心臓の動脈硬化「心室細動」予防・対策に『DPA(ドコサペンタエン酸)』

突然死を招く怖い不整脈「心室細動」は、健康な人にも起こり、特に運動中や睡眠時に多発。 心室細動を防ぐには心臓の動脈硬化を追い払うのが最善策で、 「DPA(ドコサペンタエン酸)」を積極的に摂ることが有効です。 DPA(ドコサペンタエン酸)は、魚油に含まれるn-3系脂肪酸の一種で、 動脈硬化を防ぐ働きが強いとされるEPAよりも10倍も強いことから、 心臓の動脈硬化を撃退し、命さえ奪う不整脈も防ぐ成分として注目されています。


■動脈硬化

心臓の動脈硬化は突然死を招く

私たち日本人は、数十年前まで、魚や野菜、豆類や海藻を中心とした低カロリーの食事をしていたため、 動脈硬化はあまり見られませんでした。ところが、今では、肉・卵・乳製品などを多く摂る欧米型の 高カロリー・高脂肪の食事に変わった結果、動脈硬化が急増しています。 特に、気をつけたいのは、突然死を招くこともある心臓の動脈硬化です。 これまで、動脈硬化を起こした血管は元には戻らないと考えられていました。 しかし、最近の研究で、食生活を変えれば動脈硬化が改善される可能性のあることがわかってきました。 食品成分の中でも、動脈硬化の予防・改善効果が期待できるのは、新たに見つかった 『DPA』という脂肪酸です。

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●突然死を招く「心室細動」

心室細動は、突然死の主原因

さっきまで元気だった人が急に亡くなってしまう、これを「突然死」と呼んでいます。 日本における突然死の原因は今、急性心筋梗塞や急性心不全などの病気が半数以上を占めています。 しかも、そのうち、7〜8割は心臓の病気が起こった後で、「心室細動」という病気を起こしているのです。 心室細動とは、心臓の下部にある心室という部位が、うまく動かなくなってしまうこと。 心室細動が起こると、心臓の働きがほぼ停止し、脳や肺といった全身の重要な器官や組織に、 血液を送り出すことができなくなります。そのため、数秒で意識を失い、数分で死亡することも少なくありません。 このように心室細動は、突然死の主原因といっても過言ではないでしょう。 それに、心室細動は、心臓病のない健康な人にも起こりうるだけに、いっそう怖い病気といえます。


◆心室細動の起こり方

では、心室細動はどのようにして起こるのでしょうか。
私たちの心臓は、収縮と拡張を規則的に繰り返しています(これを拍動といいます)。 安静時には1分間に60回ほどの拍動を行い、それによって全身に新鮮な血液を送り込んでいます。 拍動をつかさどるのは、心臓の上部にある「洞結節」と呼ばれる部位。 胴結節には、電気信号を出す特殊な心筋が集まっています。ここから出される電気信号が周りの心筋を刺激することによって、 拍動が行われているのです。 ところが、胴結節から心臓を動かす命令が正常に発せられなかったり、命令を伝える筋肉が正常に働かなかったりすると、 拍動に乱れが生じます。これがいわゆる「不整脈」。 不整脈にも、期外収縮(心臓を動かす命令が一定のリズムでない状態)や、頻拍(心臓を動かす命令が連続して起こる状態) といったさまざまな種類があります。その中でも、心臓のあらゆる場所から心臓を動かす命令が出てしまうものを「細動」といいます。 心臓は本来、最初に心房(心臓の上の部分)が収縮し、次に心室が収縮するというように、順序良く収縮していきます。 この仕組みによって、心臓はうまく血液を全身に送り出しています。 ところが細動が起こると心筋がバラバラに収縮するため、心臓は痙攣状態に陥ります。 細動が心室で起これば「心室細動」、心房で起これば「心房細動」です。 特に、心室細動は心停止と同じような状態になってしまうため、心房細動に比べ、より危険といえるでしょう。

◆心室細動はどのようなときに起こるか

では、心室細動は、どのようなときに起こるのでしょうか。
心室細動が起こるパターンは、2つ考えられます。1つ目は、心筋梗塞が起こった後に合併症として起こる場合。 心室細動全体の約7〜8割を占めています。このタイプの心室細動を起こさないためには、まず心筋梗塞を防がなければなりません。 心筋梗塞の原因は冠状動脈(心臓に酸素や栄養を供給する動脈)の「動脈硬化」。 そこで、動脈硬化の予防改善に役立つ生活習慣を身につけることが肝心です。

