補聴器と上手に付き合う

軽度の難聴であっても、補聴器の活用が勧められます。
自分に合った補聴器を選び、慣れるまで使い続けることが大切。

有毛細胞は、一旦壊れると元に戻りません。 将来的には、iPS細胞などを利用して、有毛細胞を再生させる治療が可能になるかもしれませんが、現時点では、修復は困難です。 壊れた細胞の機能を補うには、補聴器を使う方法があります。 補聴器に関して、「着けるのに抵抗がある」「着けては見たものの、不具合があって使わなくなった」などという声をよく耳にします。 しかし、難聴を放っておくと、生活の質が低下してしまいます。 例えば、外を歩いていて自動車が近づいてくる音に気付かないと、事故に遭う恐れが生じて危険です。 また、脳に音が伝わらないと、脳自体の活動が低下し、認知症が進むというデータがあります。 一般に、人の話が聞き取りにくくなると、だんだん会話に参加しなくなり、 やがて鬱症状を起こしたりすることもあります。 これらを避けるためにも、難聴に気付いたら、なるべく早くから補聴器をつけることが大切です。

補聴器をつけるとどのくらい聞こえるようになるのだろうかと気になる人が多いと思います。 しかし、最近の補聴器は大きく進歩し、雑音を除去したり、自動で音量を調整する機能なども搭載されています。 さらにはスマートフォンと連動する補聴器も登場しました。


■デジタル補聴器は小さなコンピュータ

補聴器はこの10年ほどで大きく進化しています。それはプロセッサ(ICチップ)の進歩によるものです。 ICチップはとても小さなコンピュータで、大量のデータを記憶したり、複雑な処理を行うことができます。 現在は、このICチップを内蔵したデジタル補聴器が広く普及しています。 デジタル補聴器は音をより聞きやすくするために、次のようは機能を備えています。

  • 会話音なのか雑音なのかを分析して区別する。
  • 音をいくつかの周波数帯に分けてそれぞれを分析・処理して、より聞きやすい音に加工する。
  • 特定の方向(一般的には前方)からくる音の感度を高めて聞きやすくしたり、どの方向から音が来ているかを分析して聞きやすくする。
  • 無線機能を使うことで、テレビや電話の音を補聴器で直接することができる。

こうした機能の中でも、最も進化したのが、雑音を抑制する機能です。 正常な聴力の人でも、雑音の大きい環境では聞き取りにくくなりますが、難聴の人では更に聞きづらくなります。 しかし、前述の技術を組み合わせた雑音を取り除く機能が向上したことにより、会話が聞き取りやすくなりました。


■自動調節やスマートフォンとの連携も

他にも様々な機能が進化しています。その一つが、状況に応じて補聴器が自動で音量や音質を調整してくれるものです。 たとえば、騒々しいところや静かなところによって自動的に音量(ボリューム)の調節をしたり、 パーティーや1対1の会話などその場の音の環境を自動的に判断してあらかじめ設定した音質・音量のプログラムを切り替えたり、 音楽を聴くためのモードに設定できたりします。 また、補聴器の使用状況を記憶・学習し、使う程に聞き取りやすい音に自動調整する機能も登場しています。 さらに、スマートフォンと接続すれば、離れた場所の補聴器販売店から遠隔で補聴器の調整を行ったり、 万が一補聴器を紛失した時に、補聴器の推定位置をスマートフォンに表示された地図上から探すことができる補聴器も登場しています。 このように補聴器は快適な生活のために進化を続けています。


■使用開始のタイミング

日常生活の中で次のようなことが起きた場合は、補聴器の使用を検討するタイミングだとえます。

  • ”テレビの音が大きい”と、家族に注意された
  • 静かな場所では聞こえるが、騒がしい場所では聞き取りにくい
  • 女性の高い声が聞き取りにくい
  • 一生懸命聴こうと努めるので、日常会話で疲れる

■補聴器のタイプ

補聴器にはさまざまなタイプがあります。一般によく使われるのは、「耳かけ型」「耳穴型」「ポケット型」などです。 ポケット型はやや大きく、コードが長いので目立ちやすい反面、操作や電池交換がしやすいという利点があり、自宅で過ごす時間が多い人などに向いています。 耳かけ型と耳穴型はどちらも小さく、目立ちにくいのが特徴です。耳かけ型は以前はハウリング(ピーピーと響く音)が難点とされていましたが、 現在では改良され、さらに小型軽量化が進んで、補聴器の主流になっています。

補聴器は、両耳または片側の耳に装用します。 主に集団や雑音の中で言葉を聞き取りたい場合には、両耳に装用する方が聞こえる範囲が広く、効果的です。 自宅で1対1の会話が多い場合や、比較的静かな場所で使うことが多い場合には、片側の耳だけでもよいでしょう。 また、最近は、多彩な機能が付いた補聴器も登場しています。「耳鳴りを感じにくくする」機能もその一つです。 難聴を起こした人の多くは、聞こえにくくなるだけでなく、不快な耳鳴りも同時に感じています。 耳鳴りが起こると、その音に意識が集中して、激しい場合には、「仕事が手につかない」「夜も眠れない」など、さまざまな問題が起こります。 耳鳴りを感じにくくする機能の付いた補聴器などは、例えば波の音や川のせせらぎの音などの環境音、耳に心地よい電子音などが使われ、 これらを聞くことによって、耳鳴りへの意識の集中を防ぎます。 会話の音が入ってくると自動的に音が抑えられ、会話を妨げない仕組みになっています。
そのほか、「テレビの音や音楽などを飛ばして受信する」「電話の音を聞き取りやすくする」 「防水加工により、汗や水に強い」などの機能が付いた補聴器などもあります。 これらの中から、自分のライフスタイルに合わせ、「どのような音を聞きたいか」「いつ装用したいか」などの優先度によって選びます。


