過活動膀胱の薬

突然強い尿意が起こり、我慢できなくなる「過活動膀胱」。 トイレが近くなったり、トイレが間に合わずに尿漏れを起こすことがあります。 こうした症状に悩んでいるなら、で改善できることがあります。


■過活動膀胱

膀胱が勝手に収縮して急に尿意を催す

過活動膀胱は、2002年に専門家の学会で定義された比較的新しい病気の概念です。 名前は聞いたことがあるが、どんな病気かよくわからないという人も多いかもしれません。 症状によって診断される病気で、必須症状とされるのが「尿意切迫感」です。 急に強い尿意が起こって我慢するのが難しい状態で、通常は「頻尿」「夜間頻尿」を伴います。 人によっては、我慢しきれずに尿が漏れる「切迫性尿失禁」を伴うこともあります。 中高年の人に多く見られ、40歳以上で過活動膀胱のある人は、全国で約810万人以上に上ると推定されています。 原因はさまざまで、「神経因性」「非神経因性」に大きく分けられます。

▼神経因性
脳血管障害などの脳の病気、脊髄損傷などの脊髄の病気により、膀胱が勝手に収縮する「不随意収縮」が起こります。

▼非神経因性
最も多いのが原因不明の「突発性」で、老化などとの関連が考えられています。 男性では前立腺肥大症、女性では膀胱や子宮など骨盤内の臓器を下から支えている骨盤底のゆるみが関わることも多くみられます。

医療機関の治療としては、一般に、まず薬物療法が行われます。併せて、症状を起こしにくくするための「行動療法」 が勧められます。


●どんな薬?

過活動膀胱の治療薬としては、下記の表のようなものがあります。 従来、主に用いられているのが「抗コリン薬」です。2011年から「β3受容体作動薬」のミラベクロンも使われるようになっています。


分類名 一般名 代表的な製品名 剤形 基本的な使い方
抗コリン薬 トルテロジン デトルシトール カプセル 1日1回服用
ソリフェナシン ベシケア 錠剤、口腔内崩壊錠 1日1回服用
イミダフェナシン ウリトス 錠剤、口腔内崩壊錠 1日2回、朝・夕食後に服用
ステーブラ 錠剤、口腔内崩壊錠
プロピベリン バップフォー 錠剤・細粒 1日1回食後に服用
オキシブチニン ポラキス 錠剤 1日3回服用
β3受容体作動薬 ミラベグロン ベタニス 錠剤 1日1回服用


■過活動膀胱の薬の使い方

●過活動膀胱の薬はどのように使う?

【質問】
過活動膀胱の治療薬は、1日1~3回服用します。最近の薬は作用時間が長く1日1回服用というものが多いです。 1日1回飲む薬は、飲むタイミングによって効果や副作用に違いはあるのだろうか?
【答】 基本的にはいつ飲んでもよいのですが、1日1回の服用で有効な血中濃度が保たれるとはいえ、薬を飲んだ後血中濃度は 一度上がってから徐々に下がってくることになります。そのため、例えば、特に夜間頻尿の改善を目的にする場合に、 夕食後や寝る前に飲んで、血中濃度の高い時間帯を夜間に合わせるなどの工夫をすることはあります。 抗コリン薬の副作用による口の渇きなども、夜に薬を飲んで寝てしまえば気にならないという人もいます。

【質問】
薬はずっと飲み続けなければならない?
【答】 過活動膀胱の薬は病気そのものを治すというものではないので、基本的には飲み続けることになります。 ただし、患者さんの中には、寒い時期には症状がひどいけれども、暖かい時期には症状があまり出ないという人もいます。 そういう人は、暖かくなって調子がよくなれば薬をやめ、寒くなってまた症状がつらくなったら使うという方法もあります。 また、日中はそれほど症状はないが、夜間にトイレに起きるのが苦になるという人は、作用時間の短い薬を寝る前にだけ飲むのも一つの方法です。

●前立腺肥大症を合併している場合は?

【質問】
高齢の男性では、前立腺肥大症がある人も多い。過活動膀胱がある場合、どのように薬を使っていくのか?
【答】 前立腺肥大症があれば、まずα1受容体遮断薬を使います。それで効果が不十分なら、少なめの量の抗コリン薬を併用すると 有効なことがあります。ただし、前立腺肥大症のある人が抗コリン薬を用いる場合は、あらかじめ尿の出方や残尿の検査を行い、 治療を始めてからも、副作用で残尿が増えたり、尿が出にくい症状が現れたりしていないか、きちんとチェックしていく必要があります。

●腹圧性尿失禁を合併した尿漏れがある場合は?

【質問】
腹圧性尿失禁を合併した尿漏れがある場合は?
【答】 尿漏れは女性に多い悩みですが、タイプ別に見ると、骨盤底が緩んでお腹に力が加わった時に尿が漏れる「腹圧性尿失禁」 が約5割、過活動膀胱による切迫性尿失禁が約2割、両者が合併した「混合性尿失禁」が約3割と言われています。 過活動膀胱がある人にも、腹圧性尿失禁を併せ持つ人は少なくありません。 抗コリン薬などの過活動膀胱の薬を飲めば切迫性尿失禁は治まるかもしれませんが、腹圧性尿失禁には効果がありません。 両者が合併している場合は、薬の服用と併せて、腹圧性尿失禁を改善するための「骨盤底筋体操」が勧められます。 肛門や膣の辺りの筋肉を締めたり緩めたりして骨盤底の筋肉を強化する体操で、最近では、過活動膀胱にも効果があることがわかってきました。 腹圧性尿失禁が重症の場合は手術を行うこともあり、手術後の、合併していた切迫性尿失禁も改善することがあります。

●抗コリン薬の副作用への対処法は?

【質問】
口の渇きが気になるときは?
【答】 水を少しずつ飲んだり、飴をなめたり、ガムを噛んだりして、なるべくやり過ごすようにしましょう。 水をたくさん飲むと尿量が増えてしまうので注意してください。

【質問】
便秘が起きた場合は?
【答】 まずは一般的な対処法として、食物繊維の多い食事、運動などを心がけてください。 時に、薬を処方した医師に伝えずに下剤を使っている人がいますが、便秘に限らず、抗コリン薬の容量を減らしたり、 種類を替えれば副作用が軽くなることもあります。抗コリン薬が使いにくいなら、β3受容体作動薬を使うのもよいでしょう。

【質問】
薬を飲み続けてはいけないこともある?
【答】 尿が出にくくなった時は、抗コリン薬の服用はやめて医師に相談してください。

●薬を使っているときに注意することは?

【質問】
注意する薬の飲み合せは?
【答】 β3受容体作動薬は、不整脈の薬との併用を避けたほうがよいと言われています。

【質問】
飲食物で注意が必要なものは?
【答】 過活動膀胱の薬を飲んでいるっから食べられないというものは特にありませんが、水を飲み過ぎている人は少なくありません。 「排尿日誌」をつけると、日中と夜間の量もわかります。明らかに尿量が多ければ、水分摂取量を減らす必要があるでしょう 過活動膀胱による生活の支障を減らすには、行動療法の一つとして進められる生活習慣の改善も役立ちます。