食道癌のリスクと症状

食道癌は、飲酒や喫煙など生活習慣とのかかわりが深い癌です。 自分のリスクを知って生活習慣を改善することと、症状に早く気付くことが、早期治療に繋がります。


■食道癌のリスク

日本人の食道癌は飲酒と喫煙が大きな原因

生涯のうち食道癌にかかる確率は男性は2%で45人に1人、女性は0.4%で228人に1人です。 これは同じ消化器系の胃癌や大腸癌に比べて、高い割合ではありません。 気になるのは、男女差です。食道癌では、男性のほうが女性より約5倍も発症率が高いのです。 理由として考えられるのは、生活習慣です。日本人の食道癌は、飲酒喫煙が大きな原因であることがわかっています。 女性より男性のほうがこれらの生活習慣のある人が多いので、発症率も高いと考えられます。 こうしたことから、今年(2017)6月に改訂された「食道癌診療ガイドライン 2017年版 第4版」でも、飲酒と喫煙のリスクについて記載されています。 特に、喫煙については強く注意喚起して、禁煙を奨励しています。

また、飲酒と喫煙の他に、熱い食べ物や辛い食べ物を好んだり、野菜や果物をあまり食べないことも、食道癌の発生に影響していると考えられています。 こうした生活習慣が食道癌に影響するのは、食道が飲食物に直接触れる臓器だからです。 食道は喉から胃の入り口までを結ぶ長さ25cmほどの臓器で、食道の壁は粘膜や筋肉の層で構成されています。 口から入った食べ物は、食道の筋肉が上から下へと収縮することで胃へと送り込まれます。 アルコールやたばこ、熱い飲食物などの刺激を受け、食道の細胞の遺伝子が何度も傷つくと、次第に修復しきれなくなり、癌細胞が発生します。 癌細胞ができても通常は免疫の働きで排除できますが、リスクを高める生活習慣が多いほど、癌細胞も多く発生するため、排除しきれなくなり、 癌を発症するのです。


●食道癌と飲酒の関係

ビールコップ1杯程度で顔が赤くなる人が毎日飲酒すると、食道癌を発症しやすくなることがわかっています。 理由は、顔が赤くなる人は遺伝的にアルコールを分解する力が弱く、アルコールを酢酸へと分解する過程で生じるアセトアルデヒドという発癌物質が 体内に溜まりやすいからです。日本人の約4割は、遺伝的にアセトアルデヒドを分解する酵素が欠損しているため、 大半の人が飲酒には注意が必要だといえます。 飲酒による食道癌のリスクは、飲まない人を1とすると、飲酒で顔が赤くなる人が、日本酒換算で毎日1合飲むと、 6.8倍に(赤くならない人は1.2倍)、毎日約2合飲むと65.3倍に、毎日約4合以上飲むと103.8倍に上昇します(赤くならない人は12.1倍)。 食道癌を防ぐには、飲酒は適量を守り、いわゆる”休肝日”を設けることが大切です。 また、食道癌を発症したことがある人は、必ず禁酒をしてください。

●食道癌と喫煙の関係

非喫煙者の食道癌のリスクを1とした場合、喫煙者は3.7倍になります。さらに、1日20本を20年間吸っている喫煙者は、4.8倍にもなります。 本人が吸わない場合も、受動喫煙があると食道癌のリスクが高くなると考えられています。 また、喫煙と飲酒が重なると、リスクはさらに高くなります。

●食道癌と肥満の関係

日本でも食生活の欧米化が進み、肥満傾向の人が増えたことなどで、欧米人に多い胃食道逆流症による食道癌が増えてきました。 胃液が食道に逆流し、食道で胃酸による炎症が繰り返されると、結膜から癌が発生することがあるのです。 日本人に多い飲酒や喫煙が原因で起こるタイプの食道癌は、食道の上部(頚部)から中央部(胸部)にできやすく、 粘膜の上皮細胞から発生します。これを扁平上皮癌といいます。 一方、胃食道逆流症が原因で起こるタイプの食道癌は腺癌といいます。 日本人の食道癌の約90%は扁平上皮癌です。


■食道癌の症状

早期には自覚症状が現れにくい

食道癌はタイプを問わず、早期には自覚症状がほとんどありません。 人によっては、熱いものや酸っぱいものが喉にしみたり、食べ物を飲み込むときに違和感がある程度です。 進行すると、癌が大きくなって食道の内腔を狭めるため、飲み込みにくいなどの自覚症状が現れます。 食事を摂りにくくなり、体重が減ってきたら、食道癌が進行している可能性があります。 さらに、他の臓器に転移すると、さまざまな症状が現れるようになります。 例えば、発声に関わる神経の周囲のリンパ節に転移すると、声がかすれたり、咳が出たりします。 背骨に転移すると、背中や胸に痛みを感じることもあります。

●違和感がある場合は消化器科へ

喉や背中などに症状が現れると、多くの人は食道の病気とは思わずに耳鼻咽喉科や整形外科を受診します。 これらの診療科で異常が見つからない場合は、医師が消化器科の受診を勧めることが多いようです。 少しでも早く食道癌を発見するためには、患者さん自身が食道癌の症状を知っておき、違和感があるときには消化器科を受診するようにしてください。


■食道癌が疑われたら

リスクが高い人は1年に1回、内視鏡検査を受ける

食道癌の検査は、主に3つです。

▼内視鏡検査
食道癌が疑われる場合は一般に内視鏡検査を行います。内視鏡を口から食道に挿入し、病変を観察します。 病変の位置、大きさ、数、広がり、形、色などから進行度がわかります。 胃内視鏡(胃カメラ)検査を行った際に、偶然、食道癌が見つかることがあります。 ただし、バリウム検査の場合は、早期の食道癌は見つけにくくなります。 一度、内視鏡検査で異常がなかった場合でも、飲酒で顔が赤くなる人、飲酒や喫煙習慣のある人、胸やけなど胃食道逆流症の症状がある人は、 年に1回、内視鏡検査を受けるようにしてください。

▼CT(コンピュータ断層撮影)
癌の進行度や広がり方を調べる検査で、治療方針の決定に役立ちます。 さまざまな角度からエックス線を当てることで、食道の周囲を詳細に確認できます。

▼PET検査
検査用のブドウ糖液を腕に注射し、細胞への取り込まれ方を画像化して、癌細胞のある部位を調べます。 CT検査の補助として行われます。

食道癌から身を守るには、リスクを高める生活習慣を改善して予防に努め、違和感があれば消化器科を受診して検査を受けることが大切です。