低分子コラーゲンと高分子コラーゲン
コラーゲンが動物の骨や皮に存在しているときの状態は、線維状の分子がロープのように3本絡まっていて、分子量は約30万ダルトン(アミノ酸3,000個)です。 これに熱を加えると、絡まっていた分子がほどけてゼラチン(高分子コラーゲン)として溶け出してきます。 3本だった分子が1本になるので、分子量は3分の1の約10万ダルトン(アミノ酸1,000個)になります。 ゼラチン(高分子コラーゲン)に分解酵素を加えて人工的にコラーゲン分子を切断したものがコラーゲンプチド (低分子コラーゲン)で、分子量は商品によって違いますが、だいたい500〜5,000ダルトン(アミノ酸5〜50個)です。 コラーゲンよりはゼラチンのほうに近いので、ゼラチンペプチドというほうがしっくりきます。 正式にはポリペプチドやオリゴペプチドと呼ぶべき物質です。
■低分子コラーゲンと高分子コラーゲン
体内のコラーゲンは古くなってくると分解されてアミノ酸に戻り、一部は体外に廃棄され、残りは体内で再利用されます。 分解されたコラーゲンの分は新たに作って補ってもらいたいのですが、残念ながら普通はそれより少ない量しか 作ってもらえません。日本人の平均的な食生活で必須アミノ酸の不足は考えられません。 コラーゲンの材料は十分あるはずなのにあまり作ってもらえないということは、 体がコラーゲンを作ることを重視していないのかもしれません。
コラーゲンを作る役目をしているのは線維芽細胞という名前の細胞です。 この細胞に「コラーゲンを作りなさい」という信号が与えられると、血液中のアミノ酸を集めてコラーゲンを合成するのです。 では、線維芽細胞に「コラーゲンを作りなさい」という信号を与えるものは何でしょうか? コラーゲンを作る必要があるということは、当然、コラーゲンが減少している状況です。 それを判断する材料は体内の古いコラーゲンの分解物とは考えられないでしょうか。 「コラーゲンが分解されたアミノ酸」を線維芽細胞が見つけたとき、コラーゲンの減少が認識されて、 新たにコラーゲンを作ろうとする。これは、非常に有力な仮説であると思われます。
人体を構成する10万種類のタンパク質が分解されたたくさんのアミノ酸中から、 「これは元々コラーゲンだった」と認識させるためには、コラーゲンにしかないアミノ酸の配列を持ったペプチドである 必要があります。体内のコラーゲンが分解されたものと同じペプチドができれば、 口から取り入れたコラーゲンでも線維芽細胞が「コラーゲンの分解物」と認識してくれます。 食べたコラーゲンの分解物を体内のコラーゲンの分解物と勘違いしてくれるんですね。 コラーゲンがたくさん分解されているからもっとコラーゲンを作らなくてはと頑張る・・・ おそらくこれがコラーゲンの効果の肝なのでしょうが、この辺の詳細なメカニズムは、 今後、専門家の研究で解明されることを期待しましょう。
線維芽細胞を集めるペプチドがコラーゲンを作る信号も出しているのか、 その役目は別のペプチドが担っているのかは不明ですが、いずれにせよ、 食べたコラーゲンが消化される過程でできる特定のペプチドに大きな役目がありそうです。 線維芽細胞に働きかけるペプチドが少量しかできなければ、大きな効果は期待できません。 高分子コラーゲンは、絡まった三本のコラーゲン分子がほどけてそのまま溶け出したもの。 低分子コラーゲンは、高分子コラーゲンを人工的に細かく切断したもの。 低分子コラーゲンは特定のペプチドが残る可能性が低いのです。 はじめから小さなアミノ酸のつながりにしてしまっているので、 消化されたときにはほとんどが単体のアミノ酸になってしまうと考えられます。 また、特定のペプチドに必要な特定の配列部分がすでに切れてしまっていることもあるでしょう。 特定のペプチドが残る確率は高分子コラーゲンのほうが高いと考えるのが合理的です。
●低分子・高分子コラーゲンに対する別の考え方
スッポン鍋、ふかひれスープ、とんこつラーメン、牛すじの煮込、カレイの煮付など、 「コラーゲンがたっぷり」といわれている料理に含まれるコラーゲンは、加熱するとスープに溶け出し、 冷めるとゼリー状になります。これは天然のコラーゲンが持つ共通の性質で、 一般的には「ゼラチン」または「高分子コラーゲン」と呼ばれています。 コラーゲンの健康食品には低分子化されたものが多く、それらの宣伝には「高分子コラーゲンは吸収されにくい」 と説明されていることがあります。低分子化されたサプリメントのほうが吸収率が高いから効果的だというのです。 そう言われても、サプリメントよりは料理から摂取した天然のコラーゲンのほうがなんとなく 体にいいような気がしますよね。本当に高分子だと吸収されにくいのでしょうか?
