食物繊維の摂取に『大麦』
日本人に不足している食物繊維ですが、 摂取によるメタボリックシンドロームの予防効果が期待されています。 その供給源として穀類、中でも『大麦』に今、関心が集まっています。
■食物繊維
食物繊維は、第五次栄養所要量で初めてその必要量が設定され、日本食品成分表にも食物繊維の含量が記載される ようになりました。また、国民健康・栄養調査によって栄養素の摂取実態が明らかにされるようになり、 その結果を食事摂取基準と照らし合わせてみると、最も不足しているのが食物繊維です。 日本人の食物繊維摂取量の年次変化を見ると、1960年ごろまでは穀類が最も重要な供給源でした。 その後その割合は低下し、現在では野菜からの摂取量が最も高くなっています。 諸外国では、この食物繊維を未精白の穀類で摂取することが推奨されています。 欧米の疫学研究では、食物繊維の摂取量、とりわけ穀類の食物繊維摂取量は心臓病の発症率や死亡率、 糖尿病の発症率に影響することが明らかになっています。
■日本人の主食に麦飯を
私たちの主食である精白米は、穀類の中でも最も食物繊維量が少ない穀類です。このことが、日本人の食物繊維摂取量が 少ない原因となっています。これに対して、大麦は精白しても食物繊維量は精白米の20倍となります。 ある試算では、「健康日本21」で推奨されている野菜350g、食事バランスガイドで示されている果物150gを 摂取するように食生活を改善しても、食物繊維は3.2g不足しています。しかしその不足分は、現在摂取している精白米に 2割の大麦を加えて麦飯にすることで補えることがわかりました。
麦飯を勧める理由は、単に食物繊維量が確保できるためだけではありません。 大麦に含まれる食物繊維の効果は、他の穀類の食物繊維に比べて際立っています。 大麦は食後の血糖値上昇が極めて低い、すなわちグリセミックインデックス(GI値)の低いことが挙げられます。 このことから、大麦は糖尿病の予防や治療に有効な食品といえます。 また大麦は、脂質異常症の人の血中コレステロールを下げる効果があります。 ある実験で、5割の麦飯を脂質異常症の男女に1日に2回、2週間食べてもらったところ、総コレステロールや LDL-コレステロールが低下することが確認されました。2006年米国で、一定量の大麦を含む食品を摂取すると 血中コレステロールが下がり、心臓病のリスクが低下することを食品に表示することが認められました。 米国では、科学的な根拠があれば疾病リスク低減表示を認めていますが、大麦にこれを認めたのです。 米国では大麦に高血圧の改善効果があることも報告されています。 さらにメタボリックシンドロームに対する大麦の効果試験では、腹部内臓脂肪面積、胴回り、BMI、体重が 白米摂取群より有意に低下することが確認されています。
■なぜ大麦に効果があるのか
大麦の胚乳の細胞壁には、β-グルカンといわれる水溶性食物繊維が含まれています。 米国では、このβ-グルカンの量を指標としてコレステロール低下作用を考えています。 おそらく、細胞壁のβ-グルカンが細胞内のでんぷんの消化を邪魔することで、食後の血糖値やインスリン分泌を 低く抑えるためと考えられます。また、β-グルカンは食物中のコレステロールの吸収も抑制すると考えられます。 しかし、大麦の効果をβ-グルカンだけで説明できるかは不明なところもあり、今後の研究課題となっています。
■最後に
現在、大麦の品種改良や加工については日々進歩しており、たとえばβ-グルカン含量の高い品種や糯種といわれる 味のよい品種改良が行われています。加工方法も従来の押し麦以外に米粒麦(米粒のように加工)、 大麦麺や大麦パンなどもつくられています。麦飯は日常的に摂取できる点で優れていますが、 さまざまな調理や食品への加工も進められています。