【質問】「鼠径ヘルニア」について教えてください
若いころから「鼠径ヘルニア」気味でしたが、特に異常を感じたことはありませんでした。
しかし、この冬、大雪で壊れた物置の片づけをしていた際、急に足の付け根に痛みが走り、その場に倒れてしまいました。
車で病院に運んでもらい受診したところ、「脱腸で、嵌頓している」と言われました。
整腸してもらい、30分後には帰宅できました。現在、夫が体調不良なため、農作業の一切が私一人にかかっており、再発が心配です。
手術をしないと再発は防げないでしょうか。
●75歳・女性・農業
【答】
下腹部から脚の付け根の部分を鼠径部(そけいぶ)と呼び、ここに内臓や脂肪が突出してくる病気を「鼠径ヘルニア」といいます。 人体の構造上の問題や立位での生活などのために発生し、手術を要する病気としては最も多いものです。日本では年間に14~15万人が手術を受けています。 大人の場合、自然治癒することはありませんので、手術で治します。 大部分の例では症状は軽く、鼠径部の膨らみと軽い違和感・不快感などであり、手術を急ぐ必要がないので、計画的に治療を行います。 しかし、最も問題となるのは「嵌頓(かんとん)」です。出たり引っ込んだりしていた腸管が戻れなくなってしまい、 ヘルニアの出口のところで締め上げられて激しく痛み、「腸閉塞」などに至る状態です。 もちろん、医師の手当てでも戻らないときは緊急手術を要します。この嵌頓を起こしやすいのは鼠径ヘルニアのなかでも「大腿ヘルニア」と分類されるものです。 通常の鼠径ヘルニアは、女性より4~5倍多く男性に発生していますが、血管の脇の小さな孔から発生する大腿ヘルニアは女性に多く、 しかも高齢者に多いという特徴があります。嵌頓する率が高く、腸閉塞を起こして緊急手術になることが多い病気です。 腸閉塞を起こして緊急手術になることが多い疾患です。発症から時間がたっていると腸が壊死してしまい、 「腹膜炎」を起こして開腹手術や腸切除など大きな手術となってしまいます。
したがって、大腿ヘルニアは症状が軽くても、診断がつき次第早期に手術したほうがよいとされます。 最近では、超音波検査やCT検査などで小さな膨らみの段階でも診断ができるようになっていますから、腸閉塞を起こす前に診断することが可能です。 この状態での手術は局所的な小さな手術で済み、高齢の方でも負担がなく治癒可能です。 正確な診断の下で、人工素材のメッシュを使った術式ですと、再発の心配もほとんどありません。 腹腔鏡手術ができる病院もあります。入院期間は数日です。
お手紙から推察すると、ご質問者は恐らく大腿ヘルニアであり、嵌頓を起こし、幸いにしても腸を元に戻すことができたものと思われます。 再び嵌頓が起こる可能性は高く、その前に手術を受けることをお勧めします。 術後の後遺症などの可能性も低く、農作業にも1~2週間で復帰可能と思われます。 脱腸帯で押さえて、いたずらに時間を稼ぐことはお勧めできません。
(この答えは、2014年4月現在のものです。医療は日々進歩しているので、後日変わることもあるのでご了承ください。)