誤嚥性肺炎(嚥下性肺炎)

「肺炎」で亡くなる人の多くが高齢者、しかも、そのほとんどが誤嚥性肺炎が原因であると報告されています。 ここでは、誤嚥性肺炎の予防法を中心に解説します。


■誤嚥によって起こる肺炎がある

▼誤嚥とは
食べ物や飲み物、唾液などを飲み込んだ時、通常は口からのど(咽頭)を通って食道へと送られます。この一連の動きを「嚥下」といいます。 ところが食道へ送られるべき飲食物や唾液が、誤って気管に入ってしまうことがあります。これが「誤嚥」です。 飲食時だけでなく、睡眠時などに少量の唾液などを気付かず誤嚥することがよくあります。 誤嚥すると、通常は「むせる」「咳き込む」」などの「咳反射」によって吐き出そうとしますが、加齢や病気などで咳反射が低下すると、 誤嚥しても吐き出すことができなくなります。

▼誤嚥性肺炎とは
口の中には常にさまざまな細菌が存在しており、誤嚥したときに飲食物や唾液と一緒にその細菌が気管から肺に流れ込み、肺炎を起こすことがあります。 これが「誤嚥性肺炎」です。

誤嚥とは


●誤嚥性肺炎を起こしやすい人

▼誤嚥しやすいのは
「嚥下機能を低下させる病気がある」「寝たきりである」「胃液や胃の内容物が食道に逆流しやすい」などの場合には、誤嚥の危険性があるとされています。 さらに、「咳反射が低下している」「気道の慢性的な炎症(喘息COPDなど)がある」 「全身衰弱、低栄養、慢性疾患、薬の影響によって免疫の働きが低下している」などの場合には、誤嚥性肺炎が起こりやすいとされています。 近年注目されているのは、「サブスタンスP」という神経伝達物質で、この減少が嚥下機能や咳反射の低下を招く一因であることが報告されています。 サブスタンスPの減少は、脳血管障害やパーキンソン病などで起こるとされています。

▼高齢者に起こりやすい
高齢者の場合、嚥下機能と咳反射が低下し、気付かない間に誤嚥を起こし、誤嚥性肺炎を発症すると考えられます。

誤嚥性肺炎は高齢者に起こりやすい


■肺炎の症状

▼典型的な症状
誤嚥性を含む肺炎の典型的な症状は、「発熱」「咳」「痰」で、風邪に似ていますが、「38℃以上の高熱」「強い咳」「濃い色の痰」など、 一般に風邪より症状が重く、長引くのが特徴です。「息苦しさ」「胸の痛み」を感じる場合もあります。

▼高齢者の症状
高齢者の場合は、典型的な症状がはっきり現れず、いつもより「元気がない」「食欲がない」「ぐったりしている」「呼吸が荒い」など、 漠然とした症状が見られることがあります。周囲の人は、「調子が悪い」「何となく様子がおかしい」といった高齢者の体調の変化を見逃さないようにしましょう。

▼嚥下機能が低下しているサイン
日頃から、「食事中にむせたり咳き込む」「食後に声がかすれる」「微熱を繰り返す」などがあれば、誤嚥を疑うことも必要です。

誤嚥性肺炎の主な症状


■診断

▼どこを受診する
肺炎が疑われる場合は、まずかかりつけの内科などを受診し、必要があれば呼吸器内科など専門医を紹介してもらいましょう。 食事中によくむせるなど、誤嚥を疑う症状がある場合は、かかりつけ医に相談し、誤嚥の検査を受けられる医療機関を紹介してもらいましょう。

▼検査・診断
受診すると、症状などについての問診、胸の音を聴診器で聞く聴診、胸部エックス線検査、血液検査などが行われます。 肺に炎症があれば、エックス線撮影で炎症を起こしている部分が白い影として写ります。 血液検査では、白血球、CRPなどの値から炎症の有無を調べます。 これから肺炎と診断された場合は、重症度や、原因となっている病原体を調べますが、病原体が特定できない場合もあります。

■治療

▼治療は抗菌薬で
誤嚥性を含む肺炎の治療は、病原体に適した「抗菌薬」を使用します。 病原体が特定できない場合は、患者さんの年齢、症状、持病、周囲の流行状況などから病原体を推測して、効果が期待できる抗菌薬が選択されます。 軽症の場合は、通院して抗菌薬を内服しますが、重症だったり合併症がある場合は、入院して注射や点滴で治療します。 治療中は、自己判断で通院や服薬を中止しないことが大切です。完全に治っていなければぶり返してしまいますし、 薬を途中でやめることは、抗菌薬の効かない耐性菌の発生に繋がります。 また、下図のような副作用が現れることがあるので、服薬中に体調の変化があれば、すぐ担当医に伝えてください。

▼その他の治療
入院治療では、患者さんの症状に応じて、下図の「その他の治療」が行われます。

■薬による予防法

◆持病の治療と肺炎予防を兼ねる薬

持病の治療の際、担当医に相談して、次のような薬の使用を検討するのも一つの方法です。

  • ▼降圧薬の ACE阻害薬は、嚥下機能や咳反射を改善する効果があります。
  • パーキンソン病治療薬 のレボトバには嚥下機能を改善する働きが、アマンタジン(ドパミン遊離促進薬)には肺炎の発症を抑制する働きがあります。
  • ▼抗血小板薬のシロスタゾールは、血栓ができるのを防いだり、血流を改善したりして、 脳梗塞の再発を予防するほか、肺炎の発症を抑制する働きがあります。
  • ▼胃腸機能調整薬のモサプリドには、肺炎の発症を抑える効果があります。

◆ワクチンの接種

肺炎を起こす病原体のうち、高齢者に多いのが「肺炎球菌」によるものです。 肺炎球菌ワクチンとインフルエンザワクチンの両方を受けることが勧められます。



■生活上での予防法

▼口の中を清潔に保つ
毎食後と寝る前に、歯磨きと舌磨きを行いましょう。

▼食べ物や飲み物の温度に注意する
体温に近い温度(30~40℃ほど)の飲食物は、嚥下反射が起こるまでに時間がかかります。 体温に比べて熱かったり、冷たかったりするほうが、喉の感覚を強く刺激し、嚥下反射が起こりやすくなります。 そのため、食事は、作りたての温かいものや、料理によっては冷たく冷やしたものを摂ることが勧められます。 また、香辛料などを使った飲食物も、嚥下反射が起こりやすいので、適度に活用するとよいでしょう。

▼食後、すぐに横にならない
食後、すぐに横になると、胃から胃液や食べたものが逆流して誤嚥が起こりやすくなるため、 横になるのは食後1時間以上たってからにしてください。

▼頭を少し高くして寝る
胃液が食道に逆流するのを防ぐため、寝るときは少し高めの枕を使い、頭が少し高くなるようにして、背中にクッションを敷くなど、 緩やかな傾斜を付けましょう。