食道癌の治療

食道癌治療法は主に4つ。自分にとって最善の選択をするために、それぞれの治療法の長所・短所を知っておきましょう。


■食道癌の治療

進行度だけでなく、本人の希望によって選択される

食道癌の治療法は、大きく分けて内視鏡治療、手術、放射線、抗癌剤の4つです。 どの治療法を行うかは、癌の進行度と患者さん本人の希望によって決定されます。 そのため、進行度が同じ患者さんでも同じ治療を受けるわけではありません。 食道癌の進行度(病期)は、癌が食道の壁のどのくらい深くまで達しているか、食道の周囲のリンパ節への転移はあるかどうか、 他の臓器への転移があるかどうか、の3つの点から判断されます。その病期ごとに、標準的な治療法があります。 食道癌の病期は、0期~Ⅳ期までの5つに分類されます。0期は癌が粘膜内に留まっていて転移のない段階で、内視鏡治療が標準的な治療になります。 Ⅰ期、Ⅱ期、Ⅲ期は手術を中心とした治療が標準的ですが、Ⅱ期とⅢ期は抗癌剤で癌を小さくしてから手術が行われるのが一般的です。 また、Ⅰ~Ⅲ期では、手術ではなく、抗癌剤と放射線を併用する化学放射線療法という選択肢もあります。 Ⅳ期は、化学放射線治療や抗癌剤が基本です。痛みを緩和するための放射線や、癌によって食道が狭くなるのを防ぐための治療が行われることもあります。


■4つの治療法と選択

それぞれの治療法の長所と短所を知ることが大切

各治療法の長所と短所をよく理解し、納得できる治療法を選択しましょう。

●内視鏡治療

内視鏡治療は、癌が粘膜内に留まっていて、リンパ節への転移がない場合に行われます。 内視鏡を食道に挿入し、モニターを見ながら、癌を切除します。 現在は、電気ナイフで病巣を剥がし取る内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)が主流です。 癌を取り切れなかった場合や、リンパ節転移の可能性が高い場合には、手術や化学放射線療法が追加で行われます。 出血や食道の壁に孔が開くなどの合併症の危険があるため、数日間の入院が必要です。

●手術

手術は、癌が粘膜筋板に接するか、それより深く入り込んでいる場合に行われます。 食道と周囲のリンパ節を切除しますが、頚部食道に癌ができた場合は、咽頭も一緒に切除しなければならないこともあります。 胸部食道にできた場合は、胃の一部を切除し、胃や腸を吊り上げて食道を再建する手術が行われます。 食道は体の背中側にあるため、食道に到達するためには体の表面だけでなく、肋骨や、肋骨と肋骨の間を切る必要があり、大掛かりなものになります。 全身麻酔で6~8時間かけて手術し、入院期間は3~4週間、リハビリも同様です。 患者さんの身体的負担は大きいものの、それに耐えられる体力がある場合は、手術は最も効果が高い治療法といえます。
近年、食道癌に対する胸腔鏡手術腹腔鏡手術も普及しつつあります。 体の表面に小さな孔を開けて、手術器具を挿入し、モニターを見ながら癌を切除します。 切開する手術に比べて身体的負担が少なく、手術後の回復も早いのがメリットです。 ただし、高度な技術を要するため、今のところ、受けられる医療機関が限られています。


●化学放射線療法

薬を使って癌細胞の分裂や増殖を抑える抗癌剤と、癌細胞を死滅させる放射線を組み合わせた治療法です。 併用することで効果を高めます。一般的な進め方は、放射線を週5日間、6週間ほど継続します。 1回の所要時間は15分程度で、通院治療も可能です。抗癌剤は週4~5日間を1コースとして、放射線治療中に2コース、 放射線治療後に1~2コースを追加することもあります。抗癌剤治療は、入院が必要になります。

●手術と化学放射線療法の選択

Ⅰ期においては、手術も化学放射線療法も概ね同等の効果が期待できる、とする報告もあります。 Ⅱ期、Ⅲ期においては、化学放射線療法には手術と同程度の効果があるとは認められていません。 手術の長所は、癌を物理的に取り除けることです。短所は、手術後に肺炎や声のかすれ、うまく飲み込めないなどの症状が起こりやすいことです。 切除した食道の代わりに胃を細くして首のほうまで吊り上げるため、そのつなぎ目がしっかりつかない縫合不全という合併症が起こることもあります。 胃の容量が小さくなるため、食が細くなります。
化学放射線療法の長所は、食道を残せることです。短所は、化学放射線療法だけで根治できるのは1/3程度ということです。 約2/3の患者さんは、癌が消えなかったり、再発したりして手術が必要になることや、癌が進行して手術ができない状態になってしまうことがあります。 化学放射線療法の副作用としては、吐き気や嘔吐、腎機能の低下、白血球の減少などがあります。 また、合併症としては晩期毒性といって、治療から数年後に肺や心臓の周りに水が溜まって息苦しくなることなどもあります。


■食道癌治療後のリハビリ

手術後の回復を早くするため、飲み込む練習などを行う

食道癌の手術後は、深い呼吸ができない、声がかすれる、飲みにくいといった症状が現れることがあります。 手術後の回復を早め、合併症を防ぐために、次のようなリハビリを行います。

▼起き上がる訓練、歩行訓練
手術後はできるだけ早期にベッドから起き上がるようにし、それができたら、毎日1時間を目安に歩行訓練を行います。 心肺機能と全身の筋力の回復が目的です。

▼嚥下リハビリ
食道を切除すると食べ物を飲み込みにくくなるので、最初はゼリー状のものを口にして飲み込む練習をし、徐々に固形物を食べるようにします。 水などの液体はかえってむせやすいので、注意が必要です。

▼痰を出すリハビリ
手術後は深い呼吸ができないため、痰が溜まりやすくなります。しかし、痛みのために咳払いはできません。 そのため、息を吐きだす「ハッフィング」という方法で、痰を出す訓練をします。肺炎の予防にもつながります。

▼声帯を取った場合のリハビリ
咽頭を切除した場合、首の下に開けた永久気管口から呼吸をすることになります。 気管口が乾燥しないようにガーゼを当てるなどの管理法を覚えます。 また、声帯を失うことになるため、新しい発声法として、残った食道の一部を震わせて声を出す方法を練習します。 多くの人は、半年ほど訓練をすると会話ができるようになります。

●再発を防ぐために

喫煙や飲酒の習慣があった人は、禁煙と禁酒が再発予防に繋がります。 また、早期癌を内視鏡治療で切除した人も、再発には注意が必要です。 飲酒をやめることで、早期癌に起こりやすい再発を半減できるという報告があります。