抗不安薬
『抗不安薬』とは、精神的な不安症状や不安に伴う身体症状を改善する薬です。 「不安障害」(いわゆる神経症)をはじめ、不安のかかわりが深い「心身症」、 不安を伴うからだの病気などの治療で広く使われています。
■「抗不安薬」とは?
さまざまな診療科で使われている
「抗不安薬」は、不安や不安に伴って現れるさまざまな身体症状を改善します。 不安があると、それによって心血管系、消化器系、呼吸器系、神経系、泌尿器系など、さまざまな体の症状が現れます。 一方、不安を伴いやすい体の病気もたくさんあります。不安に関連して起こる症状・病気は多岐にわたり、 一般に、患者はまず体に現れた症状から診療科を選んで受診します。 そのため、抗不安薬は、精神科や心療内科ばかりでなく、さまざまな診療科で使われています。 外科系の診療科でも、手術前の不安や緊張を和らげるために用いられます。
●抗不安薬が使われる主な病気
不安障害、心身症などで使われる
「不安障害」は、何らかの原因で不安にとらわれ、それによって精神的にも身体的にもさまざまな症状が現れる病気です。 いつも不安や心配がある「全般性不安障害(不安神経症)」、あるとき突然、動悸や胸痛、 窒息感などを伴う発作が生じる「パニック障害」、不合理だとわかっていてもある観念が繰り返し頭に浮かんだり、 特定の行為を繰り返さずにはいられない「強迫神経障害(強迫神経症)」など、いくつかの種類があります。
不安障害の薬物療法では、多くの場合に抗不安薬が用いられています。パニック障害や強迫神経障害では、最近、 抗うつ薬の「SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)」との併用がよく行なわれます。 抗不安薬の多くは不安を伴う抑うつにも効果があり、鬱病に対しても、抗うつ薬の効果が表れて症状が落ち着くまで、 つらい症状を和らげるために併用することがあります。
体の病気の中で、心理社会的な要因(性格や行動パターン、ストレスなど)が発症やその後の経過に密接に関係しているものを 「心身症」といいます。心身症として起こりうる病気は多岐にわたりますが、不安がかかわっているものもあります。 また、不安を起こしやすい体の病気もあります。そのような病気では、体の症状と不安を併せて治療しないと改善が難しく、 そういう場合にも抗不安薬が使われます。
◆不安による主な身体症状
- ▼心血管系
- 動悸、頻脈、胸内苦悶(胸が苦しい)など
- ▼消化器系
- 吐き気、食欲不振、下痢、口渇、腹痛など
- ▼呼吸器系
- 呼吸困難、ため息、息切れ、胸が締め付けられるような感じ、胸痛など
- ▼神経系
- 頭痛、めまい、発汗、震えなど
- ▼泌尿器系
- 頻尿、排尿困難など
- ▼その他
- 疼痛、筋肉の痙攣、肩こりなど
◆不安を伴いやすい身体疾患
- ▼心血管系
- 本態性高血圧、狭心症、不整脈、心筋梗塞など
- ▼消化器系
- 胃・十二指腸潰瘍、過敏性腸症候群、機能性ディスペプシア(機能性胃腸症)など
- ▼呼吸器系
- 気管支喘息、COPD(慢性閉塞性肺疾患)、過換気症候群など
- ▼内分泌系
- 甲状腺機能亢進症、糖尿病、月経前緊張症など
- ▼神経系
- てんかん、緊張型頭痛、片頭痛、前庭機能障害(平衡感覚障害)など
●不安を改善する治療法
不安に対する治療としては、薬では抗不安薬が主に用いられますが、あくまでも対症療法で、不安を根本的に治すわけではありません。 抗不安薬によってつらい症状を改善しながら、不安の原因を探り、日常生活の環境を見直したり、 不安を招きやすい行動や考え方の修正を図る「心理療法」を併せて行なうことが大切です。 心理療法としては、患者が抱えている問題への気付きを促し、解決を援助する「カウンセリング(面談)」をはじめ、 心身の緊張を緩和する「呼吸法」や「筋弛緩法」、「自立訓練法(自己暗示によるリラックス法)」、 望ましい行動を増やすことを目指す「行動療法」など、多くの種類があり、患者の状態に応じて行なわれます。
【関連項目】:心身症の治療