2つ目は、心筋梗塞などの病気がなく、健康にもかかわらず突然、心室細動を起こす場合。 こちらは「突発性心室細動」と呼ばれ、運動中や睡眠中によく起こります。 実は、運動中に突発性心室細動を起こす人は、もともと心臓の働きになんらかの異常があるか、 心臓の働きが低下していることが少なくありません。具体的にいうと、冠動脈の動脈硬化が進んでいたり、 不整脈が出ていたりするのです。そうした状態で、激しい運動をすることによって、心臓が血流不足に陥って大きな負担がかかり、 心室細動が起こるというわけです。最近、肥満や運動不足を解消するために、休日だけ運動する人が増えています。 そうした人は、心室細動を防ぐためにも、医師の診察を受け、心臓に異常がないことを確認してから運動を始めるようにしてください。

一方、睡眠中に起こる突発性心室細動は、自律神経と深いかかわりがあると考えられています。 睡眠中は、自律神経のうちの副交感神経が優位の状態になっています。 ところが、何らかの原因で自律神経のバランスが崩れると、心臓の拍動が乱れて心室細動を起こすというわけです。 昔から、ふだん健康な人が突然、大きな唸り声を上げて亡くなることを「ポックリ病」と呼んでいます。 ポックリ病の正体や原因は、今でもはっきりとはわかっていません。 しかし、最近になって、その多くが突発性心室細動によって引き起こされていると考えられるようになりました。

理由はまだ不明ですが、突発性心室細動は、欧米人には少なく、アジア人には多いことがわかっています。 私たち日本人は、突発性心室細動に襲われる危険が大きいということを、知っておく必要があるでしょう。


●「心室細動」を防ぐには

心室細動を防ぐには、油の摂り方が重要

突然死を招く心室細動を防ぐには、動脈硬化を追い払うことが、何よりも肝心です。 そして、心室細動を防ぐ上で非常に重要になるのが、食生活における「油の摂り方」です。 心室細動は、心筋梗塞の発作後に起こる場合が大半です。 したがって、心室細動の予防には、心筋梗塞を防ぐような生活をすればいいわけです。 また、心臓病のない健康な人に起こる突発性心室細動にしても、心臓の働きを低下させないようにすることが、 防ぐ秘訣です。そのための最善策は、心臓の冠動脈に起こる動脈硬化を追い払うこと。 なぜなら、心臓の動脈硬化こそが、心臓の働きを衰えさせる最大原因だからです。 心臓の動脈硬化を追い払うことができれば、心筋梗塞に伴う心室細動も突発性心室細動も、 起こる確率は限りなく低くなるでしょう。

そして、動脈硬化を追い払うためには、油のとり方に気をつける必要があります。 油は、脂肪酸の性質によって、「飽和脂肪酸」「不飽和脂肪酸」に分けられます。 飽和脂肪酸は肉や卵に多く含まれ、不飽和脂肪酸は魚や植物に多く含まれています。 動脈硬化は、LDLコレステロールが血管の内側に付着することから始まります。 動物性脂肪に多い飽和脂肪酸は、LDLコレステロールを増やす原因になるので、摂り過ぎはあまり好ましくありません。 では、不飽和脂肪酸なら何でも積極的に摂ればいいのかというと、これも大きな問題です。 不飽和脂肪酸にも「n-3系脂肪酸」「n-6系脂肪酸」があります。 このうちn-6系脂肪酸の摂り過ぎは要注意なのです。

n-6系脂肪酸は、リノール酸系とも呼ばれ、ベニバナ油、コーン油、ヒマワリ油などの植物油に多く含まれています。 リノール酸は、体の成長に欠かせない大切な脂肪酸であり、高いコレステロール値や血圧を下げる働きがあります。 しかし、リノール酸の降圧効果や抗コレステロール効果は一時的なもので、長期間摂り続けると、 かえって血圧やコレステロール値の上昇を招きます。 そればかりか血小板の凝集能(固まる力)を強めて血液を固まりやすくし、血栓や動脈硬化を招く原因になるのです。 また、n-6系脂肪酸の摂り過ぎは、ガンやアレルギーなどの病気の原因になることもわかっています。


◆n-3系脂肪酸

一方のn-3系脂肪酸は、α-リノレン酸系とも呼ばれ、魚油やシソ油などに多く含まれています。 n-3系脂肪酸が心臓病を防ぐことを調べた動物実験を紹介しましょう。 実験のため不整脈が起こりやすくしたネズミを2群にわけ、一方にはn-3系のα-リノレン酸の多い魚油を混ぜたエサを与え、 もう一方にはn-6系のリノール酸の多い植物油を混ぜたエサを与えて、それぞれ1ヶ月飼育しました。 その結果、魚油を摂ったネズミは、不整脈の発生が抑えられたのに対して、リノール酸を多く摂ったネズミには不整脈が発生していました。 このように同じ不飽和脂肪酸といってもn-3系とn-6系では相反する働きをするのです。

