風邪の後に起こりやすい肺炎
風邪をこじらせて肺炎になった”という話を聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。 風邪やインフルエンザの後は体力が落ちて、細菌に感染しやすい状態になっています。 風邪の後に起こりやすい肺炎の特徴を知り、予防に努めましょう。
■風邪の後に起こりやすい肺炎
免疫の働きや体力の低下などで、細菌性の肺炎にかかりやすい
お年寄りは要注意
風邪やインフルエンザになり、その症状が治まってしまうと、つい体も回復したのだと思いがちです。 しかし、傷ついた気道の粘膜や低下した体力が元に戻るまでには、もうしばらく時間がかかります。 この期間は細菌に感染しやすく、肺炎を発症することが多いので、注意が必要です。
風邪の後に、特に肺炎を起こしやすいのがお年寄りです。高齢になると、肺や心臓、腎臓など、 体のさまざまな臓器の機能が低下しがちです。こうした臓器の衰えに、風邪による体力の低下などが 加わり、肺炎が起こりやすくなるのです。 肺炎は日本人の死亡原因の第4位ですが、肺炎で死亡する人のほとんどは75歳以上です。 そして、年齢が高くなればなるほど、肺炎による死亡率も高くなっています。 お年寄りの場合、肺炎になっても、若い年代の人に比べて症状がはっきり現れないことがあり、 気付かないうちに肺炎が重症化して、亡くなってしまう例が多いのです。 また、肺炎が引き金となって心臓病や糖尿病などの慢性的な病気が悪化し、それによって亡くなることもあります。
●風邪の後に肺炎が起こる仕組み
風邪を引くと体力が衰え、細菌など病原体の体内への侵入や活動を防ぐ「免疫」の働きが低下します。 また、風邪のウィルスによって気道の粘膜が傷つけられ、細菌が活動しやすい環境になります。 そのため、風邪の後は細菌が傷ついた粘膜で増殖したり、肺の奥に入り込んだりして、 肺炎を引き起こしがちです。
●風邪の後に起こる肺炎の主な病原体
風邪の後に起こる肺炎の多くは、ふだんから体内に存在する細菌(常在菌)で引き起こされます。 健康なときには免疫機能が働くため、常在菌によって肺炎を発症することはありません。 しかし、風邪などで免疫機能が低下すると、常在菌の力のほうが強くなり、肺炎を発症しやすくなるのです。 風邪の後に起こる肺炎が原因で、最も多いのが「肺炎球菌」で、 「市中肺炎(日常生活で病原体に感染して起こる肺炎)」の原因の約1/4を占めています。 インフルエンザの後などは、「インフルエンザ菌」に感染しやすくなります。 インフルエンザ菌の感染者には、喫煙者が多いとも言われています。 これらの次に頻度が高いのが「モラクセフ・カタラーリス」で、 ほかにも、「黄色ブドウ球菌」「嫌気性菌」などの細菌があります。
●症状
黄色い痰が特徴的、お年寄りは症状が現れにくい
◆典型的な症状
細菌性の肺炎にかかると、一般的には次のような症状が現れます。
- ▼黄色い痰
- 細菌によって肺に炎症が起こることで、黄色や緑色を帯びた膿のような痰が出ます。
- ▼高熱
- 38℃以上の高熱が出ます。
- ▼長く続くせき
- 痰がからんだ湿ったせきが長く続きます。ひどいときは、夜眠れないほどの激しいせきが出ることがあります。
それ以外には、「悪寒や関節痛、筋肉痛」などの全身症状が現れます。 さらに進行すると、「呼吸困難や胸痛」なども起こります。
◆お年寄りに見られる症状
