多発性骨髄腫
『多発性骨髄腫』は、再発が多いのが特徴ですが、進行が遅く、症状を抑えられるようになってきています。 多発性骨髄腫の治療では、症状のない期間を延ばします。担当医と相談しながら、前向きに治療に取り組んでいきましょう。
■多発性骨髄腫とは?
リンパ球が分化した形質細胞が癌化する病気
骨髄の中にある造血幹細胞が分化・成熟して、血液成分の白血球、赤血球、血小板などが作られます。 白血球に含まれるBリンパ球は、細菌やウィルスなどの病原体に接触すると、形質細胞という免疫を担当する細胞に分化します。 形質細胞の一部は骨髄に戻って待機しますが、この骨髄の形質細胞が癌化するのが、『多発性骨髄腫』です。 多発性骨髄腫は、他の血液癌と同様に60~70歳代に多く、40歳以下で発症することは稀です。 かつては診断後の余命が2~3年といわれましたが、現在では治療法が進歩し、余命が大きく伸びると同時に、 骨の痛みなどの症状も抑えられるようになってきました。
●主な症状
自覚症状で最も多いのが骨の痛みで、患者さんの8割が訴えます。 特に多いのは腰や背中の痛みですが、肋骨や腕と脚の付け根などが痛むこともあります。 健康な骨では、古くなった骨を壊す破骨細胞と、新しい骨を作る骨芽細胞がバランスよく働きます。 多発性骨髄腫では、破骨細胞の働きが活性化され、骨芽細胞の働きが抑制されるため、骨が過剰に破壊されて痛みを感じます。 また、進行すると骨折しやすくなります。 骨が過剰に破壊されると、カルシウムが血中に溶けだし、高カルシウム血症を起こします。 すると、尿量が増えて脱水状態になり、吐き気・食欲不振が起きるほか、意識障害が起きることもあります。 また、骨髄の中で癌化した形質細胞(骨髄腫細胞)が増えると、造血幹細胞の増殖が妨げられ、赤血球、白血球、血小板が十分に作られません。 その結果、貧血、感染症にかかりやすい、病気やけがが治りにくい、出血が起こりやすいなどの症状が起こります。
●Mたんぱくの異常な増加
健康な形質細胞は、免疫の働きを担う抗体を産生しています。 ところが、癌化した形質細胞は、その代わりに、Mたんぱくと呼ばれる有害な物質を大量に作り、正常な抗体が減ってしまいます。 血中にMたんぱくが増加すると血液の粘り気が強くなって血流が阻害され、頭痛、めまい、耳鳴り、視力障害などが起こることがあります。 また、Mたんぱくのかけらが腎臓の尿細管に詰まると、腎不全を起こすことがあります。
●受診のきっかけ
多発性骨髄腫が疑われる場合は、血液検査、尿検査のほか、画像検査、骨髄検査などが行われます。 3人に2人くらいは、骨の痛み、貧血による動悸、息切れなどがきっかけで医療機関を受診し、診断されています。 腰の痛みが特に多く、”ぎっくり腰が治らない”ということで受診したら、多発性骨髄腫だったということもあります。 自覚症状が出る前に診断を受けることが望まれますが、健康診断や他の病気の検査で受けた血液検査がきっかけで、早期に発見されることもあります。 血液検査では、血中にMたんぱくが増加して、総たんぱくの値が上昇したり、ZTT、TTTなどで異常値が出るのがサインです。 ZTTやTTTは、肝臓病などでも、異常値を示すことがあります。
■多発性骨髄腫の治療
病気のタイプ別に治療法が選択される
多発性骨髄腫は、非常にゆっくり進行するのが特徴です。癌細胞が見つかっても、症状が全くない場合があり、これをくすぶり型(無症候性)といいます。 くすぶり型の1/3はそのまま発症せず、2/3は数年のうちに徐々に症状が現れます。 そこで、くすぶり型の場合は、すぐに治療は始めず、経過観察を行い、症状が現れ始めた時点で治療を開始します。
●症状が現れた時の治療
多発性骨髄腫の治療には、薬物療法と造血幹細胞の自家移植があります。 造血幹細胞移植は、治療効果は高いものの、体の大きな負担を伴うため、「比較的若くて体力がある」「重い症状がない」 「心臓や肺の働きが正常である」などの人が対象になります。 一般に65歳未満なら、まず3~4ヵ月間、薬物治療を行い、癌細胞が減ってきたら造血幹細胞の自家移植を行います。 65歳以上なら、薬物療法のみを9ヵ月から1年間ほど継続します。 ただし、65歳以上でも、体の状態によっては、移植を行うことがあります。
●薬物治療
治療は、多くの場合、ボルテゾミブという分子標的薬と、従来から用いられている抗癌剤やステロイド薬を組み合わせて行います。 ボルテゾミブは注射薬、他の薬は多くが飲み薬です。 ボルテゾミブは、癌細胞の増殖にブレーキをかける作用を持つ薬で、2006年に健康保険の適用になりました。 従来の薬より、かなり高い治療効果を示します。ボルテゾミブの効果が十分でない場合には、レナリドミド(サリドマイド誘導体)、サリドマイドなどの薬に変更します。 サリドマイドは、古くからある薬ですが、2008年から多発性骨髄腫の治療薬として使われています。 ボルテゾミブの副作用として、間質性肺炎、時に神経障害や腸閉塞が起こることがあります。 効果と副作用を見極めるため、最初の治療は入院して行われますが、特に問題がなければ、以後は外来で治療を継続します。
●造血幹細胞の自家移植
多発性骨髄腫の治療では、ドナーからの提供ではなく、大量の抗癌剤を投与し、癌細胞や血液細胞をほぼ完全に破壊したうえで、 保存しておいた本人の造血幹細胞を移植する自家移植が行われます。
●治療の効果
多くの場合、最初の治療で、癌細胞を減らし、症状を抑えることができます。 自家移植を行えば、平均3年程度、薬だけなら平均2年程度は再発を防ぐことができるといわれています。 骨の痛みなども消えて、仕事に復帰している人も多くいます。 20人に1人くらいは再発しないこともありますが、多くの場合、再発が避けられません。 治療は、癌細胞の量を減らして、再発までの期間をできるだけ延ばしたり、再発してもその都度症状を抑えます。 現在は、分子標的薬が登場して、症状のない状態を長く続けることができる時代になっています。 さらに新しい薬の開発も期待されています。
●症状を緩和する治療
骨の痛みや骨折に対しては、骨粗鬆症の治療で用いられるビスホスネートを使い、 骨病変の進行を抑えたり、痛みを取り除いたりします。荷重のかかる部位の骨折を予防するには、コルセットや杖を早めに使います。 痛みのコントロールにはオピオイド鎮痛薬を使います。一般のNSAIDsは、腎臓に障害を起こすことがあるので、 多発性骨髄腫の患者さんは使わない方がよいでしょう。