■Q&A

●抗コリン薬の作用とは?過活動膀胱に対する効果は?

【質問】
一般に、過活動膀胱の治療では、まずコリン薬が用いられるが、どのような作用を持つ薬なのか?
【答】 過活動膀胱では、尿が大してたまっていなくても排尿の意思とは関係なく膀胱が収縮するために、頻尿や切迫性失禁などが 起こります。膀胱の収縮は、自律神経系の副交感神経から「アセチルコリン」という神経伝達物質が出て、 膀胱の平滑筋のムスカリン受容体に結びつくことで起こります。抗コリン薬には、ムスカリン受容体をブロックすることで、 膀胱の収縮を起こりにくくさせる作用があります。さらに最近では、過敏になっている膀胱の近くを抑制することもわかって きました。これらにより、排尿回数が減る、尿意切迫感が軽減されて、尿失禁が減るなどの効果があります。

【質問】
飲めばすぐに効果が現れるのか?
【答】 基本的には即効性を期待するというものではなく、飲み続けることでじわじわと効いてくる薬です。 一般に、2週間以内に効果が現れ始め、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月と使い続けるうちにだんだん良くなっていきます。

【質問】
高齢者に多い夜間頻尿にも効果があるだろうか?
【答】 それが過活動膀胱によって起きている場合には、効果が期待できます。ただし、水分の摂り過ぎや高血圧、糖尿病、腎機能や 心機能の低下、体のむくみなどにより夜間の尿量が増えていたり、睡眠障害で何度もトイレに起きてしまうというような場合には、 当然ながら効果は期待できません。夜間頻尿の背景にはさまざまな要因が重なっていることが多く、過活動膀胱の薬だけでは 改善されない部分も多くなりがちです。

●抗コリン薬の副作用は?使えない人もいる?

【質問】
抗コリン薬にはどのような副作用があるのだろうか?
【答】 薬が作用するムスカリン受容体は体中にあるため、唾液腺に作用して口の渇き、腸管に作用して便秘が起きたり、 目に作用して視野がぼやけたり焦点が合わなくなったり、また、脳に入ると認知機能を抑えたりといった副作用が起こることがあります。

【質問】
副作用のために抗コリン薬を使いにくい人もいるのだろうか?
【答】 緑内障の中でも、閉塞隅角緑内障がある人は、発作を誘発する恐れがあるため、抗コリン薬は使えません。 前立腺肥大症がある人も注意が必要です。特に尿が出にくい人が使うと、悪化して尿が出なくなる「尿閉」 を起こすこともあります。

●抗コリン薬の種類による違いは?

【質問】
種類によって向き不向きがあるのだろうか?
【答】 ムスカリン受容体にもいくつかタイプがあり、抗コリン薬の種類によって主に作用するタイプがそれぞれ微妙に違ったりはします。 しかし、治療効果が異なるほどの明らかな作用の違いはないと思ってよいでしょう。 どういう患者さんにどの抗コリン薬がよいというはっきりした使い分けはありません。 ただ、薬の効果や副作用の現れ方は人によっても違うので、ある薬で効果が得られなかった人が他の薬に替えると 治療がうまくいったり、副作用がつらいという人が薬の種類を替えると楽になることもあります。 また、新しい薬は大抵、成分が脳へ入っていかないように作られているのですが、最も古いオキシブチニンは 比較的脳に移行しやすく、認知機能を低下させる恐れがあるため、高齢者には他の薬の方が安全と言われています。

●新しい過活動膀胱の薬は抗コリン薬とどう違う

【質問】
最近、過活動膀胱の治療に使われるようになったβ3受容体作動薬のミラベグロンとはどのような薬なのか?
【答】 日本で開発され、世界で最初に日本で使われるようになった薬で、尿をためているときに膀胱の筋肉を弛緩させる作用があります。 膀胱の拡張を助けて容量を増大させ、尿をためやすくするとともに、不随意収縮も起こりにくくなります。 過敏になっている膀胱の近くも抑えて、尿意切迫感も改善します。そして、排尿する際には膀胱の収縮を抑制しないというのが 特徴です。抗コリン薬のような口の渇きや便秘、排尿困難などは起こりにくくなっています。 抗コリン薬ではこうした副作用のために服薬継続率が低いといわれていたことから、副作用が少ないか活動膀胱の薬として 期待されています。ただし、臨床試験では抗コリン薬とほぼ同等の効果があったとされるものの、広く使われるようになって まだ2年目なので、実際の臨床での効果についてはこれから検証されていくことになります。 今のところは、副作用のために抗コリン薬を使いにくい人などに主に用いられています。

●その他の薬が使われることもある?

【質問】
抗コリン薬やβ3受容体作動薬以外に過活動膀胱に使われる薬は?
【答】 前立腺肥大症のある男性の6~7割が過活動膀胱を合併していると言われます。 その場合の第一選択はα1受容体遮断薬です。この薬には、前立腺や膀胱の出口の筋肉弛緩させて、尿道を緩める効果があります。 前立腺肥大症に伴う排尿困難を改善するとともに、膀胱の不随意収縮が抑えられて、過活動膀胱の症状も併せて改善されます。 前立腺肥大症がある人では、抗コリン薬を用いるとしても補助的に用いて、α1受容体遮断薬と併用することになります。 前立腺肥大症による排尿障害に用いられるα1受容体遮断薬はもともと高血圧の薬で、血管を拡張させて血圧を下げる作用が あります。そのため、副作用で起立性低血圧による立ちくらみやめまいが起こりやすいです。 しかし、近年使われるようになった、前立腺肥大症による排尿障害の治療を目的とする新しいタイプの薬では、 血管拡張による副作用が少なくなって、使いやすくなっています。 その他、過活動膀胱に対する有効性が科学的に証明されているわけではありませんが、一部の漢方薬で過活動膀胱の症状が 改善したという報告もあり、患者さんによってはそういう漢方薬が使われることもあります。 また、頻尿に対しては、古くから使われているフラボキサートなどが用いられることもあります。

【質問】
飲み薬以外の治療法もある?
【答】 海外では「ボツリヌストキシン膀胱壁注入法」も行われています。筋弛緩作用のあるボツリヌス毒素を膀胱壁に 注射するという治療で、抗コリン薬で抑えられないような難治性の過活動膀胱に対して有効性が認められています。 ボツリヌス毒素自体は日本でも眼瞼痙攣、痙性斜頚などの治療や美容目的で使われているものですが、 残念ながら過活動膀胱の治療としては承認されていないので、健康保険診療の中では行えません。