薬の飲み合わせ
薬を飲んでいて、予期せぬ症状が起こる場合であります。 それは、併用した薬や、食べ物、飲み物、などとの「相互作用」で起こった可能性もあります。 薬と上手につきあうためには、使用している薬の「飲み合わせ」や「食べ合わせ」についても、 十分に知っておく必要があります。
■薬と飲食物との相互作用
薬の効果が現れるまで
薬の効果が現れるまでの過程を、一般的な内服薬で例示すると次のようになります。
- 薬が「胃」で溶かされる。
- 薬が「小腸」から吸収され、門脈(血管)を通って肝臓に送られる。
- 「肝臓」では、薬の一部が酵素で分解され、一般に分解されなかったものが効果を示す。
- 血流に乗って、薬が全身をめぐり、一部が目的の作用部位やそのほかの組織に運ばれる。 残りは、腎臓へ運ばれたり、肝臓へ戻る。
- 作用部位で効果を発揮する。
- 「腎臓」では、薬の一部は尿に含まれて排泄され、残りは血液中に取り込まれ、再び全身をめぐる。
全身をめぐった薬は、肝臓へ戻り3~6が繰り返され、最終的には、薬の効果が失われます。
●薬と飲食物との相互作用は何故起こるのか?
薬が効果を発揮するまでのさまざまな過程で変化が生じる
薬は、体内に入ってからいくつもの過程を経て、効果を発揮するのですが、 薬と飲食物との相互作用は、どの過程でも起こる可能性があります。
◆薬の吸収や分解などに変化が生じる
薬は、適正な血中濃度で最大の効果を発揮し、しかも副作用を最小にするように、薬の用量や服用回数などが決められています。 薬の血中濃度が高すぎると副作用が起こり、低すぎると十分に効果を得られません。 併用した薬や飲食物との相互作用によって、薬の吸収や分解、排泄などが正常に行われず、 血中濃度が高まったり低下したりすることがあります。
- ▼水虫の薬と胃薬
- 爪白癬(爪水虫)などの治療薬である抗真菌薬の「イトラコナゾール」と、 胃酸の分泌を抑える「H2ブロッカー」を併用すると、イトラコナゾールの血中濃度が低下し、 薬効を十分に得られず爪水虫が治りにくくなることがあります。 これは、H2ブロッカーによって胃液の酸性度が下がり、イトラコナゾールが十分溶けないまま 小腸まで運ばれてしまい、小腸からの吸収が低下するために起こります。
- ▼降圧薬とグレープフルーツジュース
- グレープフルーツに含まれる「フラノクマリン誘導体」という成分は、薬の分解酵素の一種に作用し、 その働きを阻害します。この成分が多く含まれるグレープフルーツジュースと降圧薬の「カルシウム拮抗薬」 の一部を併用すると、薬の分解が抑えられて血中濃度が高まり、薬の効果が強まって、 血圧が下がりすぎることがあります。200mlのグレープフルーツジュースを飲むと、 その影響は約3~4日持続するとも報告されています。カルシウム拮抗薬を服用しているときは、 グレープフルーツジュースには注意が必要です。
◆作用部位での薬効が変化する
薬が目的の部位に達した段階で、併用した薬や飲み物が、薬の作用に影響を及ぼすこともあります。 両者の作用が加わって薬効が強くなりすぎたり、両者の作用が拮抗して薬効が弱まったりします。
- ▼強心剤と利尿剤
- 強心剤の「ジギタリス製剤」と降圧薬の「ループ利尿薬」を併用すると、ジギタリス製剤の薬効が強まる ことがあります。ループ利尿薬にはカリウムの排泄を促す作用があります。 カリウムが排泄されて、体内のカリウム濃度が低下すると、ジギタリス製剤の薬効が強まり、 心臓の収縮力を高めるのです。ジギタリス製剤の薬効が強まると、吐き気や動悸、不整脈などが起こることがあるので、 注意が必要です。
- ▼血栓ができるのを防ぐ薬と納豆など
- 抗血液凝固薬の「ワルファリンカリウム」は、ビタミンKの働きを阻害することで、 血液凝固因子がつくられないようにし、血栓ができるのを防ぎます。 ところが、ビタミンKを多く含む食品を常用すると、血液凝固因子が作られるのが促進されるため、 薬の効果が打ち消されて、血栓ができやすくなります。 ビタミンKを多く含む食品には、納豆、クロレラ食品、ケール、ブロッコリー、ほうれん草などがあります。 ワルファリンカリウムを服用中の人は、これらの摂取を避けるようにしましょう。
●薬と飲食物の相互作用をどう防ぐか
”起こるかもしれない”と考え、医師や薬剤師に相談する
薬を使用するときは、誰にでも飲み合わせや食べ合わせによるトラブルが起こる可能性があります。 しかも、飲み合わせや食べ合わせの危険性は、使っている薬の種類が多ければ多いほど高くなります。 特にお年寄りの場合は、複数の薬を使用している人が多い上に、加齢による体調の変化もあり、 飲み忘れや重複などの誤用を起こしやすくなるので、慎重な対応が必要です。 薬を正しく使うためには、次のようなことに注意しましょう。
◆薬について知る
薬を使うときには、医師や薬剤師に、飲み合わせや食べあわせについて確認しましょう。 一般に、薬を使用するときには、飲み合わせなども含め、薬についての基本的なことを知っておくことが重要です。 医師から薬の処方箋を受け取ったり、薬局で薬を受け取るときに、次の5項目について確認するとよいでしょう。
- 薬の名前
- 何に効くか
- 注意すること
- 副作用
- 飲み合わせや食べ合わせなどの相互作用
◆使っている薬を知らせる
薬の処方箋を受け取るときは、現在は他にどんな薬を使っているかを担当医に伝えてください。 正確に伝えるために、ノートに記録をとったり、「お薬手帳」を活用するとよいでしょう。 お薬手帳は、薬の名前や用量、処方箋を発行した医療機関名や担当医名、副作用歴、病歴などを記入する欄がある手帳で、 多くの医療機関・薬局が患者に配布したり、販売したりしています。
◆”かかりつけ薬局”をつくる
複数の薬局を利用すると、飲み合わせが見逃される可能性があります。”かかりつけ薬局”を決め、 どの医療機関で処方された薬も、必ずそこで受け取るようにすれば、薬についての情報が一元的に管理され、 万一併用してはいけない薬が処方された場合でも、薬局で発見されて飲み合わせを防ぐことにつながります。 処方薬と、サプリメントや市販薬との相互作用で気になることなどについても、かかりつけ薬局に相談し、 適切なアドバイスを得るようにするとよいでしょう。
◆「特定保健用食品」などにも注意する
最近は血圧や血糖値などを調節する飲料などの「特定保健用食品」が出回っています。 降圧薬と、血圧を調節する特定保健用食品を併用すると、血圧が下がりすぎる可能性もあります。 特定保健用食品は食品の範疇に入るものですが、薬に準ずるものと考えて、 飲み合わせや食べ合わせに注意してください。 サプリメントやいわゆる健康食品などでも、食べ合わせが起こることがありますから、 薬を使用している人は、併用するときには気をつけましょう。