鉄欠乏性貧血

貧血の9割を占めるのが鉄欠乏性貧血で圧倒的に女性に多く見られる病気です。 倦怠感、動悸、息切れ、立ちくらみ、頭痛、集中力の低下などの一般的な症状のほか、爪がもろくなったり、 爪がスプーンのように反り返ったり(スプーン爪)、口内炎や舌炎、嚥下障害(ものが飲みにくくなる)が起こることもあります。 これらの症状は急に起こるのではなく、徐々に現れてきます。




■鉄欠乏性貧血の原因

原因はさまざまで次のようなことが挙げられます。

▼鉄の摂取量不足
肉やレバーなどの鉄分を多く食べないでいると、 体内の鉄分量が不足します。特に若い女性では、野菜中心による過度なダイエットや偏食を続けたために発症するケースもあります。

▼出血
外傷、痔、癌、 胃潰瘍十二指腸潰瘍、 女性の子宮筋腫などが原因で、長期にわたって出血が起こると鉄欠乏性貧血を起こします。

▼月経、妊娠、出産、授乳
月経や出産では、出血により体外に鉄が排出されるため鉄不足が起こります。 また、妊娠中は胎児に栄養を与えるために鉄の消費量が増加します。 母乳にも鉄分が含まれているため、授乳期にも鉄が不足しやすくなります。

▼胃腸での鉄吸収障害
鉄分は十二指腸で吸収されます。そのため、萎縮性胃炎などの異常があると、鉄分の吸収が阻害されて鉄不足を招きます。

●治療

鉄欠乏性貧血そのものは、鉄剤を服用することで改善します。 ただし、貧血症状がなくなった後、服用は少なくとも2~3ヵ月は続ける必要があります。 鉄剤の服用中は、鉄分の作用で便が黒く変色することがありますが、問題はありません。 胃のむかつきや不快感などが起こりやすい人は、食事の直後に飲むか、胃腸薬と一緒に飲むようにするとよいでしょう。 また、ビタミンCを共に摂ると、植物に含まれる鉄分の吸収が促進されます。 なお、鉄剤を服用していても効果が出ない場合や飲むことが不可能な場合には、注射や点滴による鉄分補給を試みます。 痔や潰瘍などの原因疾患がある場合は、鉄剤の服用と並行してその治療を行います。


■鉄分のチカラ

●貧血に効く鉄分にもいろいろある!

貧血対策に有効な鉄分。実はこれには2種類があり、動物性蛋白質に含まれる「ヘム鉄」と、植物性蛋白質に含まれる「非ヘム鉄」に分けられます。 ヘム鉄は、消化吸収されやすいのが特徴(溶けやすくイオン化しやすい為)です。 血液中に含まれているヘモグロビンもこの1種。 これとよく似ているものにミオグロビンというものがあります。 ヘモグロビンが体内に酸素を運ぶ役割を持つのに対し、ミオグロビンは酸素を筋肉組織に蓄える役割を持ちます。 ちなみに、男性の方がミオグロビン保有量が高いといわれています。

非ヘム鉄は、消化吸収されにくく、動物性蛋白質・ビタミンC・胃酸などでヘム鉄に還元されて初めて体内に吸収されます。 日本人が主食にしている穀物に含まれているのもこちら。 還元物質が無ければ吸収されない為、菜食オンリーというダイエット食生活では鉄分の吸収効率が悪くなってしまうのです。


●鉄分を多く摂るためには何を食べれば良い?

鉄分が多い食べ物といっても、ヘム鉄を含む物と非ヘム鉄を含む物は当然ながら違います。 ヘム鉄を多く含む食べ物は、肉類であるとレバー・牛もも肉、魚介類ならば煮干し・シジミ・アサリなどが挙げられます。 非ヘム鉄は、ひじき・ほうれん草・小松菜・キクラゲ(乾)などが挙がります。 先述したように、非ヘム鉄は単体での吸収効率が悪い為、ヘム鉄を含む動物性蛋白質(またはビタミンCを含む食べ物)と合わせて食べるのが望まれます。 例えば、レバー(ヘム鉄約13.0g)と大豆(非ヘム鉄9.4g)を同じ食事で摂取した場合、大豆に含まれる非ヘム鉄は十分に消化吸収されます。 このように、単体に含まれている鉄分量だけでなく、その鉄分がヘム鉄・非ヘム鉄のどちらかを判断した上で、食べるべき物を決めていく事が大切になるのです。