癌の手術後のリンパ浮腫

癌の手術後は『リンパ浮腫』にも注意しましょう。一度発症すると完治しにくく、治療の継続が必要です。 発症しにくくする日常生活を心がけ、発症した場合でも、早期発見、適切な対応で、進行を防ぐことが大切です。

■リンパ浮腫とは

腕や脚などの皮膚の下にリンパ液が溜まってむくむ

「リンパ管」に何らかの障害が起こり、リンパ液の流れが滞って、腕や脚などがむくんだ状態を「リンパ浮腫」 といいます。リンパ管は、血管と同じように私たちの体内に張り巡らされており、その中をリンパ液が、リンパ管の各所にある リンパ節を経由しながら流れていきます。リンパ液には、たんぱく質や脂肪、水分のほか、ウィルスや細菌を攻撃する リンパ球なども含まれています。リンパ管やリンパ節が手術などによって、リンパ液が損なわれると、リンパ節のわきにリンパ管の 脇道ができて、代替して働くようになります。しかし、その脇道は細く働きが弱いため、負担が多くなり過ぎると、 流れが滞ってリンパ液が皮膚の下にたまり、むくみが起こるようになるのです。 進行すると、腕の場合は「力を入れにくい」「重いものを持つのがつらい」「文字を書きにくい」など、 脚の場合は「歩きにくい」「膝を曲げにくい」「階段の上り下りがつらい」など、日常生活に支障が出ることがあります。


●起こりやすい部位

リンパ浮腫のほとんどが、癌の手術や放射線治療を受けたリンパ節の近くに起こります。 例えば、①乳がんの手術でわきの下のリンパ節を切除した場合には手術した側の腕や背中に、②子宮癌、卵巣癌、前立腺癌などの 手術で骨盤内のリンパ節を切除した場合などには脚などに、起こりやすくなります。 同じような手術を受けても、リンパ浮腫が起こるかどうかや、その程度は人によって異なります。 これはリンパ管の脇道の発達の程度やリンパ液の量、生活習慣によって腕や脚にかかる負担などに個人差があるためと考えられます。 また、発症する時期にも個人差があります。最も多いのは治療後2~3年経ってから発症するケースですが、治療直後に発症したり、 5~10年後に発症するケースもあります。リンパ節を切除したりした場合には、リンパ浮腫が起こる可能性は常にあることを 知っておくことが大切です。



■主な治療法と予防法

皮膚を保護して感染を防いだり、リンパ液の流れを促したりする


●セルフチェック

リンパ浮腫に早く気付くためには、次のようなセルフチェックを行うとよいでしょう。

▼感じる
腕や脚に「違和感」「重だるさ」などがあるかどうか、「疲れやすさ」を感じるかどうかチェックします。 これらはリンパ浮腫の初期に感じやすい症状なので、注意が必要です。

▼見る、触る
むくみがあると、皮膚がへこみやすくなるため、「皮膚を指で押すとへこむかどうか」を調べます。 また、血管が片側だけ見えにくい」「皮膚が片側だけしわが寄りにくい」など、腕や脚に左右差があるかどうかをチェックします これらも、リンパ浮腫の初期に起こりやすい症状の一つです。 これらの症状がある場合はリンパ浮腫の可能性が高いといえますが、他の病気でむくむこともあるので、 自己判断せず、医療機関を受診することが大切です。

●主な治療法

主に4つの治療法があります。組み合わせや行い方は、個人によって異なりますので、リンパ浮腫の治療を行っている治療期間で 指導を受けていってください。

▼スキンケア
リンパ管やリンパ節を切除した部位の皮膚は、感染を起こしやすくなっています。皮膚を清潔に保ち、保湿クリームなどを 利用して乾燥を防ぐなど、スキンケアに留意します。

▼リンパ誘導マッサージ
組織の間にたまっているリンパ液を、健康なリンパ管やリンパ節に誘導します。

▼圧迫療法
医療用の「弾性着衣(弾性スリーブやストッキング)」「弾性包帯」などを、むくみのある腕や脚に着用し、 圧迫を加えて組織の間にリンパ液が溜まるのを防ぎます。

▼圧迫しながらの運動療法
弾性着衣や弾性包帯を着用した状態で、適度な運動を行って筋肉や関節を動かし、たまったリンパ液の流れを促します。

●予防法

リンパ浮腫を完全に予防することは困難ですが、発症しにくくすることは可能です。

▼手術した側の皮膚を傷つけない
傷口から細菌が感染して炎症が起こると、リンパ液が増え、リンパ浮腫発症のきっかけになることがあります。 ケガ、やけど、虫刺され、ペットのひっかき傷、乾燥によるひび割れなどにより、手術した側の皮膚を傷つけないように 注意します。例えば、庭仕事をするときには、長袖や長ズボンなど肌を覆う衣服を着用したり、ゴム手袋や長靴を使うなど、 皮膚を保護する工夫をするとよいでしょう。

▼体の一部を締め付けない
ブラジャーやパンツなどの下着、靴下のゴム、服の袖口で体の一部を締め付けると、リンパ液の流れが悪くなります。 体に跡が残るような衣類は避けてください。

▼負担をかけない
腕や脚に負担がかかると、リンパ液の流れが悪くなります。腕の場合は、重いものを長時間持ったり、腕にぶら下げたり しないようにします。脚の場合は、正座、立ちっぱなし、座りっぱなしなど、長時間同じ姿勢でいることも、 リンパの流れを悪くさせます。時々姿勢を変えたり、ストレッチを行うとよいでしょう。

リンパ浮腫は、適切なケアを行うことによって改善するので、早めに気付いて、早期から医師、看護師の正しい指導を受けてください。