フレイル予防

高齢者の要介護状態に繋がるフレイル。 進行を防ぎ、改善するためには、栄養状態に気を付けることが大切です。


■加齢に伴い起こりやすくなる「フレイル」

「フレイル」とは、加齢に伴って体のさまざまな機能低下が進み、それにより健康障害が起こりやすくなっている状態のことです。 運動機能や認知機能が低下し、介護が必要な状態に陥りやすくなります。 フレイルの状態になる人は、加齢とともに多くなります。また、要介護状態になる人の多くは、フレイルを経ていると考えられます。 フレイルを改善し、健康な状態を取り戻すためには、予防と正しい対処を心がけることが大切です。 フレイルに早く気付くためにも、まずは下のチェックリストで、自分の状態を確認してみてください。

体重減少 意識して減量しているわけではないのに、6ヵ月で2~3kg以上体重が減った
筋力低下(握力の低下) 握力が、男性で26kg未満、女性で18kg未満。
疲労感 ここ2週間、わけもなく疲れたような感じがする
歩行速度の低下 以前と比べて歩くのが遅くなったと感じる。歩く速さが1秒あたり1m未満。
身体活動の低下 ①軽い運動・体操をしている。
②定期的な運動・スポーツをしている。
上記の2つのいずれにも当てはまらない。

◆低栄養に注意

栄養が不足する「低栄養」は、フレイルを進行させます。低栄養になると体重が減少します。 このことによって、筋肉量の減少や筋力低下が起こる「サルコペニア」という状態になります。 サルコペニアになると身体機能が低下します。すると活動量が少なくなり、消費エネルギー量も低下します。 また、食欲が低下し、食事の摂取量が減少して、その結果、低栄養に陥ります。 低栄養によってさらにサルコペニアが進行すると、次第に要介護の前段階であるフレイルに近づいていくという悪循環が加速します。 サルコペニアとフレイルは深く関係しているのです。この悪循環を断ち切り、健康な状態に戻すには、低栄養を改善することが重要です。


■”痩せ過ぎ"に気を付けよう

高齢者に多い低栄養に対処するため、新しく改定された「日本人の食事摂取基準」(2020年版)では、高齢者が目標とするBMI(体格指数)の数値が見直されました。
【目標とするBMI】
(2015年)
50~69歳:20.0~24.9
70歳以上:21.5~24.9
(2020年)
65~74歳:21.5~24.9
75歳以上:21.5~24.9
高齢者が”痩せ過ぎ”にならないように注意を促すため、65歳以上が目標とすべきBMIの範囲を「21.5~24.9」と、下限を引き上げたのです。 高齢者の場合、低栄養による体力低下やサルコペニア、そしてフレイルを防ぐため、目標とするBMIの範囲内に体重を維持するよう、 毎日の食事で最適なエネルギー量を摂取することが勧められます。


■フレイルを予防する食事法

●積極的に摂りたい、タンパク質

高齢者がフレイルになるのを防ぐために、特に重要な栄養素がタンパク質です。 タンパク質の摂取量が不足していると、筋肉を構成しているタンパク質が分解されてエネルギーに変換されるため、 筋肉の質や量が低下し、フレイルを招きやすくなります。 65歳以上では、フレイル予防のために、少なくとも、体重1kg当たり1.0g以上のタンパク質を摂ることが望ましいとされています。 例えば、体重60kgの人では、一日に60g以上という計算になります。 また、65歳以上の人が一日に摂るべきタンパク質の下限が、引き上げられました。 朝食に牛乳をコップ1杯分足し、さらに夕食に豆腐を1/3丁加えると、この引き上げられた分を増やすことができます。

●骨に欠かせない、ビタミンD

フレイル予防のためには、ビタミンDも重要です。 ビタミンDはカルシウムの吸収を助け、 骨を強くするのに欠かせない栄養素です。特に高齢者は、ビタミンDが不足した状態が長く続くと、 骨粗鬆症の発症や骨折の危険性が高まります。 また、ビタミンDは筋肉の合成にも関わっているため、不足すると筋力の低下に繋がります。 つまり、ビタミンDの不足は、骨折や転倒のリスクを高め、結果的に介護の必要な状態へと繋がってしまうのです。 ビタミンDは、魚やキノコに多く含まれているので、意識して食べるようにしましょう。 また、ビタミンDは日光の紫外線を浴びることによって皮膚でも作られます。 フレイル予防のためにも、適度な日光浴が勧められます。

●食事の摂り方を工夫する

フレイルは、食事内容だけでなく、食事の摂り方などの生活スタイルに原因がある場合もあります。 フレイルを重症化させないためにも次の点に注意しましょう。

▼1日3食
高齢になると、1回に食べられる量が減るため、3食食べるようにしないと、1日に必要なエネルギー量やタンパク質が不足します。

▼”孤食”よりも”共食”
家族や友人と一緒にコミュニケーションを取りながら楽しく食べると、「食欲が出る」「品数も増えて、多様な食材を食べられる」ことに繋がり、 低栄養を避けやすくなります。

▼バランスよく食べる
菓子パンや麺類などの単品メニューではなく、肉、魚、卵、乳製品、大豆食品などのタンパク質を多く含む食品を、おかずに1品入れるようにします。 好きなものだけに偏らないようにして、バランスよく食べることが大切です。 冷蔵庫の中に、乳製品や卵などを常備し、サッと出して食べられるようにしておくとよいでしょう。 また、栄養バランスを考慮した食事の宅配サービスなども数多くあります。 自分で料理するのが難しい場合は、これらを利用することが勧められます。

■その他

【食事以外にフレイルの原因があることも】

▼噛む力や飲みこむ力など、口腔機能の低下
入れ歯が合わなかったり、口腔内に痛みがあると、硬い肉や食物繊維の多い野菜などの食材を控えてしまいがちです。 軟らかくて食べやすいお粥やペースト状の食品が中心になると、必要なエネルギー量やタンパク質の不足に繋がります。

▼活動量や味覚・嗅覚の低下
活動量の低下は、筋力の低下とともに、フレイルの危険性を高めます。 また、味覚・嗅覚が低下して味がわかりにくくなると、食欲の減退、唾液の分泌減少などが起こり、食べる量が減って、エネルギー不足に繋がります。