C型慢性ウィルス肝炎の治療

副作用の少ない経口薬の登場で「早期治療」が本流に

C型慢性ウィルス肝炎の治療は、インターフェロンによる治療が中心でしたが、 現在では、新しい抗ウィルス薬の登場で、「直接作用型抗ウイルス薬」という飲み薬が中心になっています。 抗ウィルス薬を使うと95%以上の患者さんで、完治が期待できるようになっています。


■C型肝炎

肝癌へ進行する危険性が最も高い肝臓の病気

「C型肝炎」の原因となるC型肝炎ウィルスは、血液を介して感染します。 以前は輸血や血液製剤などから感染が起こっていましたが、1980年にC型肝炎ウィルスが発見されると、 それらの感染経路に対する予防策が取られるようになり、そうした感染は基本的になくなっています。 しかし、違法薬物の注射器などを介する感染は現在もなくなっていません。
C型肝炎ウィルスに感染すると、「急性肝炎」が起こり、そのうち約7割が「慢性肝炎」に移行します。 慢性肝炎の状態を放っておくと、長い年月をかけて「肝硬変」「肝癌」へと進行していきます。 日本人の肝癌はウィルス性肝炎を原因とするものが多く、その中でも最も多いのがC型肝炎です。 C型慢性ウィルス肝炎の治療は進歩しており、ウィルスを完全に排除できる場合が増えてきました。 また、新薬の登場によって、完治が期待できるようになりました。


■インターフェロンによる治療

まずはウィルスの型と量から治療法が選択される

C型慢性ウィルス肝炎の治療法を選択する場合、「ウィルスの型と量」「体質」「耐性ウィルス」が重要なポイントになります。 これらは、血液を採取し、遺伝子から調べられます。ウィルスの型と量、耐性ウィルスはウィルスの遺伝子から、体質は患者さんの遺伝子から明らかになります。

●ウィルスの型と量による治療の選択

日本人のC型肝炎ウィルスの型には主に「1b型」「2a型」「2b型」があります。このうち、2a型と2b型の場合、 1b型でもウィルス量が5logIU/mL未満の場合は、C型肝炎が治りやすいことがわかっています。 C型肝炎の患者さんの約40%が、このタイプに当てはまります。 治りやすいタイプであれば、「ペグインターフェロン」「リバビリン」という薬の併用療法が行われます。治療期間は24週間です。 「インターフェロン」には、抗ウィルスタンパクや免疫の働きを活性化し、体内からウィルスを排除する作用があります。 現在は、従来のインターフェロンより作用時間の長いペグインターフェロンが使われており、週に1回注射します。 ペグインターフェロンは、インターフェロンに比べ、副作用が軽減され、治療期間も短くなります。 リバビリンは、ペグインターフェロンの作用を強める働きをします。1日に2回服用します。


●治りにくいタイプの場合には

インターフェロンが有効かどうかの判断が必要になる

C型肝炎の患者さんの約60%は、1b型でウィルス量が多く、治りにくいタイプとされます。 その場合は、インターフェロンが効きやすい体質かどうかを調べます。 その結果、インターフェロンが効きやすいと判定されたら、インターフェロンとリバビリンに、ウィルス直接阻害薬を併用する、 「3剤併用療法」が行われます。治療期間は24週間です。 ウィルス直接阻害薬は、C型肝炎ウィルスに直接作用する薬で、ウィルスの増殖を抑える働きをします。 3剤を併用することで、体からウィルスを排除する効果が高まります。


●インターフェロンが効かない場合

耐性ウィルスの有無から新薬を待つかどうかが検討される

インターフェロンが効きにくい体質と判定されたら、体内の耐性ウィルスの有無を調べます。 耐性ウィルスとは薬が効かないウィルスのことです。 体内のC型肝炎ウィルスが、治療前や治療中に突然このようなウィルスに変異すると、 薬によって大部分のウィルスが排除されても、耐性ウィルスだけが残ります。 これが増殖すると、薬物療法を行っても全く効かない状態になります。 日本人では、10%以上の人が治療前から耐性ウィルスを持っていることがわかっています。 検査の結果、耐性ウィルスがなければ、薬物療法でウィルスを排除できる可能性があります。 これまで、この状況で選択されてきた治療は3剤併用両方ですが、この方法が効かない場合は、新しい抗ウィルス薬による治療が行われます。


