腎癌の最新治療
『腎癌』は早期にはあまり症状が現れないため、進行してから見つかることが多い病気でした。 しかし、「超音波検査」や「CT検査」「MRI検査」といった画像検査の進歩により、早期に発見することもできるようになってきました。 腎癌は早期に発見すれば、根治が可能な病気です。さらに最近、治療法が飛躍的に進歩してきています 腎癌の治療の基本は「手術療法」です。手術療法には、「開腹手術」「腹腔鏡手術」「内視鏡下小切開(ミニマム創)手術」があります。 他にも、癌を攻撃する細胞を活性化させる「免疫療法」癌細胞専用の血管が作られるのを防ぐ「分子標的療法」があり、 癌細胞の増殖に関わる分子を狙う「分子標的薬」の登場により、治療の幅が広がることが期待されています。
■腎癌の最新治療
体への負担がより少ない手術や新しいタイプの薬が登場
腎癌の治療は「手術療法」が基本です。進行した癌であっても、可能な限り手術を行って癌を取り除きます。 また、2016年からは、「ロボット支援による腹腔鏡手術」での部分切除にも健康保険が適用になりました。 その上で、進行度や患者の年齢や状態などに合わせて、「免疫療法」や「分子標的療法」などを単独、または併用して用います。 最近では、従来の手術に比べて傷跡が小さく、体への負担がより少ない手術も行われるようになってきました。 また、癌の増殖に関わる分子を狙う分子標的薬も登場してきています。
【ロボット支援手術とは?】
ロボット支援による腹腔鏡手術は、医師が手術用のロボットを遠隔操作して行います。より精密で安全性の高い手術です。
ロボットには、腹腔鏡や手術器具を持つためのアームがあり、医師はモニターでお腹の中の画像を見ながらアームを操作し、癌を切除したり、傷を縫合したりします。
一部の医療機関で行われています。
●手術療法
内視鏡を使った手術では、傷跡が小さく、体への負担も少ない
腎癌の手術には、癌が発生した腎臓を全て切り取る「根治的腎摘除」と、癌とその周囲の組織だけを切除する「腎部分切除」があります。 腎部分切除では、腎臓の機能を残すことができますが、癌の大きさが4cm以下の場合に限られます。 手術方法には「開腹手術」「腹腔鏡手術」「内視鏡下小切開術(ミニマム創内視鏡下手術)」などがあります。 どの手術療法も、根治的腎摘除と腎部分切除の両方を行うことができます。 手術は全て全身麻酔で行います。
◆開腹手術
従来から行われている手術で、腹部を20~30cm切開して腎臓を切除します。 皮膚を切開する位置は、癌のある場所や大きさなどで異なり、腹部の中央を縦に切開することもあれば、 肋骨の下を横に切開したり、上腹部をL字型に切開したりすることもあります。 患者の年齢や体の状態などにもよりますが、手術は2~4時間です。開腹手術は、広く行われています。 手術部位やその周囲を直接見ながら手術を行うため、出血などに迅速に対応でき、安全性の高い手術方法です。 その反面、傷跡が大きく、手術後しばらく痛みが残ります。また、3~4週間の入院が必要で、社会復帰が遅くなるといった欠点もあります。 手術後の合併症として、傷跡部分の腹壁が弱くなり腸の一部が皮膚の下にはみ出してくる「ヘルニア」が起こることもあります。
◆腹腔鏡手術
「腹腔鏡」と呼ばれる内視鏡を使って行います。腹部に5mm~1cmほどの孔を4~5ヶ所開けて、内視鏡を挿入し、 腹腔内にガスを注入して膨らませ手術をするための空間をつくり、手術器具を挿入して行います。 モニターで手術部位の拡大画像を見ながら腎臓を切除し、腹部を5~6cmほど切開して体の外に取り出します。 腹腔鏡手術は傷跡が小さく、手術後の痛みも少ないことから、開腹手術に比べて、患者の体への負担が大幅に軽減されます。 通常、手術の翌日には歩くことができ、退院することも可能です。比較的早く社会復帰ができます。 一方、モニターで手術部位を見ながら行うため、一般に開腹手術より手術時間がかかり、高度な技術が必要とされます。 医師の技術を判断する一つの目安として、日本泌尿器科学会では腹腔鏡の技術認定を設けています。 まれに、腹腔内にガスを注入することによって、「血栓」が肺の血管に詰まる「肺塞栓」などの合併症を起こすリスクもあります。
◆内視鏡下小切開(ミニマム創)手術
