頭頸部癌

・「頭頸部癌」は見たり触ったりして、自分で早期に発見できることが少なくない。
・早期に発見して治療を受けるほど、生活への影響が少ない。
・手術後は、器官の再建やリハビリにより、機能の確保や回復を目指す。


■頭頸部癌とは?

口の中やのどにできる癌が中心

「頭頸部」とは、脳より下側で、鎖骨より上側の範囲を指し、「頭頸部癌」とは、この領域にできる癌の総称です。 口、のど、鼻、耳などのさまざまな器官があり、社会生活や生きていくうえで非常に重要な部位となっています。 頭頸部癌には、口腔癌、咽頭癌、喉頭癌、鼻腔・副鼻腔癌、唾液腺癌、甲状腺癌など、数多くの癌が含まれます。 これらの癌は、一般的な癌検診の項目に入っていないため、早期に発見するには、自分で気づいて早めに医療機関を受診することが 大切です。頭頸部癌は、主に耳鼻咽喉科と口腔外科の担当になりますが、癌の専門病院などでは、頭頸部の癌を専門に治療する 「頭頚科」を設けているところもあります。頭頸部癌のうち頻度が高いのは、「口腔癌」「咽頭癌」「喉頭癌」の3つで、 ここでは、これらを中心に解説します。

▼口腔癌
口の中にできる癌で、舌にできる「舌癌」、頬の内側の粘膜にできる「頬粘膜癌」、歯茎にできる「歯肉癌」、 舌の下に当たる口腔底にできる「口腔低癌」などがあります。

▼咽頭癌
「咽頭」とは、鼻の奥から食道に至るまでの器官で、飲食物や空気の通り道です。 上から「上咽頭」「中咽頭」「下咽頭」の3つに分けられ、癌ができた部位によって「上咽頭癌」「中咽頭癌」「下咽頭癌」 と呼ばれます。

▼喉頭癌
「喉頭」とは、いわゆる”喉仏”の部分に位置します。咽頭を中心に、舌の付け根から気管の間にできる癌が、喉頭癌です。 ここは、空気の通り道であり、飲食物が器官や肺に間違って入らないようにすることも役割の一つです。 また、発生に重要な役割を果たす「声帯」があります。


●頭頸部癌の特徴

頭頸部には、「飲食」「呼吸」「発声」など、人間の生命維持や社会生活を送るうえで重要な機能が集中しています。 癌が進行するにしたがって、治療による影響が大きくなります。この部位に障害が生じると、例えば、食べ物を噛んだり 飲み込んだりする機能を失ったり、声を失ったりするなど、生活の質に大きな影響を与えてしまいます。 機能障害を少なくするためにも、なるべく早く癌を発見し、治療を受けることが大切です。

口腔癌の場合、口内炎と区別がつきにくいこともありますが、「粘膜の病変がいつまでも治らず、しみたり、痛みが続く」 「病変のある部位にしこりがある」「粘膜の色が白く変色している」などの症状が見られたら、注意が必要です。 特に粘膜に変色が見られたり、しこりに厚みが出て大きくなってくるような場合は、一度医療機関を受診してください。 もちろんすべてが癌というわけではありませんが、「前癌状態」のこともありますので、日頃から口腔内の状態をよく観察する ようにしましょう。
下咽頭癌と喉頭癌の場合、器官が隣接しているので、同じような症状が見られることがあります。 共通する症状としては、「食べ物が飲みにくい」「声がかすれて、いつまでも治まらない」「痰や咳に血が混じる」などがあります。 また、のどと耳は上咽頭に位置する耳管という管でつながっているため、上咽頭に癌ができると、「耳の閉塞感」や「鼻詰まり」 を感じることがあります。これらの症状で耳鼻咽喉科を受診したところ、上咽頭癌が発見されたというケースもあるため、 どの部位でも症状がいつまでも治まらない場合は、医療機関を受診することが勧められます。
頭頸部癌全般の症状としては、「首のしこり」があります。癌が首のリンパ節に転移すると、リンパ節が腫れて、 触れるとしこりがあるのがわかります。2cmくらいになると、自分で触って分かるようになります。 気になる症状がある場合は、耳鼻咽喉科、口腔外科、頭頸科などを受診してください。 咽頭や喉頭も、鼻から入れるファイバースコープで苦痛なく簡単に調べることが来ます。


■主な治療法

「手術」「放射線治療」「化学療法」、3つの治療法がある

頭頸部癌の治療法には、一般的な癌の治療法同様、癌を切除する「手術」、エックス線などの放射線を照射して癌細胞を死滅させる 「放射線治療」、抗癌剤を使う「化学療法」があります。癌のできた部位や進行度によっても異なりますが、 治療法を選択するときは、「確実に治る」「痛みや負担が少ない」「治療後の生活への影響がなるべく少ない」 などを十分に考慮します。

●治療法の選択

例えば、2cm程度の早期の下咽頭癌の場合は、一般に体への負担が少ない放射線治療が第一選択とされます。 もう少し強い治療が必要と判断された場合は、放射線治療と化学療法を併用する「放射線化学療法」が行われます。 放射線の影響で、「唾液の分泌が少なくなる」「飲食物が飲み込みにくい」「粘膜にむくみが出る」などの副作用が出ることも ありますが、発声や呼吸の機能は温存することはできます。 下咽頭癌が進行していて手術が必要な場合は、下咽頭のほか、声帯を含む咽頭や頸部食道を切除することが多く、 生活の質への影響が大きくなります。そこで、癌切除と同時に切除した部位の再建を行い、手術した下咽頭食道の代わりに 小腸の一部を移植したり、呼吸のための孔を首の付け根に作ったりして、食事や呼吸の機能を確保します。 また、手術後に、リハビリにより、さまざまな方法で発声機能の回復を図ります。

頭頸部癌は、早期なら機能障害の残らない小さな手術や、放射線、抗癌剤による治療で治癒が期待できる癌です。 早期に発見することが機能温存にもつながります。ただし、確実に治すためには、機能障害を伴う選択をしなければならない こともあります。最近は切除した部位を再建する技術も進んできているので、必要があれば手術をためらわないでください。