MBP

MBP』とは、乳塩基性たんぱく質のことで、牛乳や母乳に微量に含まれている整理活性ペプチドです。 MBPの飲用で骨密度が上昇するなどの研究結果からMBPを配合した特定保健用食品、錠剤形のサプリメント、飲料等の活用に期待されています。


■MBPの構造と食品での分布

『MBP』(Milk Basic Protein)は、牛乳(特にホエー)に含まれるたんぱく質のうち、カチオン(陽イオン) 交換樹脂に吸着する塩基性たんぱく質の画分(混合物)です。牛乳には、約3%のたんぱく質が含まれていますが、 そのうち約81%がカゼインで、残りの約19%が乳清(ホエー)たんぱく質と呼ばれています。 その乳清たんぱく質中に微量(約1%程度)に含まれている塩基性のたんぱく質の混合物が、MBPと呼ばれています。 牛乳中に換算すると約0.005%程度のMBPが含まれています。 MBPは画分なので、複数のたんぱく質が含まれており、high mobility protein(HMG)様たんぱく質、 キニノーゲン、シスタチンなど、従来からよく知られている生理活性たんぱく質が含まれています。 MBPは、もともと牛乳中のホエーに含まれている成分なので、食品での分布は牛乳や母乳です。 しかしながら、チーズなどホエー画分を含まない乳製品にはMBPは含まれていません。 もともとは、食品工業的観点からチーズ製造時の副産物のホエーの有効利用として、MBPの開発が進められたそうです。


●MBPの生体での働き

MBPに関しては、in vitroやinvivoの実験及び臨床的な研究から骨代謝に関与し、骨密度の上昇に作用することが わかっています。骨代謝は、骨に存在する骨形成系細胞の骨芽細胞と骨吸収系の破骨細胞の働きによって 営まれています。骨芽細胞は、新しい骨を作る細胞から造骨細胞とも呼ばれることがあります。 また破骨細胞は、骨を破壊するのでこのように呼ばれています。一見、ほとんど変化の内容に思われている骨ですが、 毎日、骨芽細胞と破骨細胞による骨形成と骨吸収が繰り返されています。数年間で全ての骨が作り替えられると考えられています。

MBP研究の発展順で生体での働きを説明します。当初、細胞を用いたin vitroの研究で、MBPに含まれている HMG様たんぱく質、キニノーゲンに由来するペプチド断片は、骨芽細胞の増殖を促進し、骨形成を促進することが 明らかにされました。さらにシスタチンに由来するペプチド断片は、破骨細胞が分泌する骨吸収プロテアーゼである カテプシンの活性を阻害し、破骨細胞による骨吸収を阻害することが明らかにされました。
次に、実験動物を用いたin vivoの実験により、MBPの活性ペプチド断片は腸管から吸収され、血中に移行することも 調べられました。さらに、成長期や卵巣摘出(閉経後骨粗鬆症のモデル)の実験動物を用いた研究から、 MBPは、いずれの場合でも骨量が増加することが明らかにされました。 最終的にヒトによる臨床研究では、6ヶ月間のMBP飲用試験の結果、MBPの飲用で骨吸収マーカーの値が低下し、 さらに骨密度が上昇することが明らかにされています。

これらの研究結果をもとに、2002年に乳業メーカーがMBPを含む飲料を「骨の健康が気になる方に適した特定保健用食品」として販売を開始しています。


●MBPの傾向摂取の効果と意義について

前述のようにMBPは、特定保健用食品として許可も受けている製品が存在するほどですから、 経口摂取による骨の健康への効果は認められます。ただし、骨への効果が現れるまでには、3~6ヶ月の摂取が 必要のようです。ところで、米国のナチュラルメディシン・データベース(NMCD)では、MBPの記載はありません。 ただしNMCDには、MBPが含まれる画分の乳清たんぱく質に関しての記載はあります。 データベースによれば、乳清たんぱく質は妊婦、授乳婦を含めて安全と記載されています。 有効性に関しては、①HIV罹患者の体重維持目的、②アトピー性疾患のリスク低減目的、 ③転移癌の治療目的に、乳清たんぱく質の有効性が示唆されていますが、信頼性の高いデータは十分に得られていないようです。 ハーブその他のサプリメントとの相互作用は不明ですが、ビスフォスファネート系骨粗鬆症治療薬 (アレンドロネートなど)と相互作用が指摘されています。これは乳清たんぱく質にカルシウムが含まれ、 薬物の吸収を阻害すると予想されるからです。同様に、ミネラルが吸収阻害するレボドパ、テトラサイクリン等の吸収を 乳清たんぱく質が阻害する可能性が考えられます。ただし、これらは全て乳清たんぱく質に関することで、 そこに微量に含まれているMBPに関してではないことを確認しておきます。

MBPは、基本的に乳に含まれている成分ですから安全性が高く、副作用などはほとんど心配ないと考えられています。 MBPを販売している乳業メーカーも、妊婦や授乳婦がMBPを飲用しても問題ないとしています。 一方、最近では複数のメーカーから特定保健用食品ではないMBPを含んだ錠剤型のサプリメントや、 牛乳以外の飲料等も市販されています。錠剤等の形状であっても乳アレルギーの方は摂取を控える必要があります。


●最後に

MBPは、乳にわずか(0.005%)に含まれる成分で、成人での有効量は1日20~40mg、骨への効果が明らかになるには 飲用を数ヶ月間続ける必要があります。これを毎日、通常の牛乳で摂取すると約1リットルを飲む必要がありますから、 通常の牛乳でMBPを摂取するのは難しいかもしれません。厚生労働省が許可した特定保健用食品ならば、 無理なくMBPを摂取できるので、これらの製品を摂取するか、特定保健用食品ではないMBPを含んだ製品を 摂取する方が現実的だと考えられます。 また、乳にMBPが添加されている製品も販売されていますが、MBPはペプチドですから、 熱にはそれほど安定ではないので、長時間の加熱を行うような調理は控えた方が無難です。 また、当然ですが、骨の健康に関与する栄養成分としてはカルシウム、ビタミンDなど多くの栄養素が知られています。 これらの成分を食事からバランスよく摂取することを忘れてはいけません。