体力が低下し、寝たきりなどで活動性が低いお年寄りが肺炎になると、 熱やせきといった肺炎の典型的な症状が現れないことがよくあります。 また、症状があっても訴えなかったり、1人暮らしで、自分では肺炎の症状に気付かないこともあります。 そのため、早期発見が難しく、気付いたときには重症化していることも珍しくありません。 お年寄りの細菌性の肺炎の症状は、熱もあまり上がらず”元気がない、ぐったりしている”という程度です。 しかし、”はあはあ”と呼吸が荒くなったり、酸素不足と脱水症状が原因となって脈が速くなる「頻脈」が起こることがあります。 重症になると、「意識障害」や「腸閉塞」を起こすこともあります。 こうしたお年寄りの症状を見逃さないことが大切です。
●検査と治療
主に「ペニシリン系」や「セフェム系」の抗菌薬を使用する
肺炎が疑われるときは、「エックス線検査」で肺の状態を調べます。また、細菌性の肺炎かどうかを
調べるために、採取した痰を染色して顕微鏡で調べる「咯痰グラム染色検査」が行なわれます。
病原体を特定するには、「培養検査」が必要ですが、検査に時間がかかるため、その間に重症化する
おそれがあります。そのため、咯痰グラム染色検査の結果から大体の診断をつけて治療を開始し、
培養検査で確認するのが一般的です。
肺炎の治療では、抗菌薬を使用して細菌を死滅させる薬物療法が中心になります。
肺炎を起こす細菌には細胞壁があり、それで自らを守っています。こうした細菌を死滅させるには、
「ペニシリン系」や「セフェム系」の抗菌薬で、細胞壁の合成を阻害することが有効です。
ただし、副作用として、まれに「急激な血圧低下」や「アレルギー」などが起こることがあります。
軽症の肺炎の場合は、通院して、ペニシリン系やセフェム系の飲み薬を1~2週間服用します。
症状が重い場合は、これらの薬を注射や点滴で用いたり、「カルバペネム系」などの抗菌薬を
使用したりします。カルバペネム系の抗菌薬は、細菌性の肺炎に対して最も強い効果がありますが、
一般的には、他の抗菌薬で効果が得られない場合に限って使われます。
抗菌薬以外には、肺炎の症状により、熱を下げる「解熱薬」や気管支を広げる「気管支拡張薬」、
痰の切れをよくする「去痰薬」などが使われます。
薬物療法は、「血液検査」でたんぱく質の一種である
「CRP」の値が正常になり、
発熱が治まるまで行なわれます。お年寄りでは、食欲の回復が治療の目安になります。
自己判断で薬を中止したりせず、医師の指示に従って服用しましょう。
●風邪の後肺炎を防ぐには
治ってからも2~3週間は注意が必要。睡眠と栄養を十分にとる。
風邪やインフルエンザの症状が治まっても、体が完全に回復するまでには2~3週間かかります。
その間は細菌に感染しやすいので、次のようなポイントに注意しましょう。
細菌の感染を防ぐには、まず風邪をきちんと治すことが大切です。そして、体の回復を促すために、
体を温かくして睡眠をしっかりとり、栄養のある食事と水分をたっぷり摂りましょう。
免疫機能が低下すると、肺炎を発症しやすくなります。不規則な生活やストレスは、
免疫の働きを弱めます。日頃から規則正しい生活を心がけ、ストレスを溜めないことが大切です。
また、タバコは気道や肺を直接障害して、肺炎を引き起こす大きな原因になります。
喫煙者が肺炎になると、重症化しやすいという報告もあります。
禁煙は、風邪の回復を早め、肺炎の発症を防ぐ有効な手段の1つです。
●食事を摂ることが回復への近道
風邪をひいて体力が落ちると、免疫機能に影響を及ぼします。 さらに、食欲がないからといって食事を摂らないでいると、栄養不足の状態が続いて、 肺炎を起こした場合も薬の効き目が悪くなり、回復に時間がかかってしまいます。 また、食事が摂れるかどうかは、体が徐々に回復している目安にもなります。 食欲のないときは、重湯やお粥など、無理なく食べられるような献立の工夫をしましょう。 それが、1日も早い回復につながります。