更年期障害による耳鳴り

キーンという高音の耳鳴りにフワフワ感・突発的な難聴が伴えば更年期障害を疑え。


■更年期障害

女性ホルモンが激減する更年期は自律神経の乱れによる不調が起こりやすい

婦人科医である私のもとには、更年期を迎えて不定愁訴に悩む女性が来院されます。 耳鳴りや難聴、めまいもその一つです。脳神経外科や耳鼻科で診察を受けたものの異常は指摘されず、 新たな治療法を求めて来られる患者さんが少なくありません。 加齢に伴って女性ホルモンの分泌量が減り始めると、女性は体調に変化が現れるようになります。 いわゆる「更年期障害」です。更年期障害が出る年齢には個人差がありますが、 多くは、閉経前後の40代前半から50代半ばにかけて起こります。


女性ホルモンの中でもエストロゲンと呼ばれるホルモンは、体内の臓器が正しく働くように調節をしている大切なホルモンです。 エストロゲンが減少すると、全身に様々な不調を招いてしまいます。 エストロゲンの減少にともなって起こりやすい症状は①自律神経の乱れ、②精神的な不調、③運動機能をはじめとする その他の不調、の三つに分けることができます。 自律神経(意思とは無関係に内臓や血管の働きをを支配する神経)は交感神経(心身を活発にする神経)と 副交感神経(心身をリラックスさせる神経)に分かれており、お互いがシーソーのようにバランスを取ることで 体の調子を整えています。自律神経のバランスが乱れると、ホットフラッシュと呼ばれる顔のほてりやのぼせによって 大量の汗をかいたり、動悸が起こったりします。閉経前後には全身の疲労感や頭痛、肩こりなどが起こる人も少なくありません。 自律神経の乱れによる不調は更年期における不定愁訴の中で最も多い症状ですが、耳鳴りや難聴、めまいも自律神経の乱れによって 起こると考えられています。女性にとって40代後半は子供が自立したり、会社で大きな仕事を任されたりするなど、 家庭や社会で環境の変化が起こりやすい年代です。更年期を迎えた女性は女性ホルモンの減少だけでなく、 環境の変化によるストレスによって自律神経の乱れが加速します。自律神経の乱れやストレスを感じると、 内耳にある三半規管と蝸牛の働きが低下します。体の平衡感覚をつかさどる三半規管が正しく働かなくなると、 体がフワフワする浮動性のめまいや吐き気などが起こるようになります。 蝸牛が正しく働かなくなると、蝸牛の中にある有毛細胞が正常に機能しなくなって、聴力に異常が生じるようになるのです。


●治療

更年期にはホルモンの補充療法や漢方による体質改善が有効で、生活の見直しも必須

一般的な耳鳴りには高音と低音の二種類があり、加齢とともに機能の衰えが顕著になるのは、「キーン」という高い音に反応する 有毛細胞といわれています。一方、低温の耳鳴りや突然に片方の耳の聴力が低下する突発性難聴は更年期の女性にも多く見られますが、 ストレスが大きな原因といわれています。 一般的な更年期障害の治療法としては、ホルモン補充療法が挙げられます。 ホルモン補充療法とは、文字通り体内で減少したエストロゲンを補う治療法ですが、ホルモン補充療法を受けることで、 乱れていた自律神経の改善が見られる場合もあります。 耳の不調を訴える患者さんの中には自分が更年期だと気付かずに脳神経外科や耳鼻科で診察を受け、原因が特定できないまま 治療が長引いてしまうケースが少なくありません。私のクリニックでは、このような患者さんに漢方薬を処方しています。 漢方薬は副作用が少なく、更年期のさまざまな不定愁訴に対応できるからです。 西洋医学は病気の原因をピンポイントで定めて薬を投与しますが、東洋(漢方)医学は、全身の血流や水分のバランスを整える ことを治療の目的としています。耳鳴りや難聴、めまいに対しても、漢方薬によって全身の乱れたバランスを整えることで、 結果的に改善につながると考えればよいでしょう。漢方薬は患者さんの体質によって処方が変わるため、 専門的な知識を持った医師から処方を受けるようにしてください。

更年期を迎えて不定愁訴を訴える患者さんの多くは、冷えにも悩まされています。 耳鳴りや難聴、めまいの原因は、冷えによる血流の悪化も考えられます。 定期的に運動をしたり、入浴時に体をしっかり温めたりするなど、血行を良くする生活を心がけてください。