痛みのある側の手首を反対側の手でつかむ。
  • お辞儀をするように体をゆっくりと前に倒すとともに、痛みのある腕を反対側の手で前方へ引っ張る。
  • できるところまで引っ張ったら5秒間保ち、元に戻す。
  • これを繰り返す。

◆腱板強化体操

  • 痛みのある腕を約90度に曲げる。
  • 痛みのある側の手の甲に反対の手のひらを添える。
  • 痛みがある腕は外側に向けて、反対の腕は内側に向けて力を入れ、5秒間保ち元に戻す。
  • これを繰り替えす。
  • 痛みのある側の腕を90度に曲げ、手のひらに反対側の手のひらを添える。
  • 痛みのある腕と、反対側の腕のどちらも、内側に向けて力を入れ、5秒間保ったら、元に戻す。
  • これを繰り返す。

体操を行ったら、最後に自然に下ろした状態で、肩を軽く回す運動をクールダウンとして行う。