腹腔鏡手術と同じく、内視鏡を使って行います。脇腹を5~6cm程度切開し、そこから内視鏡や手術器具を挿入して、 モニターと肉眼の両方で手術部位を見ながら腎臓を切除し、取り出します。 腹腔鏡手術と比べ、切開部が1ヶ所だけで済みます。手術部位をモニターで拡大してみるだけでなく、 肉眼で直接見ることもできるので、周囲の状況などもよくわかり、より安全に手術を進められます。 ガスを注入する必要がないため、ガスによる合併症のリスクもありません。 手術時間は開腹手術とほぼ同じで、傷跡が小さく、手術後の痛みも少ないので、患者の体への負担が大きく軽減されます。 手術の翌日には歩行や食事ができ、入院期間も短く、手術後1~2日で多くの人が退院可能となります。 2008年2月現在、内視鏡下小切開手術は、厚生労働省の先進医療に認定されています。 しかし、実際に受けられる医療機関は限られているのが現状です。
■飛躍的に進歩している進行癌に対する薬物療法
腎癌が、リンパ節や腎臓以外の臓器に転移している場合を「進行癌」といいます。 進行癌のうち、転移の個所が少ない場合は、手術で腎臓の全摘出を行ってから、薬による治療を行います。 転移の個所が多い場合は、手術は行わずに薬による治療が行われます。 薬による治療では、主に分子標的薬と免疫チェックポイント阻害薬が用いられます。
●免疫療法
癌を攻撃する細胞を活性化させる
免疫力を高めて、癌を攻撃する治療法です。「インターフェロン」や「インターロイキン」といった薬を、 単独で投与したり、あるいは併用して、「Tリンパ球」や「NK細胞」などの癌を攻撃する細胞の働きを増強します。 インターフェロンは患者が自分で注射することもできますが、インターロイキンは入院して点滴する必要があります。 治療期間は、患者によって異なります。インターフェロンやインターロイキンの副作用には、 発熱・頭痛・食欲不振・抑うつなどがあります。そのほか脱毛などが起こることもあります。 免疫チェックポイント阻害薬は、イピリムマブ、ニボルマブ、アベルマブ、ペムブロリズマブの4種類で、いずれも点滴で用いられます。
◆免疫チェックポイント阻害薬の副作用
疲労感、下痢、腎機能障害、肝機能障害、甲状腺機能障害、 糖尿病、間質性肺炎 などの副作用が現れることがあります。そのため、定期的に採血して異常がないかどうかをチェックします。 また、体調に変化があれば、すぐに受診しましょう。特に、発熱や咳がある場合は、間質性肺炎を疑い、早目に対処することが必要です。
●分子標的療法
癌細胞専用の血管が作られるのを防ぐ
分子標的療法では、分子標的薬を使用します。 分子標的薬は、癌に栄養を送る血管を作らせないように作用して、癌の増殖を抑えます。 分子標的薬は、他の抗癌剤とは作用が異なり、癌細胞の増殖や進展に関わる分子を攻撃する性質があります。 癌細胞は成長するために、専用の血管を新しく作って、その血管から栄養を取り入れます。 専用の血管を作るために癌細胞は、元からある血管に特殊な信号を送ります。 腎癌で使用する分子標的薬は、主にその信号を阻害します。癌細胞の栄養の補給路を断ち、”兵糧攻め”にして成長を防ぐのです。 腎癌に使われる主な分子標的薬は、スニチニブ、パゾパニブ、ソラフェニブ、アキシチニブです。 いずれも飲み薬で、1日1~2回使用します。
◆分子標的薬の副作用
ほとんどの患者さんに現れます。特に多いのが、高血圧、疲労感、下痢、手足の皮がむけて痛む「手足症候群」です。 高血圧には降圧薬を使い、 下痢には下痢止めを使います。手足症候群には、手足に保湿クリームを塗ったり、靴は少し緩めのものを履くなどの予防対処を行うと効果的です。
●薬の使用方法
腎癌に対しては、多くの場合、作用の異なる複数の薬を組み合わせて使う併用療法が最初に行われ(一次治療)、3つの方法があります(下図参照)。 1つは、イピリムマブとニボルマブの併用療法です。さらに2019年には、新たに2つの併用療法に対して健康保険が適用となりました。 その2つのどちらも、イピリムマブとニボルマブの併用療法と同等の効果があるとされています。 薬による治療は、効果のある限り継続して行います。効果が次第に低下してきたり、不十分だった場合は、まだ使用していない薬に切り替えて治療を行います。 薬を切り替えながら長く治療を続けることで、腎癌の進行を長期にわたって抑えることができるのです。
腎癌の治療法はこの10年ほどで飛躍的に進歩しています。今後もさらなる進歩が期待されているので、ぜひ積極的に検査や治療を受けてください。