■補聴器の活用

軽度の難聴であっても、補聴器の活用が勧められます

補聴器は難聴を治療するものではなく、聴力を補うための医療器具です。 補聴器を購入する場合は、まず耳鼻喉科を受診して難聴の原因をはっきりさせ、本当に補聴器が必要かどうかを確認することが必要です。

▼補聴器が必要な場合とは?
音の大きさを表す単位を「デシベル(db)」といいます。難聴かどうかは、この値を目安に見ることができ、 一般的には、聞こえる音の大きさが40~45db程度から補聴器が必要になります。 軽度の難聴の範囲内ですが、その中では聞こえが悪い方に該当し、会話などに支障を来すことがあるためです。 補聴器の使用を考える目安は、日常生活の中にもあります。 「テレビの音が大きいと注意される」「女性アナウンサーの声が聞き取りにくい」「一生懸命聞き取ろうとするため、日常会話で疲れる」 「知っている話は困らないが、知らない話になると聞き取れない」といった項目に1つでも該当する場合は、補聴器の活用を考えましょう。

▼難聴による影響はさまざま
補聴器を使うことに抵抗を感じる人もいるかと思いますが、聞こえの悪い状態では生活の質が低下してしまいます。 例えば、スムーズな会話ができなくなるので、家庭や社会で孤立しやすくなります。 外出先では、自動車の音に気付きにくくなるなど、危険にさらされやすくなります。 また、耳から入る情報が非常に少なくなるので、脳の活動が低下することもあります。 こうしたことを防ぐためにも、補聴器が必要になった場合は、前向きに活用を検討してください。

■耳鼻咽喉科を受診したうえで自分に合ったものを選ぶ

補聴器を使う場合は、まずは耳鼻咽喉科を受診して難聴の程度を確認します。 日本耳鼻咽喉科学会が認定する、耳鼻咽喉科専門医や補聴器相談医を受診した場合、補聴器が必要と診断されれば、「診療情報提供書」が作成されます。 診療情報提供書には、「耳のどこに異常があるか」「聴力の程度」「どのような補聴器を望んでいるか」 「生活のどんな場面で困っているか」といった情報が記載されます。診療情報提供書を補聴器専門店に持参することで、自分に合った補聴器選びが進めやすくなります。


●どんな時に使いたいかが重要

患者さんによって、補聴器を必要とする場面は異なります。 ”1対1で向かい合って話すときに使いたい””騒音のある場所での聞き取りをよくしたい””会議のときに多くの方向からの音が聞こえるようにしたい” などの要望があれば、必ず伝えましょう。現在の補聴器には多様な種類があり、機能も多様化しています。 こうした要望は、自分に合った補聴器を選ぶ上でも大変重要になります。


●補聴器を購入するときは

認定補聴器技能者のいる補聴器専門店であれば、購入前に試すことができるでしょう。 補聴器を数週間程度試用し、その間に微調整を繰り返して自分に合うかどうかを確認し、 十分納得したうえで購入できます。 認定補聴器技能者には、購入後のケアも義務付けられていますから、購入後も不安があったり、 補聴器の調子が悪くなったりした場合には相談しましょう。 購入後の点検や微調整も可能で、それらの情報は補聴器相談医にも伝えられます。 補聴器を使って快適な生活を過ごすには、次のような点を守ることが大切です。1

▼自分では調整しない
補聴器の調子が思わしくない場合は、自己判断で調整せずに、購入した補聴器専門店で調整してもらいましょう。

▼定期検査を受ける
加齢性難聴の場合、難聴は徐々に進行します。補聴器を購入後も、年に1回程度は耳鼻咽喉科を受診して、 聴力検査を受けてください。


■補聴器の選び方

自分に合った補聴器を選ぶには、まず耳鼻咽喉科を受診して、難聴の原因と程度の診断をきちんと受けることが必要です。 日本耳鼻咽喉科学会が認定した「補聴器相談医」を受診するとよいでしょう。 医師は、補聴器専門店にいる「認定補聴器技能者」と連携し、患者さんに最もふさわしい補聴器を選び、調整します。


■購入したあと

自分に合った補聴器を選べば、すぐに快適に聞こえるようになると思うのは早計です。 音の聞き取りは最終的に脳が行っているため、補聴器によって大きくなった音の中から必要な言葉を聞き分けるためには、補聴器に慣れることが必要です。 つまり、自分の脳を耳に合わせる「脳のトレーニング」を行います。 2~3ヶ月間は、認定補聴器技能者による音質や出力の調整を受けながら、補聴器を使い続けてください。 聴力が変化した場合は、その後も補聴器の調整を行います。