食道癌の化学放射線療法

食道癌』では現在「手術」が標準的な治療として行われていますが、切除範囲が広くなることが多く、患者の体に大きな負担がかかります。 最近では、体への負担が比較的少ない治療法として、抗癌剤と放射線を組み合わせた「化学放射線療法」が注目されています。


■食道癌の治療法

現在は手術が中心

食道癌は、癌の深さや転移の有無などによって0~Ⅳ期までの「病期(ステージ)」に分けられ、 数字が大きいほど進行していることを示します。ここでは、癌が食道の壁まで達しているか、もしくはリンパ節に 転移があるⅡ期とⅢ期の食道癌の治療について述べます。

現在、Ⅱ期とⅢ期の食道癌には、手術を中心とした治療が「標準治療」として行われています。 食道は肺や気管、心臓、大動脈などに囲まれているので、手術では、周囲の臓器を傷つけないように注意しながら、 ほとんどの食道と、首から胃の上にかけてのリンパ節を切除します。食道を再建するため、胃を細長い管状にして吊り上げて、 のどの部分に残した食道につなぎます。手術時間は6時間程度かかります。さらに、手術では取りきれない小さな癌を 治療する目的で、「抗癌剤」を手術前に投与する「術前化学療法」、または手術後に投与する「術後化学療法」 を行います。一方、最近では、手術を行わない治療法として『化学放射線療法』が注目されています。 化学放射線療法とは、は、「抗癌剤」「放射線」を併用する治療法で、 これまでは手術が困難な患者を対象に行われていましたが、最近では手術が可能な患者でも選択できるように なって来ました。


■化学放射線療法の長所と短所

●化学放射線療法の長所

体の負担が大きい手術が回避でき、食道を残すことができる

食道癌の手術は、患者の体に大きな負担がかかります。また、手術の影響で亡くなるケースもあります。 一方、化学放射線療法の場合は、体にかかる負担が手術に比べて少なく、手術に伴う危険性も避けることができます。 手術では、多くの場合、胃を食道の代わりとして使うため、手術後には「消化」をはじめとする胃の機能が大きく 損なわれます。化学放射線療法では、食道や胃をそのまま残せるので、胃の機能が保たれ、治療前と同じような 食生活ができます。また、食道癌が、のどの部分にある「頸部食道」に発症すると、声帯の摘出が必要になる場合 もあります。化学放射線療法だと、声帯を摘出しないので、声を失うこともありません。

◆治療成績も向上している

今のところ、手術と比較した臨床試験が行われていないので、治療成績を比べるのは困難です。 ただ、これまでのデータを参考にすると、治療3年後に生存している割合は、手術を中心とした治療が55~60%で、 化学放射線療法は45%程度とされています。まだ手術には及ばないものの、治療成績は向上しているといえます。 今後日本でも、手術と化学放射線療法の治療成績を比較し、検討するための臨床試験が行われる可能性は高いでしょう。


●化学放射線療法の短所

重い副作用が起こることがあり、効果が現れる人も限られている

化学放射線療法には、短所もいくつかあります。放射線の副作用として「口の中やのど、食道の炎症」などが、 抗癌剤の副作用として「食欲低下」や「吐き気」「白血球減少」などが起こります。 治療終了後、半年以降に現れる「晩期合併症」は、重篤になると命に関わる場合もあります。 放射線が肺や心臓にも照射されることは避けられないため、肺の周りに水がたまる「胸水貯留」や、 心臓の周りに水がたまる「心のう液貯留」、肺の組織が固くなる「放射線性肺炎」などが起こる可能性があります。 「息切れ」などが起こって日常生活に支障が出たりします。

最も大きな問題は、全ての患者に効果が現れるわけではないことです。これまでに日本で行われたいくつかの臨床試験によれば、 化学放射線療法を受けた人の約2/3はいったん癌が消えますが、治療を終了してから3年後には約半数の人に 再発が起こるので、化学放射線療法だけで治癒が期待できるのは全体の約1/3ということになります。 事前に治療効果を確認できる方法の研究が進められていますが、現段階では行ってみなければわかりません。

◆効果がなければ「サルベージ手術」を行う

化学放射線療法の効果がなかった場合には、「サルベージ手術」を行います。手術療法は同じですが、 放射線を照射した組織は硬く変性しており、放射線と抗癌剤の影響で体力も落ちています。 そのため、最初から手術を行うより、手術自体が難しく、手術に伴う危険性も高くなります。 化学放射線療法は、放射線の照射法や抗癌剤の組み合わせなどを改善し、欠点を克服することで、 将来、食道癌の標準治療になる可能性は十分あるでしょう。


■手術や化学放射線療法以外の治療法

食道癌のごく初期には、癌は食道の壁の粘膜にとどまっていて、リンパ節や他の臓器への転移もほとんどありません。 この段階で見つかれば、内視鏡を口から食道に送り込んで、癌だけを切除することができます。 内視鏡による治療なら、体への負担が少なく、通常は治療の翌日から食事を摂ることができます。 入院期間も数日間で済みますから、仕事にも早く復帰することができます。 ただし、食道癌の初期には、自覚症状がほとんどありません。初期の段階で発見するには、自治体や職場の健康診断で、 食道や胃の状態を知るための「内視鏡検査」を定期的に受けることが大切です。


■治療法を選ぶにあたって

それぞれの治療法の長所、短所を正しく理解して選ぶ

化学放射線療法にも手術にも、それぞれ長所と短所があります。治療法を選ぶ場合はそのことをよく理解しましょう。 また、以前に胃を切除している場合は、食道の再建に大腸などを使う必要があり、肺の手術経験している場合は、 手術による負担がより大きくなります。こうした体の状態や年齢なども、治療法選択の重要な条件になるので、 担当医と相談して最も適した方法を選ぶことが大切です。場合によっては、セカンドオピニオン(別の医師の意見を 聞くこと)を求めるのもよいでしょう。