元々、高分子コラーゲン(ゼラチン)は、消化・吸収の良いタンパク質として知られていました。 分子量は約10万ダルトン。人工的に低分子加工したコラーゲンの分子量はだいたい500〜5,000ダルトンですから、 高分子コラーゲンは確かに大きいですね。分子が大きいから吸収されにくいのでしょうか。 でも、普通の肉のタンパク質であるミオシンは、高分子コラーゲンの5倍近い大きさ(約48万ダルトン)がありますが、 「肉は吸収されにくい」という話はぜんぜん聞きません。 なぜ突然、「高分子コラーゲンは吸収されにくい」ということになってしまったのでしょう。 分子量が小さいほうが吸収されるスピードが速いということはあります。 分子が小さいとすぐにアミノ酸まで分解されますからね。 ところが、吸収されるスピードが速いほど体にいいということにはならないのです。 白米は玄米より、白砂糖は黒砂糖より何倍も速く吸収されますが、体にいいと言われているのはどちらでしょうか。
◆アミノ酸
以前より、コラーゲンを食べることによる美容・健康への効果には、学者からの懐疑的な意見がたくさんありました。 コラーゲンのアミノ酸組成は生物の種によって異なるので、食べたコラーゲンがそのままの形で ヒトのコラーゲンになることはありません。また、ヒトは9種類の必須アミノ酸さえ補っていれば、 非必須アミノ酸を体内で作り出して10万種類ものタンパク質を組み立てることができるので、 理論的にはコラーゲンを食べなくてもコラーゲン不足にはならないのです。 コラーゲンを構成するアミノ酸のうち、ヒドロキシプロリンとヒドロキシリジンという2種類のアミノ酸は、 コラーゲン以外ではめったに見られません。これらは非必須アミノ酸ではあるものの、体が新たに作るよりは、 そのまま補給してあげたほうが効率がよく、体内のコラーゲンになりやすいのではないかという考え方もあります。
ところが、体の中でコラーゲンが作られる過程で、プロリンの一部がヒドロキシプロリンに、 リジンの一部がヒドロキシリジンに変わることはすでに解明されていて、 最初からヒドロキシプロリンやヒドロキシリジンの形で摂取しても、 コラーゲンの原料にはならないことは確認されているのです。 また、プロリンやリジンは色々な食品に含まれているアミノ酸ですから、 コラーゲンから摂らなければならない理由はありません。 やっぱり、コラーゲンを食べて補うなんて意味がないことなのでしょうか?
◆ペプチド
ここでちょっとペプチドについて説明しましょう。
大雑把な目安として、アミノ酸が約100個以上つながったものがタンパク質と呼ばれます。 それより少ない数のアミノ酸が結合したものがペプチドです。タンパク質の弟分ですね。 低分子コラーゲンを使った商品の原材料には「コラーゲンペプチド」と書いてありますが、 これは「元々コラーゲンだったものを断片化してペプチド状にしましたよ」という意味です。
数種類のアミノ酸から成るペプチドの中には生理作用を持つものがたくさんあります。 人工的に作られたペプチドで有名なのが、アスパラギン酸とフェニルアラニンという 2種類のアミノ酸を結合させたアスパルテームです。 個々のアミノ酸はありふれたものなのですが、この2つが結合すると 砂糖の200倍の甘さを感じさせる人工甘味料になるのです。 日本ではパルスイートという商品名で販売されています。
タンパク質が体内で消化される過程で特殊なペプチドができることもあります。 牛乳に含まれるカゼインというタンパク質はアミノ酸が200個程つながっています。 これが体内で消化・分解されるときに、アミノ酸が5個つながった形のβ-カゾモルフィンというペプチドが残ることがあり、 このペプチドはモルヒネのような鎮痛作用を持つことが知られています。
β-カゾモルフィンに含まれるアミノ酸を全部そろえてバラバラの形で摂取しても同じような生理作用はありません。 重要なのは「特定のアミノ酸が特定の順番でつながっている」ということなのです。
◆高分子と低分子
人体を構成する10万種類のタンパク質が分解されたたくさんのアミノ酸中から、 「これは元々コラーゲンだった」と認識させるためには、コラーゲンにしかないアミノ酸の配列を持ったペプチドである必要があります。 体内のコラーゲンが分解されたものと同じペプチドができれば、 口から取り入れたコラーゲンでも線維芽細胞が「コラーゲンの分解物」と認識してくれます。 食べたコラーゲンの分解物を体内のコラーゲンの分解物と勘違いしてくれるんですね。 コラーゲンがたくさん分解されているからもっとコラーゲンを作らなくてはと頑張る・・・ おそらくこれがコラーゲンの効果の肝なのでしょうが、この辺の詳細なメカニズムは、 今後、専門家の研究で解明されることを期待しましょう。
線維芽細胞を集めるペプチドがコラーゲンを作る信号も出しているのか、 その役目は別のペプチドが担っているのかは不明ですが、いずれにせよ、 食べたコラーゲンが消化される過程でできる特定のペプチドに大きな役目がありそうです。 線維芽細胞に働きかけるペプチドが少量しかできなければ、大きな効果は期待できません。 高分子コラーゲンは、絡まった三本のコラーゲン分子がほどけてそのまま溶け出したもの。 低分子コラーゲンは、高分子コラーゲンを人工的に細かく切断したもの。 低分子コラーゲンは特定のペプチドが残る可能性が低いのです。 はじめから小さなアミノ酸のつながりにしてしまっているので、 消化されたときにはほとんどが単体のアミノ酸になってしまうと考えられます。 また、特定のペプチドに必要な特定の配列部分がすでに切れてしまっていることもあるでしょう。 特定のペプチドが残る確率は高分子コラーゲンのほうが高いと考えるのが合理的です。