心身症の治療に用いる抗不安薬

現在、抗不安薬として使われているのは、主に「ベンゾジアゼピン系抗不安薬」です。 脳の中の、感情に深く関与している「大脳辺縁系」に作用して不安を和らげます。


●主な抗不安薬の分類 *1はセロトニン作動系抗不安薬、 *2は抗アレルギー系抗不安薬、 それ以外はベンゾジアゼピン系抗不安薬
抗不安作用 一般名 作用時間
オキゾラム
クロルゼアセポキシド
メダゼバム
クロチアゼバム
トフィソバム
ジアゼバム
クロラゼブ酸ニカリウム
プラゼバム 超長
フルタゾラム
メキサゾラム
(*1)タンドスピロン
(*2)ヒドロキシジン
エチゾラム
プロマゼラム
クロキサゾラム
ロラゼバム
フルジアゼバム
アルブラゾラム
フルトブラゼバム 超長
ロフラゼブ酸エチル 超長


●ベンゾジアゼピン系抗不安薬

ベンゾジアゼピン系の薬は、大脳辺縁系のベンゾジアゼピン受容体に結合することで、脳の働きの抑制にかかわる 神経伝達系(GABA神経系)の作用を増強し、自律神経の交感神経を抑制します。 このことによって、抗不安作用の他、鎮静催眠作用、筋弛緩作用、抗痙攣作用などの効果が得られます。 ベンゾジアゼピン系の薬の中で、抗不安作用の強いものが抗不安薬として使われ、鎮静催眠作用が強いものが睡眠薬、 抗痙攣作用の強いものが抗てんかん薬として使われています。 効果は速やかに現れ、一般に、服用してから15~30分ほどで効き始めます。

◆種類と使い方

現在、日本では18種類のベンゾジアゼピン系抗不安薬が使われており、主に作用の強さと作用時間の長さ(短時間作用型、 中間型、長時間作用型、超長時間作用型)によって使い分けられています。 薬を処方する際の基準となっているのが作用の強さが中等度の「ジアゼバム」で、この薬よりも弱いものは「クロチアゼハム」、 強いものは「エチゾラム」「アルブラゾラム」「ロフラゼブ酸エチル」などがよく使われています。 不安や緊張の程度が強いほど、やはり作用の強い薬が必要になります。 短時間作用型の薬は、急に強い不安が起こる「パニック発作」の際などに有用ですが、連用すると、服用を中止したときの 「退薬症状」が出やすいとされています。長時間作用型の薬は、1日1回の服用で持続的な効果を得られるのが利点です。 短時間作用型の薬では、通常1日2~3回飲む必要があります。

また、抗不安作用が中心とはいえ、ベンゾジアゼピン系の薬に共通する鎮静睡眠作用、筋弛緩作用などもあり、 薬によって併せ持つ作用のバランスが少しずつ異なるため、不安に伴う症状を考慮して薬が選択されることもあります。 例えばエチゾラムは鎮静催眠作用や筋弛緩作用もかなり強いので、睡眠障害の解消にも効果があり、緊張型頭痛や肩こり のある人ではその改善にも有効です。過敏性腸症候群や胃・十二指腸などの消化器系心身症に「フルタゾラム」を使ったり、 自律神経失調症に「トフィソバム」を使うこともあります。

◆主な副作用と使用上の注意

ベンゾジアゼピン系の薬の持つ鎮静催眠作用は睡眠障害には有用ですが、それに伴って「眠気、倦怠感」などの副作用が 現れることがあります。また、筋弛緩作用に伴って「ふらつき、脱力感、転倒」などが起こることもあります。 そのほか、副作用で「頻脈、血圧低下、吐き気、嘔吐、食欲不振、便秘、口渇」などが起こることもあります。 程度の差はあるものの、どの薬でも眠気の出る可能性があるため、服用中は自動車の運転などの危険を伴う機械操作はしないでください。 急性狭隅角緑内障、重症筋無力症のある人は使えません。

また、ベンゾジアゼピン系抗不安薬を用いる際に最も注意しなければならないのが「依存性」の問題です。 多量の薬を長期にわたって服用すると依存が起こりやすくなるので、抗不安薬を用いる際は、少量から使い始め、 効果が不十分な場合に少しずつ増量するのが基本です。必要なときだけ飲む「頓服」で済む人は、なるべく長期の連用は避けます。 長く服用を続けた場合、急に中止すると「不安、動悸、手の振るえ、不眠」などが現れることがあり、 これを「退薬症状」といいます。退薬症状を防ぐには、薬の原料は徐々に行なうことが大切です。


●セロトニン作動系抗不安薬

脳内の情報伝導を担う神経伝達物質である「セロトニン」の受容体を選択的に刺激することで、 抗不安作用と抗うつ作用を示す薬です。「タンドスピロン」という薬があり、主に不安による身体症状が中心の場合に 用いられています。心因性の発熱などに使われることがあります。 短時間作用型の薬ですが、抗不安薬の中では効果が現れるのが遅く、服用から1週間ほどかかります。 作用は弱いものの、ベンゾジアゼピン系の薬のような依存性がなく、筋弛緩作用によるふらつきや転倒などが少ないことから、 そうした問題の出やすい高齢者などでは使いやすいといえます。


●抗アレルギー系抗不安薬

抗ヒスタミン薬の一種の「ヒドロキシジン」という薬があります。蕁麻疹や皮膚炎などのかゆみに対しても使われる薬で、 特に不安にかゆみを伴うような人によく用いられます。抗不安薬としての効果は強くありませんが、 ベンゾジアゼピン系抗不安薬より依存性が低いとされ、ベンゾジアゼピン系の薬で副作用が心配される高齢者や若年者の 不安の改善に用いられることもあります。短時間作用型で、1日2~3回飲みます。 副作用で、眠気、倦怠感、めまい、口渇、食欲不振、胃部不快感などが起こることがあります。 妊娠中、または妊娠の可能性のある女性は使えません。


●その他の薬

▼植物系鎮痛薬
「パッシフローラエキス」という薬があります。抗不安作用は弱く、使われるケースは多くありませんが、 高齢者などで、他の薬の副作用が問題になったような場合に用いられることがあります。 副作用で眠気を催すことがあります。

▼抗うつ薬
鬱病の治療に広く使われている「SSRI」が、近年、不安障害の治療にもよく使われるようになっています。 特にパニック障害や強迫性障害では基本的な治療薬で、社会不安傷害にも使われることがあります。 日本では現在、「フルボキサミン」「パロキセチン」「セルトラリン」という3種類のSSRIがあり、 不安障害のタイプに応じて使い分けられます。 SSRIは効果が出るのに2週間ほどかかるので、最初はベンゾジアゼピン系抗不安薬を併用し、 SSRIの効果が出てきたら抗不安薬を減量していきます。

▼β遮断薬
高血圧や狭心症の治療に用いられるβ遮断薬が、不安による身体症状に用いられることがあります。 主として、動悸などの心血管系の症状があるときに使われ、「カルテオロール」に「心臓神経症」の、 「アルチノール」には「本態性振戦」の適応があります。β遮断薬は気管支喘息のある人は使えません。

▼漢方薬
不安に伴って不定愁訴がある場合などに、「加味道逍遙散」「柴胡加竜骨牡蠣湯」などの漢方薬が用いられる こともあります。