便秘の治療薬

便秘の治療薬には「浸透圧下剤」「ポリカルポフィルカルシウム」など、便の性状を調整する薬、 「刺激性下剤」「自立神経作用薬」など、腸の蠕動運動を促す薬が主に用いられています。


■浸透圧下剤

浸透圧を利用して大腸壁から腸内に水分を移行させ、便を軟らかくする薬です。 「塩類下剤」「膨張性下剤」「浸潤性下剤」「糖類下剤」などがあります。

▼塩類下剤
「酸化マグネシウム」「水酸化マグネシウム」「炭酸マグネシウム」「硫酸マグネシウム」「人工カルルス塩」「乾燥硫酸ナトリウム」などがあり、 これらの物質が大腸内を通っていくと、それを希釈しようとして腸壁から水分が分泌されます。 水分を多く含む軟らかい便にすることで排泄しやすくする薬で、「軟下剤」ともいわれます。 作用が穏やかで、副作用が少なく、便秘治療の基本的な薬として広く用いられています。 通常1日3回、食事ごとに服用します。 ただし、腎障害のある人では、マグネシウムやナトリウムなどを尿から十分に排泄できず、 血液中に多くなってしまうことがあるので要注意です。

▼膨張性下剤
水分を吸収して便を膨張させ、便のかさを増やす薬です。 「カルメロースナトリウム」「カンテン」という薬があります。
食物繊維を薬で摂るようなもので、作用が穏やかで安全性も高いのですが、 口に入れたときから水分を吸収し始めてしまうため、飲みにくく、 最近では同じような作用を持つ「ポリカルポフィルカルシウム」を用いることが多くなっています。

▼浸潤性下剤
硬い便に水分を浸透させて軟らかくし、出しやすくする薬で、 「ジオクチルソジウムスルホサクシネート・カサンスラノール」という薬がありますが、最近ではあまり使われなくなっています。

▼糖類下剤
「ラクソース」という薬があり、産婦人科の手術や子供の便秘などに用いられますが、一般的な便秘薬ではありません。

■ポリカルポフィルカルシウム

「過敏性腸症候群治療薬」として登場した薬で、 腸内に水分を保持して便を軟らかくし、便のかさを増やすことで、スムーズな排便を促します。 膨張性下剤と同様の原理ですがポリカルポフィルカルシウムは、腸に到達してから水分を吸収して膨らむので、より使いやすい薬です。 便の物理的な性質を整えるような薬で、水分を少なくすることもできるため、便秘ばかりでなく下痢の改善にも用いられます。 ポリカルポフィルカルシウムは、消化管を通過するだけで、体内に吸収されないという点でも、安全性が高い薬といえます。 そのため、便秘の治療にまずこの薬を用いることも多くなっています。 通常、1日3回、毎食後に服用します。


■刺激性下剤

腸を刺激することにより排便を促す薬で、主に弛緩性便秘に用いられます。 痙攣性便秘の人が用いると、痙攣が強くなって、ひどい腹痛を起こすことがあります。 現在使われている刺激性下剤は、主に大腸を刺激するものです。

▼大腸刺激性下剤
大腸を刺激して、蠕動運動を活発にし、便を推し進める力を強める薬です。 下剤としての作用は浸透圧下剤より強いのですが、習慣性も現れ易く、長期使用には、注意を要します。
大腸刺激性下剤は、次の2種類に大きく分けられます。

【アントラキノン系】
「アロエ」「センナ」「センナエキス」「センナ・センナ実」「センノシド」「ダイオウ」「ダイオウ・センナ配合剤」「複方カンゾウ」など、 古くから便秘の治療に使われてきた生薬やそのエキスがほとんどです。用い方は、夜服用して翌朝の排便を促すのが基本です。 アロエやセンナなどは植物ですが、これらの薬を使っていると、植物のアクが腸の粘膜に沈着して細胞に黒っぽい色素が増えることが知られており、 連用すると薬の量がしだいに増えていく傾向があります。市販の便秘薬の多くはこの種類の薬です。

【ジフェルニルメタン系】
腸内細菌が作る「ジフェルニルメタン」という物質によって大腸の粘膜を刺激するもので「ピコスルファートナトリウム」という薬が使われています。 刺激性下剤としてはアントラキノン系より習慣性が少ないとされ、薬の量を調節することによって作用の強さを加減しやすいため、広く用いられています。 お年寄りや子供でも使える薬です。 用い方は、1日1回、夜寝る前に飲んで、翌朝の排便を促すのが一般的です。 錠剤、カプセルなどのほか、液剤があります。液剤の場合は、コップの水に数滴落として服用するため、微妙な量の調整もしやすいといえます。

▼直腸刺激性下剤
肛門から注入し、直腸を刺激して排便を促す座薬です。 直腸の粘膜を直接刺激する「ピサコジル」と、炭酸ガスを発生させて直腸の内圧を高めて排便を促す「炭酸水素ナトリウム」という薬があります。 即効性があり、数分~30分ほどで効果が現れますが、習慣性があり、連用すると効きが悪くなるので、 適応は、大腸刺激性下剤で改善できない頑固な便秘など、特殊なケースに限られます。

▼小腸刺激性下剤
小腸の粘膜を刺激して排便を促す薬で、即効性があり、数時間で効果が現れます。 「ヒマシ油」という液剤が古くから使われていましたが、飲みにくいため、現在ではほとんど使われなくなっています。

■自律神経作用薬

自律神経に働きかけて、腸の動きを調整する薬です。 「ネオスチグミン」「塩化カルプロニウム」などの副交感神経を刺激して腸の動きを活発にする薬が、弛緩性便秘に用いられています。 通常、下剤の補助として主に大腸刺激性下剤と併用されます。 この種類の薬は、自律神経を介して腸をいっせいに動かすので、排便を促す効果は高いのですが、 体内に吸収されて全身に影響するため、あまり使われなくなっています。 特に、不整脈のある人、妊娠中の人は、なるべく使用を避けます。


■浣腸薬

肛門から注入して、直接直腸を刺激する液剤で、「グリセリン」が使われています。 もっとも強力な下剤ですが、習慣性があるので、適応は限られます。 肛門近くの便が硬くて、内服薬の作用だけではどうしても排便できないときなど、 急場処置に用いるのは止むを得ませんが、できるだけ浣腸薬に頼らないようにしましょう。 妊娠中に使うと流産を促す可能性があるので、原則として使用を避けます。


■その他の薬

激しい痙攣性便秘には、自律神経作用薬と反対に、副交感神経を遮断して腸の動きを抑制する作用のある「抗コリン薬」が用いられることもあります。 その他、消化機能全体を高める目的で、消化管の運動を促す作用のある「クエン酸モサプリド」や「メトクロプラミド」などを用いたり、 整腸薬を併用することもあります。 過敏性腸症候群では、抗不安薬や抗うつ薬の併用が有効な場合もあります。