悪性リンパ腫

新しい薬が登場し、治療成績が向上するなど、『悪性リンパ腫』の治療成績は大きく進歩しています。 悪性リンパ腫は、タイプごとに治療法が異なります。血液癌の中では生存率が高く、治癒が望める場合も増えています。




■悪性リンパ腫とは?

リンパ球が癌化する病気

血液癌の中でもっとも患者数が多いのが、『悪性リンパ腫』です。 血液癌の患者数は近年いずれも増えていますが、悪性リンパ腫の増加が顕著です。 高齢者を中心に年間約2万4000人が医療機関で新たに悪性リンパ腫と診断されています。 血液は、骨髄の中にある造血幹細胞が分化・成熟して、白血球、赤血球、血小板などの様々な成分になります。 悪性リンパ腫は、白血球に含まれるリンパ球が癌化する病気です。 また、造血幹細胞からリンパ球が作られる過程のリンパ芽球が癌化する場合もあります。 リンパ球は、病原体や異物を排除する免疫の働きを担い、骨髄や血管のほか、全身に点在するリンパ節という器官に分布しています。 癌化したリンパ球は、主にリンパ節で増殖し、癌の塊(腫瘍)を作ります 腫瘍は、甲状腺や肺など全身の臓器に生じる場合もあリます。 中でも、胃や腸に生じるケースが多く見られます。


●主な症状

最も多いのが、首やわきの下、脚の付け根などのリンパ節が腫れることで、しこりを感じる場合もあります。 大きさは1~5cmのものが多く、痛みはありません。 しこりが大きいほど、悪性リンパ腫の可能性が高くなります。 中枢神経に起こると手足の麻痺、肺なら咳や呼吸困難、胃なら腹痛や嘔吐などの症状が現れることがあります。 発熱、体重減少、大量の寝汗などが起こる場合もあります。


●検査

これらの症状で医療機関を受診すると、検査が行われますが、他の病気の検査や検診などの際に悪性リンパ腫が見つかる場合もあります。 例えば、胃の内視鏡検査で胃に、腹部超音波検査で腹部に、胸部エックス線検査で胸に、それぞれ悪性リンパ腫が発見される場合があります。 血液検査ではLDHは異常値を示しますが、他の病気の恐れもあるので、それだけでは診断に至りません。


■悪性リンパ腫の治療

病気のタイプ別に治療法が選択される

悪性リンパ腫の治療は、薬物療法を中心に放射線療法、自家移植などを組み合わせて行われます。 悪性リンパ腫では、ドナーからではなく、患者さん自身の血液成分を移植することが多く、他人から提供される同種移植と比べて死亡リスクが低いのが特徴です。 また、診断を確定するため、あるいは合併症の治療として手術が検討される場合もあります。
悪性リンパ腫は、癌化するリンパ球の種類や、癌が発生する部位などにより、何十種類ものタイプに分類されます。 主なタイプとその治療法は、次のようなものです。


●びまん性大細胞型B細胞リンパ腫

びまん性大細胞型B細胞リンパ腫は、日本の悪性リンパ腫では最も多く、リツキシマブという薬に従来の抗癌剤を組み合わせた R-CHOP療法と呼ばれる薬物療法が行われるようになっています。 リツキシマブは、分子標的薬の一種です。リツキシマブを使用した療法は抗体療法と呼ばれ、 治療効果が高く、現在では、他のタイプにもよく用いられます。 この薬の登場で、悪性リンパ腫の治療は新時代を迎えたといえます。 薬物療法により、患者さんの6~7割程度が治癒します。ただし、効果が不十分な場合や再発する場合もあります。 再発した場合には、他の薬を使った治療が中心になります。さらに患者さんが65歳以下なら自家移植が勧められます。 ただし、移植前に大量の抗癌剤を使うので、体にかかる負担が大きく、一時、患者さん自身の白血球がほとんどなくなるため、感染症のリスクが高まります。


●濾胞性リンパ腫

濾胞性リンパ腫は、進行が比較的遅いタイプです。癌の範囲により放射線療法か薬物療法が選択されます。 また、数年にわたって悪化しないこともあるので、「腫瘍が小さい」「リンパ節の腫瘍が少ない」「全身や臓器の症状がない」 などの条件(低腫瘍量)を満たす場合には、治療を行わずに経過観察する場合もあります。


●MALTリンパ腫

MALTリンパ腫は、リンパ節以外の臓器にできやすく、特に、胃の粘膜に多く見られます。 その場合、ピロリ菌の感染が確認されたら、まず除菌を行います。 それにより7~8割は治癒します。効果がない場合には、放射線療法や薬物療法を行います。 肺や甲状腺などに起こった場合には、放射線、手術、薬などの治療法が用いられます。


■治癒の展望

悪性リンパ腫は、薬などの治療法が大きく進歩して、全体では5年生存率が60%程度まで高まり、血液癌の中では生存率が高い病気といえます。 最近では、薬そのものが放射線を出したり、飲み薬タイプの分子標的薬も盛んに開発されています。 これらの薬により、治療成績が一層向上することが期待されます。