顎関節症

顎関節症の治療では、最近、新しい治療法が行われるようになってきて、 これまでなかなか改善しなかった患者さんでも改善するケースが出てきています。 また、顎関節症の治療ではセルフケアが大切です。 原因となる癖や生活習慣を見直すことで、症状が改善していきます。


■顎関節症とは?

痛み、開口障害、関節音などの症状が特徴

●顎関節の構造

口を開け閉めするときには、さまざまな筋肉と顎関節が複雑に働きます。 中でも特に重要なのが、「咬筋」「側頭筋」などの筋肉と、関節内部の「関節炎板」の働きです。 これらの筋肉に緊張や疲労が起こったり、関節炎板が変形したりすると、顎関節症の症状が現れます。


●顎関節症の症状

『顎関節症』は、軽いものを含めると、一生のうちに2人に1人が経験するといわれるほど、身近な病気です。 以下の3つの症状のうち、1つ以上が当てはまる場合は、顎関節症の疑いがあるとされます。 しかし、③の音がするという症状のみで、①や②の痛みや開口障害がない場合には、特に治療の必要はありません。

  • ①口を開けると顎の関節や筋肉が痛む(動作に伴って痛みが出る)
  • ②口が途中までしか開かない(指2本分くらいしか開かなくなる)
  • ③口を開け閉めすると、カクカクと音がする(カクンカクン、ザラザラなどと表現されることもある)

●顎関節症の原因

これまで、顎関節症の要因は、主に「噛み合せの悪さ」にあると考えられ、噛み合せの調整が治療の中心となっていました。 しかし、最近では、顎関節症の発症には、噛み合せの悪さ以外にも、さまざまな要因が関係すると考えられるようになってきています。 顎関節症は複数の要因が積み重なったり、相互に作用したりすることによって発症します。 原因の1つに、「ストレス」があります。 ストレスを感じたり、緊張状態が続くと、無意識に「歯ぎしり」をしたり、強く噛み締めるようになり、顎関節やその周囲の筋肉に負担がかかります。 いくつかの要因が重なって、その人の筋肉や関節の耐久力を超えた場合に、顎関節症を発症すると考えられています。 また、もともと構造上、顎関節が弱いことや、歯の噛み合わせが悪いことが関係している場合もあります。 日頃の姿勢の悪さも原因になります。例えば、猫背になると、自然に首を前に突き出すため、下の顎の位置が変わり、顎関節に負担がかかります。 生活習慣では、パソコンやスマートフォンの操作、編み物などの細かい作業、バイオリンなどの楽器演奏、スポーツなどが挙げられます。 特に、歯ぎしりや歯を強く食いしばる習慣は、筋肉を緊張させ、顎関節にダメージを与えます。

◆原因となる癖「TCH」

顎関節症の原因の中で、新しい概念として注目されているのが「TCH」です。 日本語にすると「上下の歯を接触させる癖」という意味で、物を食べたり、会話をしているとき以外に、 上下の歯同士が触れ合っている状態のことです。軽く触れあっている状態であっても、長時間にわたると筋肉が疲労し、顎関節に負担がかかります。 また、TCHがあると、顎関節の痛みが治りにくくなります。


●顎関節症の治療

顎関節症は多くの場合、時間の経過とともに自然に改善したり、症状が軽くなっていきます。 そこで治療として重要なのが、原因になっている癖や生活習慣を見直すことです。 次のようなセルフケアを実践します。

▼TCHを認識する
無意識にTCHを行っているのを自覚し、行動を改善します。

▼開口訓練
口を開ける練習です。顎が引っ掛かって開けにくいときに、関節の動きをよくするために行います。

▼筋肉をほぐす
特に顎の周りの筋肉をほぐします。顔、首、肩回りなどの筋肉のストレッチも効果があります。 筋肉の緊張を取ることで、血行を促し、痛みを和らげます。

▼生活習慣を見直す
頬杖を突くなどの顎に負担をかける習慣を見直します。

このほか、ストレスを溜め込まないことも、顎関節症のセルフケアには大切です。

治療は、要因のうち大きなものに合わせて行うことが大切です。 その患者さんにとって、噛み合せの悪さが大きな要因である場合は、噛み合せの調整が効果を示しますが、 そうでない場合には、噛み合せを調整しても、効果は期待できません。

Aさんのケース(下記参照)では、Aさんにとって、噛み合せの悪さは大きな要因ではなかったため、 噛み合せの調整を行っても効果が現れなかったと考えられます。 現在では、ガイドラインでも、顎関節症の初期治療として、噛み合せの調整は推奨されないとされています。 噛み合せの調整で一度歯を削ってしまうと、元に戻すことができないため、他の要因の治療を行うことが優先されます。

◆”癖”を直して、顎関節症の痛みが解消

Aさん(62歳・女性)は、10年ほど前から口を開けたときの顎の痛みに悩んでいました。 歯科を受診したところ、顎関節症と診断され、噛み合せの治療を行いました。 ところが、症状はよくならず、この10年間で4ヶ所以上の医療機関を回り、治療を繰り返していました。 最近、ある医療機関で、常に上下の歯が接触する癖(TCH)があることを指摘されました。 その癖を直したところ、数ヶ月ほどで痛みが無くなり、快適な毎日を過ごしています。


●その他

現在、顎関節症の治療で健康保険が適用されるのは、「マウスピース(スプリント)」を装着して、正しい噛み合せを作り、 筋肉の負担を減らすという治療と、「鎮痛薬」による痛みの軽減です。 また、ストレスに対して、リラクゼーション法が指導されたり、緊張を緩和する薬が使われたりする場合があります。


顎関節症のセルフケア
顎関節症のセルフケア