筋肉が衰えると

加齢などで筋肉量が減少する「サルコペニア」は、転倒や骨折だけでなく、さまざまな病気が発生するリスクを高めます。


■筋肉の量や質が低下する「サルコペニア」

筋肉では、古いものが壊される「分解」と新しいものが作られる「合成」が常に繰り返されています。 しかし、加齢や運動不足、栄養不足がなどが続くと、筋肉の分解が合成を上回り、筋肉の量や質が低下してしまいます。 このような状態を「サルコペニア」といいます。 高齢者では一般に、下半身の筋肉から減少するため、サルコペニアがあると、歩く速度が遅くなったり、入浴やトイレなどの動作がしづらくなったりします。 また、体のバランスを保つ機能が低下し、転倒や骨折のリスクが高まります。 筋肉は動かすことで筋肉量が増えて大きくなります。逆に運動不足になると筋肉量が減少し、筋力が低下してしまいます。 運動をして質の良い筋肉を作るには、食事も大切です。十分な栄養を摂らずに運動をすると、かえって筋肉が細くなることがわかっています。

加齢に伴う下肢筋肉量の変化

●サルコペニアの診断

サルコペニアの診断には、アジアの診断基準である「AWG2019」が用いられています。 まずは「筋力」と「身体機能」を調べ、どちらか1つでも低下している場合は、筋力量を測定します。

▼筋力・身体機能の測定
握力が、男性では28kg未満、女性では18kg未満の場合、筋力低下と判定されます。 また、歩行速度が1.0m/秒未満の場合、身体機能低下と判定されます。

▼筋肉量の測定
一般に、弱い電流を体に流して測定する「BIA(生体電気インピーダンス)法」が用いられています。 手足の筋肉の重量を身長(m)の2乗で割った数値が、男性では7.0kg/㎡未満、女性では5.7kg/㎡未満の場合、サルコペニアと診断されます。

サルコペニアの診断基準

■サルコペニアによって起こりやすい病気

筋肉量が減少すると、次のような病気が起こりやすくなります。

▼感染症
筋肉量は栄養状態を表す指標の1つであり、筋肉量の減少は栄養状態の悪化を示しています。 栄養状態が悪くなると、免疫細胞の1つであるリンパ球が減少して、免疫の働きが低下し、感染症が起こりやすくなります。

肺炎
サルコペニアによってむせやすくなったり、痰をうまく排出できなくなったりして、肺炎が起こりやすくなります。

▼糖尿病
筋肉には、一時的に糖を蓄える役割があり、血糖値を調整しています。 筋肉量が減ってしまうと、糖を蓄えにくくなり、血液中の糖が増えます。 こうして血糖値が高くなりやすくなったり、変動しやすくなったりして、糖尿病を発症するリスクが高まります。

■サルコペニアのセルフチェック

サルコペニアのセルフチェックとしては、「指輪っかテスト」や「5回椅子立ち上がりテスト」があります(下図参照)。 指輪っかテストでは、ふくらはぎの筋肉量が、体格に比べて十分に維持されているかどうかがわかります。 両手の親指と人差し指で作った輪っかより、ふくらはぎが細ければ細くなるほど、サルコペニアのリスクが高くなります。 5回椅子立ち上がりテストは、椅子から立ち上がって座る動作をできるだけ速く繰り返すことで、身体機能が低下しているかどうかを判断します。

サルコペニアのセルフチェック


■筋肉の材料となるたんぱく質をしっかり摂る

効率よく筋肉量を増やすには、適度な運動とともに十分に栄養を摂ることが必要です。 特に、筋肉の材料となるたんぱく質をしっかり摂ることが重要です。 肉や魚、牛乳などに多く含まれている動物性たんぱく質は、吸収がよく、体内で筋肉の材料として効率よく利用されます。 ただし、脂質が比較的多いため、摂り過ぎには注意が必要です。
植物性たんぱく質を多く含む豆類などは、動物性たんぱく質を多く含む食品に比べ、エネルギー量が抑えられるため、量をしっかり摂ることができます。 動物性たんぱく質と植物性たんぱく質はバランスよく摂ることが大切です。 肉や魚の主菜を1日に2回、その他に、チーズ、牛乳、ヨーグルトなどの乳製品、豆腐、納豆、卵などを加えることで、適量のたんぱく質を摂ることができます。 また、たんぱく質は、ビタミンD と一緒に摂ることで、効率的に筋肉量を増やすことができます。ビタミンDは、魚やキノコ類などに多く含まれています。

1日に必要なたんぱく質の量


■その他

【舌や喉の筋肉を鍛えるトレーニング】

サルコペニアがあると、手脚の筋力だけでなく、噛む力や飲み込む力、呼吸する力も低下します。 そうすると、しっかり噛むことができなくなって、柔らかい物ばかりを食べるようになり、 さらに噛む力や飲み込む力などが低下して悪循環に陥る恐れがあります。 予防のためには、口や喉、呼吸のトレーニングに積極的に取り組むことが勧められます。 舌や喉の筋肉を鍛えるには、舌先を上あごに強く押し付け、5~10秒間保つトレーニングを10回1セットとし、1日2回行うとよいでしょう。