腸年齢
人間、腸が老いやすい!ゆっくり規則的に食べると腸が若返る。
■腸は全身の老化を司るペースメーカー
私たちの体は、年とともに老化していきます。しかし、体の中の臓器がそれぞれ同じペースで老いていくかというと、決してそうではありません。 実は老化のペースメーカーとなる臓器が存在するのです。 近年、「p16」というたんぱく質の発現をマウスで長期間観察した研究が報告されました。 p16は、癌の抑制遺伝子で、これが発現すると細胞が老化してきた目安になるのです。 その結果、p16が最も早く発現したのが、腸と腎臓でした。臓器のうちでも腸と腎臓が最も早く老いるのです。 これは、腸と腎臓が最も多く血液を使う臓器であることが関係しています。 心臓から送り出される血液の分配量を調べると、腸が1位で全体の30%、腎臓が2位で20%、3位が脳と骨格筋で15%でした。 多くの血管で養われている臓器ほど、老いやすいのです。 しかも、ペースメーカーである腸が老いてきた場合、腸だけの老化が進んでいるのではありません。 腸が早く老いると、それと共に、他の臓器の老いも促進されてしまうのです。 つまり、腸が早く老いると、全身の老いも加速するのです。
内臓にはそれぞれ、その人の一生分の仕事を最適のペースでこなすための時間が設計されています。 この臓器固有の寿命、いわば臓器の賞味期限が、それぞれの「臓器の時間」です。 その中でも、腸は、最も臓器の時間の流れが早い臓器です。 ただ、生活習慣やその人の心がけによって、臓器の時間の進み方を早くすることも遅くすることも可能です。 私たちは老化予防のためにも、ペースメーカーである「腸の時間」の進み方をゆっくりさせる配慮と工夫が必要になります。
●時間遺伝子の乱れはメタボにつながる!
では、腸の時間をゆっくりさせるために、どんなことに気を付ければいいでしょうか。 まず第1に、過食を慎むことが肝心です。腹八分目が長寿の秘訣といってもいいでしょう。 過食は内臓にとって大きなストレスです。過食を繰り返すと、体に栄養が余っているところに、さらに栄養が取り込まれます。 この余計な栄養分を、体は「外敵」と見なし、強いストレスを感じ対抗しようとします。 交感神経が緊張し、これ以上の栄養を取り込まないようにするのです。 同時に、血圧も血糖値も高くなります。こうした交感神経の頑張りが続いた結果、人はメタボになるのです。 この際、腸の老化も加速することになります。
また、食事は、できる限り規則正しく摂った方がいいでしょう。 忙しい現代人は、「仕事の合間に食事をしがち」ですが、「食事の合間に仕事をする」ことが理想です。 近年の時計遺伝子研究の進展により、私たちの臓器も、時計遺伝子がもたらす周期性によって、 それぞれリズムを刻みながら働いていることがわかってきました。 時計遺伝子に異常が生じると、腸の時間の流れが早くなり、メタボにもなりやすくなります。 これはマウスの実験でも確かめられています。 時計遺伝子の働きを整えるためには、朝、太陽の光を浴びることが重要ですが、もう一つ規則正しい食事も重要です。 それが刺激となって、時計遺伝子の周期性を調整してくれます。
ゆっくり食べることやよく噛むことも大切です。食事をストレス解消の手段と考えている人がいますが、早食いは決してストレス解消になりません。 逆に、腸にはストレスとなり、腸の時間をどんどん加速してしまいます。 目の前の食事を、ストレス解消のターゲットとして見なすのではなく、生きるために自然が与えてくれたものとして、心静かに向かい合ってみてください。 食前に一呼吸置き、「いただきます」といって食べ始める習慣をつけてみましょう。 これだけでも、ただの食事が健康食になる契機になるはずです。 そして、ゆっくり食べよく噛むと、咀嚼の刺激が腸に、「これから食べ物が入っていきますよ」というメッセージを送ります。 すると、脳がホルモンや消化液の分泌を速やかに促し、腸はストレスを感じることなく消化吸収を行えます。 これによって、腸の時間が非常に効率的に使われることになります。 こうした毎日の積み重ねが、腸の時間をゆったりしたものにしてくれるのです。
食事の内容については、発酵食品を食事に上手に取り入れる工夫などが大事ですが、腸にとっていい食生活ができているかどうか、 1つわかりやすい目安を挙げましょう。それは、毎日の便の状態で判断する方法です。 「快便」なら、いい食事ができていると考えていいのです。 逆に、便秘が続いたり、下痢気味であったり、便秘と下痢を繰り返したりしているようでしたら、日頃の食事内容や生活ぶりを1度見直してください。