■脳を活性化する暮らし方⑦

【第31回】対象物をよく観察して”視空間認知能力”を鍛えよう
【第32回】動きや姿勢を意識して注意力や集中力を高めよう
【第33回】生活空間に変化を取り入れて、脳をリフレッシュしよう
【第34回】書初めをする


【第31回】「写生をする」

秋になり、空が高く澄み渡って過ごしやすい季節になりました。時にはスケッチブックを持って近くの公園に写生に出かけてみては いかがでしょう。「絵は苦手」などと乗り気でない人もいるかもしれませんが、写生は紙と鉛筆されあれば 誰でも簡単に始められますし、何より脳の活性化にとても効果的です。 風景などを見たままに写し取る写生では、まず描きたい対象物をよく観察することが必要です。 そして、形、大きさ、位置、色合いなどを正しく把握したうえで、3次元の情報を2次元に変換して構成し、紙に描き出します。 この時、視覚に関わる後頭葉や、「視空間認知」に関わる頭頂葉、手指の動きをコントロールする前頭葉などが 活発に働くのです。視空間認知とは、空間の中の形や位置関係などを認識する機能のことです。 例えば、歩く、物をつかむなどの何気ない動作でも、脳は常に周囲の状況を瞬時に判断して体の動きをコントロールしますが、 この時欠かせないのが”視空間認知能力”です。視覚から得た情報を正確に把握し、それを表現する写生は、 この視空間認知能力を鍛える効果的なトレーニングになります。風景に限らず、庭の花や買ってきた野菜、部屋の置物など 何でもよいので、1日10分間でも写生する時間を作ってみましょう。

とはいっても、なかなか実物どおりに描けず、嫌になってしまうこともあるかもしれません。 しかし、写生の場合、その出来栄えは美術的なセンスより、描き慣れているかどうかが大きく影響します。 写生も楽器と同じで、うまくなるには練習が必要なのです。繰り返し描くうちに、対象物を見るポイントや描き方のコツなどが だんだん掴め、自分でも上達しているのを実感できるはずです。そしてそれは、視空間認知能力をはじめ、 観察力や構成力などが鍛えられている証拠でもあるのです。 気に入った作品が描けたら額に入れて飾ったり、慣れてきたらはがきや便箋に直接スケッチして友人に送ったりしてみましょう。 少しくらい下手でも、それを個性だと思って楽しんで取り組むことが、写生の上達、そして、脳の活性化につながります。


【第32回】「ヨガにチャレンジする」

美容や健康、ダイエットなどに効果的だとして人気があるヨガは、脳の活性化にもとても効果的です。 そもそも運動すること自体が、脳の健康に良い影響を与えます。体を動かすと脳の血流がよくなりますし、 手足や体幹の筋肉に指令を伝える運動野や、筋肉の働きを調整する小脳などが活発に働くからです。 また、ヨガの場合は、単に体を動かすだけでなく、深い深呼吸をしながらゆっくりと動いてポーズをとるのが特徴です。 そして、ポーズを完成させるためには、お手本となるポーズをイメージして、正しい姿勢で体を静止させることが必要です。 このヨガ独特の一連の運動に欠かせないのが、注意力と集中力です。 注意を払ったり、意識を集中させたりすることに関わっているのは、思考や判断、意欲などとの関係が深い前頭葉です。 手や足の動きや姿勢に常に注意を払いながら、バランスよくポーズをとることに集中するヨガは、前頭葉を強く活性化させる 効果がある運動だといえるのです。

「体が硬いからヨガは無理」という人もいるかもしれませんが、ヨガには、動きを重視して姿勢の改善やダイエットなどを 目指すもの、瞑想を重視して精神の安定を目指すものなど、いくつかのタイプがあります。 それぞれアプローチの方法や運動強度などが少しずつ違うので、自分の興味や体力に合うものを選んで、 最初は初心者向けの無理のないポーズから始めてみましょう。 ヨガにチャレンジするときは、自分の動きや姿勢を確認するためにも、鏡を見ながら行うのがお勧めです。 正しいポーズを意識しながら、イメージ通りに体を動かすのが、脳を活性化させるポイントです。 最初はうまくいかなくても、続けていくうちに柔軟性やバランスなどが改善され、ポーズも決まってくるはずです。 また、ヨガで行う呼吸法や瞑想にはリラクセーション効果があるので、精神面にもよい影響が得られます。 脳を活性化させるのと同時に、心身のリフレッシュにも効果的なヨガを毎日少しでも行って、脳と体の健康維持に役立てましょう。