■「直接作用型抗ウイルス薬」による治療

新しい抗ウィルス薬による治療で完治も期待できるように

C型慢性ウィルス肝炎の治療は、インターフェロンによる治療が中心でしたが、副作用が強いなどの問題がありました。 しかし現在、新しい抗ウィルス薬の登場で、飲み薬の抗ウィルス薬が中心になっています。 抗ウィルス薬は、ウィルスに直接作用してウィルスの増殖を抑える薬で、2~3種類を併用します。 治療期間は、抗ウィルス薬の種類によって異なりますが、最短で8週間、最長で24週間です。 抗ウィルス薬を使うと95%以上の患者さんで、完治が期待できるようになっています。 抗ウィルス薬の種類によっては、肝機能障害や、稀に不整脈が出るとの報告がありますが、 薬を中止しなければならないような重い副作用が現れることは、あまり多くありません。 以前は、肝硬変が進行した患者さんは抗ウィルス薬を使うことができませんでしたが2019年に新しい薬が登場し、 ほぼすべての患者さんが抗ウィルス薬を使えるようになりました。


●治療の注意①耐性ウィルス

患者さんへの体の負担が少ない治療法ではありますが、注意点もあります。 ほとんどの患者さんで完治が目指せる抗ウィルス薬による治療ですが、抗ウィルス薬を3ヵ月間使い続けても効果が現れない場合は、 薬の効きにくい「耐性ウィルス」の存在が疑われます。 ウィルスのタイプを調べる「ウィルス遺伝子検査」を受けて、使っている抗ウィルス薬がタイプに合っていなかった場合は、 タイプに合う薬に変更して治療を続けます。 また、もともと体内に耐性ウィルスを持っている人がおり、その場合は、抗ウィルス薬が原因でより強力な耐性ウィルスができてしまうことがあります。 治療を始める前に、ウィルスの遺伝子型を調べる検査を受けるようにしましょう。 タイプに合う抗ウィルス薬を使っていても、薬を飲み忘れるなど適切に使っていないと、耐性ウィルスが現れやすくなります。 現れてしまうと、その薬では効果が得られなくなるので、必ず医師の指示通り、正しく服用してください。


●治療の注意②飲み合わせ

C型肝炎の抗ウィルス薬は、他の病気の薬と同時に使うと、効果がなくなったり、副作用が強まることがあります。 他に服用している薬については、必ず事前に医師に伝え、対応の仕方を相談してください。 また、サプリメントや健康食品にも注意が必要です。治療中はやめるか、必ず医師に相談してください。


■最後に

わが国では、2014年9月、インターフェロンを使わない、飲み薬だけの治療「インターフェロンフリー」治療が始まり、C型肝炎の抗ウイルス治療の主流となっています。 現在ソホスブビル(ソバルディ)とリバビリンの併用療法(12週または24週)、ソホスブビル・レジパスビル配合錠(ハーボニー)による治療(12週)、 エルバスビル(エレルサ)とグラゾプレビル(グラジナ)併用療法(12週)、グレカプレビル・ピブレンタスビル配合錠(マヴィレット)による治療(8週または12週)、 ソホスブビル・ベルパタスビル配合錠(エプクルーサ)による治療(非代償肝硬変に対して12週または再治療に対してリバビリンと併用で24週)が、 ウイルスの型や肝炎の進行度、過去の治療歴の有無などを元に選択して投与されています。 これにより、慢性肝炎から代償性肝硬変までの初回治療の場合、95%以上の人でウイルスを体内からなくすことが可能となっています。 しかも、インターフェロンのような副作用が少なく、これまで、 さまざまの合併症でインターフェロンが使えなかった患者さんでも短期間で安全に治療ができるようになりました。 しかし、それぞれの薬剤には特徴があり、お薬を使えない方や、一緒に飲めない薬がありますので、 どの治療法を選ぶかは、患者さんの状態に合わせて肝臓専門の先生と良く相談することが重要です。 また、過去に、インターフェロンフリー治療を受けていて、ウイルス排除に至らなかった方は、 薬剤が効かなくなっている「薬剤耐性」ウイルスをお持ちの可能性がありますので、肝臓専門医と相談して、次の治療(再治療)を決める必要があります。 このための、肝疾患診療連携拠点病院を中心とした研究プロジェクトも進んでいます。 このようにC型肝炎ウイルスを体内から排除することは容易になりました。


■治療費の問題

抗ウィルス薬による治療は非常に有効で、患者さんの体への負担も少なく、期待されています。 しかし一方で、C型肝炎では薬の価格が非常に高価であることなどから、経済的な負担が大きく、治療を受けるのをためらう原因の1つにもなっています。 これらの経済的負担を減らす制度として、医療費助成制度があります。 C型肝炎で、内服の抗ウィルス薬による治療だけでなく、インターフェロンによる治療も対象になります。 各自治体の保健所に確認するとよいでしょう。 助成を受けると、1ヵ月あたりの自己負担の上限額は、1万円または2万円に抑えられます。 通常、医療機関や薬局の窓口で支払う金額からこの自己負担上限額を除いた分は、肝炎助成金、高額療養費で賄われます。 この医療費の助成を受けるには申請が必要です。申請方法は、肝炎治療を行う医療機関でご確認ください。