このn-3系脂肪酸を代表するのが、魚油の特効成分ともいえる「EPA」「DHA」という脂肪酸です。 EPAやDHAは、血栓ができるのを防いだり、赤血球を柔軟に保ったりして、 血液の流れをよくします。さらに中性脂肪を減らしたり、血圧を下げたりするとともに、動脈硬化を防ぐ働きのあることもわかっています。 n-6系脂肪酸も体に必要ではありますが、私たちは日常の食事ですでに十分摂取していると考えられます。 ですから、リノール酸の多い植物油は極力摂らない代わりに、n-3系脂肪酸の豊富な魚油を 意識的に摂る必要があります。EPAやDHAは、は、イワシ、マグロ、サバ、サンマ、ブリといった 青背の魚の魚油に多く含まれています。動脈硬化を追い払い、ひいては心室細動を予防して突然死を回避するために、 ふだんの食生活の中で魚油を積極的に摂ることをおすすめします。


●DPA

働きが注目される新しい脂肪酸

魚に含まれる油に動脈硬化を抑える働きがあることは、人を対象とした臨床試験でも確かめられています。 柳沢厚生杏林大学教授(当時)は、冠状動脈に硬化が起こっている患者さん17人に、魚油の豊富な青背の魚 (サバ、サンマ、イワシ、アジ、マグロ)と野菜が中心の食事を摂るとともに、40分以上の速足歩きを 週に3回実行してもらいました。すると、動脈硬化を起こして狭くなっていた冠状動脈の内腔が、 平均0.2mm広がっていたという結果を得ています。 動脈硬化の抑制に大きく寄与すると考えられるのは、魚油の中のEPAとDHAという脂肪酸。 EPAとDHAには、赤血球の膜の柔軟性を高め、細い血管でも楽に通過させる働きがあります。 さらに、EPAには、血管を柔軟にして血流改善を強力に促す働きや血栓ができるのを防いだり、 血液中のコレステロールや中性脂肪を減らしたりする働きもあります。

さらに最近になって、魚油の特効成分ともいえるEPAの働きをしのぐ、『DPA』と呼ばれる 新型脂肪酸が発見され話題になっています。 DPAは、EPAやDHAと同じn-3系不飽和脂肪酸の仲間です。 n-3系不飽和脂肪酸は、血液の粘り気を減らして流れやすくしたり、動脈硬化をはじめとする生活習慣病を防いだりする 働きが大きい脂肪酸です。そんなDPAが注目を集めだしたきっかけは、アラスカやグリーンランドなどの 北極圏で暮らすイヌイット(エスキモー)の食生活の調査でした。 イヌイットの人たちは、近海で獲れるアザラシやオットセイ、サケなどを主食にしていて、 野菜をほとんど食べません。それにもかかわらず、イヌイットの人たちの血液を調べてみると、 コレステロール値や中性脂肪値は正常だったのです。 しかも動脈硬化も見られず、心臓病や脳卒中による死亡率も、極めて低く抑えられていました。 その理由が、研究によってわかってきました。魚油の中のEPAやDHAのほかに、 アザラシなどの海獣に多く含まれているDPAの働きが大きく影響している可能性が浮上したのです。

◆DPAの働き

研究が進むにつれて、DPAの優れた働きが次々と解明されつつあります。 アザラシ油の研究を行っている日本大学の秋久俊博教授は、DPAの働きについて次のように説明しています。

第一に、血管壁の内皮細胞(血管の内側を構成する細胞の層)の「遊走能」(血管壁の傷を修復し、 悪玉のLDLコレステロールの沈着を防ぐ働き)が、EPAの10倍も強力です。 DPAの働きによって内皮細胞の遊走能が高まれば、動脈硬化を防ぐ力も大きくなるわけです。 これについては東京医科歯科大学の森田育男教授も調べていて、EPAの50〜100倍も強かったと報告しています。 第二に、血管壁に付着する余分なコレステロールや中性脂肪を取り除き、動脈硬化を防ぐ働きが、 EPAの10〜20倍も強力であると考えられます。 第三は、前述したEPAの働きを活発にしてくれるということです。

ほかにも、DPAの働きについては世界中で実験や臨床試験が行われています。 例えば、カナダにあるハリファックス・ノバスコシア工科大学名誉教授のロバード・アックマン教授は、 動脈硬化の進んだ患者さんやコレステロール値の高い患者さんに、DPAが豊富なアザラシ油を飲んでもらいました。 すると、患者さんの総コレステロール値が平均20%も下がり、しかも悪玉のLDLコレステロールだけが減って、 善玉のHDLコレステロールは大幅に増えていた、と報告しています。 総コレステロールのうち、悪玉を減らして善玉を増やすことは、動脈硬化を防ぐための重要課題です。 しかし、DPAを摂れば解決できることを、アックマン博士の臨床試験は示しています。 DPAは、怖い心室細動の原因になる心臓の動脈硬化を抑える効果も、大いに期待できる新型脂肪酸なのです。