【第33回】「部屋の模様替えをする」

毎日過ごす部屋の模様替えを最後にしたのはいつですか?
特に不都合もないので、「そういえば、ここ何年もしていない」という人もいるかもしれません。 しかし、生活環境の”マンネリ化”は、脳の老化の現れと考えられます。 一般に年を取ると、周囲への関心が薄れたり、意志や意欲、また体力なども低下したりするので、自ら進んで変化を求めたり、 新しいことに取り組んだりすることが少なくなります。また、若いころに比べると、変化への対応力や適応力なども 衰えてきます。そのため、変化を楽しむより、安定した今の生活環境を維持することを望む傾向が強くなるのです。

しかし、変化の少ない環境は脳への刺激も少なく、老化を進める要因になります。脳を若々しく保つには、毎日暮らす空間にも 時には変化を取り入れることが大切です。そこで今回お勧めしたいのが、「部屋の模様替え」です。 部屋の雰囲気が変わると気分が一新し、精神的なリフレッシュ効果が得られます。また、模様替えを計画し、実行することは、 脳の活性化にも効果的です。模様替えをするときは、使い勝手や心地よさなどを考えながら、「庭がよく見えるレイアウトにしよう」 「シンプルで落ち着いた雰囲気にしよう」など、理想とする部屋をあれこれ思い描きます。 そしてイメージが固まったら、今度は家具の移動や装飾品の取り換えなど、具体的な段取りをつけていきます。 この時、想像や計画、思考などに関わる前頭葉や、空間認知に関わる頭頂葉などが活発に働くのです。 また、実際に行動するときは、運動にかかわる運動野も活性化します。

大きな家具を動かすのは難しくても、例えば「テーブルの向きを変えてクロスを掛ける」「窓辺に観葉植物を置く」 「季節の絵や置物を飾る」など、ちょっとした工夫で部屋の様子はぐっと変わります。脳に刺激を与えるとともに、 日々の生活を楽しむためにも、季節や行事に合わせて模様替えに取り組むとよいでしょう。


【第34回】「書初めをする」

正月2日は書初めをするのが習わしとされていますが、皆さんは毎年行っているでしょうか? 最近は、日常生活で筆を使うことがほとんどなくなり、「書初めどころか、もう何年も筆を持っていない」 という人も少なくないかもしれません。しかし、筆で一角一角丁寧に文字を書く書道は、脳を活性化させるのにとても効果的です。 脳の健康のためにも、お正月はぜひ書初めに取り組んでみましょう。

脳を効果的に活性化させるには、字を書くまでの準備も大切です。筆や硯などの書道用具を用意したら、手軽な墨汁ではなく、 墨をするところから始めましょう。手を前後に動かすだけの単純な動作ですが、心が徐々に落ち着いて、書字への気持ちを高める 効果があります。また、墨の匂いに包まれると、子供のころの習字の光景などが甦ってくるかもしれません。 過去の書道の体験を思い出しながら取り組めば、記憶や感情などに関わる脳の働きも活発になります。

準備が整ったら、いよいよ書き始めます。たっぷりと墨を含ませた筆を真っ白い紙の上に置き、止め、跳ね、 払いなどに気を付けながら、丁寧に筆を運びましょう。 この時、注意力や集中力が一気に高まり、前頭葉が活性化するのです。また、視覚に関わる後頭葉や、字の意味の読み取りに関わる 側頭葉、字の構成や位置関係の把握に関わる頭頂葉、筆を持つ手の動きをコントロールする運動野なども活発に働きます。 特に、ペンや鉛筆で書く字よりずっと大きな字を書く書道の場合は、字のバランスや位置の捉え方がいつもとは異なるので、 頭頂葉の働きはより活発になると考えられます。手本を見ながら慎重に筆を動かし、書字に全神経を集中させましょう。

久しぶりに筆を持つと上手い下手はともかく、字を書くことの楽しさや気持ちよさをきっと感じるはずです。 また、「もっとうまく書きたい」「行書や叢書などいろいろな書体にチャレンジしたい」など、 意欲が湧いてくるかもしれません。これを機に、新しい趣味の一つとして書道を楽しんでみるのもよいでしょう。