高血糖対策・糖尿病予防に『海藻類』

ノリ、ワカメ、コンブなどの『海藻類』を構成している「酸性多糖類」という水溶性食物繊維には、 食物が胃や小腸を通過する時間を長くし、炭水化物や脂肪などの吸収を遅くする作用があり、 糖尿病患者にとっては、食後高血糖の抑制や、コレステロールの低下という嬉しい作用が期待できます。


■海藻

海藻は生活習慣病の予防に役立つ食品

『海藻』はとても健康によい食品です。日本人になじみのノリ、ワカメ、コンブを例にとると、 これらの海藻には「酸性多糖類」に属する成分が含まれています。 栄養学的には水溶性食物繊維の仲間ですが、海藻にしかない独特の多糖類です。 さらに専門的にいうと、同じ酸性多糖類でも、ノリに含まれているのはポルフィラン、コンブやワカメに含まれているのは 「アルギン酸」と「フコイダン」と呼ばれます。 それぞれ特徴のある性質を持つ化学的多糖類ですが、生理的効果は共通点があります。 しかしながら、これらの成分はいずれも動物実験などで、 血圧、血糖値、コレステロール値、中性脂肪値などを下げる働きがあることがわかっています。 つまり、ノリ、ワカメ、コンブなどの海藻は、生活習慣病の予防のために積極的に食べることが望まれます。


■フコイダン

海藻類に含まれるフコイダンは、超健康成分

水溶性食物繊維は、水に溶けて、一緒に摂取した食物などの水分を抱き込んでヌメリ成分になりますが、 フコイダンのヌメリ成分が、食べ物が胃から小腸に移動する際の速度を緩慢にさせます。 また、ブドウ糖が腸に吸収されるスピードも遅くするため、食後の急激な血糖値の上昇を抑えます。 血糖値の上昇に合わせて起こるインスリンの分泌も緩慢となり、そのため、糖尿病の予防、症状の軽減に効果があるのです。
これまで知られているフコイダンの生理活性は、抗酸化作用、免疫増強作用、抗腫瘍効果、抗ウイルス作用、胃潰瘍防止作用、 抗糖尿病作用、抗動脈硬化症作用、抗アレルギー作用、抗血液凝固作用、肝障害軽減作用など極めて多彩です。 とりわけ、抗癌性機能性食品の一つとして癌の補完代替医療においてフコイダンが注目されています。

【関連項目】:『フコイダン』


■アルギン酸

海藻類に含まれるアルギン酸ナトリウムには,食後高血糖を抑制する働きやインスリン節約作用をすることがわかっています。

■ビタミン・ミネラル

ノリ、ワカメ、コンブには必須栄養素のビタミンも豊富です。 ビタミンはB群が多いのが特徴ですが、中でも注目されるのはノリのビタミンB12です。 ビタミンB12は、脳神経などの発育には不可欠の栄養素です。 しかし野菜や果物にはほとんど含まれていません。 動物性食品でビタミンB12の含有量が最も多いのは、牛のレバーですが、食品成分表などによると 単位あたりの含有量はノリの方が多いことがわかります。 このため、最近は世界のベジタリアン(菜食主義者)の間で、ノリが注目を浴びており、 ノリのサプリメントが開発に至っているほどです。 さらにノリ、ワカメ、コンブには、同じく必須栄養素であるカルシウム、ナトリウム、カリウム、 また特殊な酵素の「補酵素」としても知られる鉄、銅、亜鉛などのミネラルも豊富に含まれています。 その働きの一例を挙げると、カルシウムは骨や歯や爪を作るために必要なミネラルで、鉄は血液の材料になります。 また、亜鉛は生殖に関わる重要なミネラルです。


■海藻ポリフェノールエキスの摂取と糖尿病

以下は、長瀬産業がクロメ由来の海藻ポリフェノールエキスが食後高血糖の是正および糖尿病合併症の進行を抑制することを、 明治薬科大学 奥山徹教授、京都大学 藤多哲朗名誉教授との共同研究で見出し、その研究成果を第3回国際ポリフェノール学会 (11月25日~28日、京都:国立京都国際会館)で発表した研究報告です。

●研究報告

褐藻類コンブ目コンブ科クロメ(Ecklonia kurome)は、本州太平洋岸の中部・南部、四国、 九州および本州日本海岸に広く分布し、漁村などでは長年の食経験がある海藻。 含有するポリフェノール成分としてトリフロロエトール、エコール、ジエコールなどのフロロタンニン類が知られており、 静菌・抗菌活性や糖質分解酵素α-アミラーゼに対する阻害活性が報告されている。

そこでクロメから、ポリフェノール含量90%以上の海藻ポリフェノールエキスを作製し、 その抗糖尿病効果について検討を行った。 まず、糖質分解酵素の阻害活性として、海藻ポリフェノールエキスは、デンプンを分解するα-アミラーゼに対して 強い阻害効果を示し、その50%阻害濃度は16μg/mlだった。また正常マウスを用いた動物試験で、 海藻ポリフェノールに血糖値上昇抑制効果があることが確認された。

次に、2型糖尿病モデルマウス(KK-Ay)の海藻ポリフェノール投与として、KK-Ayマウスは自然発症型の2型糖尿病モデルマウスで、 過食、肥満、高血糖、高インスリン血症などの症状を示す。血糖値が400mg/dl以上となった糖尿病発症マウス(1群7匹)に、 0.1%海藻ポリフェノールエキス溶液を飲水で5週間投与した。対照群には水道水を摂取させた。 その結果、血糖値上昇抑制として、海藻ポリフェノールエキス投与群は、対照群と比較して、血糖値の上昇が有意に抑えられていた。 高インスリン血症の進行抑制として、海藻ポリフェノールエキス投与群は、対照群と比較して、 投与5週目の耐糖能(耐糖能とは上昇した血糖値を正常値に戻す能力のことであり、インスリンの分泌反応、分泌量、 効きによって決定される)が良好だった。また、血中インスリン量が対照群の65%と有意に低く、 海藻ポリフェノールエキスが2型糖尿病モデルマウスのインスリン抵抗性(インスリン抵抗性とは、 血中から糖を取り込む細胞において、インスリンの効きが鈍くなっている状態のこと)の悪化を抑え、 高インスリン血症の進行を抑制していると推測される。

糖尿病性腎症の悪化抑制として、海藻ポリフェノールエキス投与群の腎臓を観察したところ、 対照群と比較して、腎臓メサンギウム基質増加(糖尿病三大合併症の一つである糖尿病性腎症は、腎臓で血液をろ過している 糸球体の異常によって起こる)が見られる糸球体の個数が有意に少ないという結果が得られた。 この結果から、糖尿病による腎臓障害の悪化が、海藻ポリフェノールエキス投与によって抑制されている可能性が示唆された。

以上の結果から、海藻ポリフェノールエキス摂取によって、糖尿病および合併症の進行が抑制される可能性があることが 認められた。


■補足

2007年の厚生労働白書によると、疾病全体に占める生活習慣病の割合は、死亡原因で6割、医療費で3割を占めており、 国民の健康への大きな脅威となっている。なかでも2型糖尿病は、重篤な合併症(網膜症、腎症、神経障害) を引き起こして生活の質を著しく低下させることから、予防および発症後の食後高血糖の是正が重要だといわれています。 是正方法の一つに、消化管から分泌される糖質分解酵素の阻害があり、この阻害活性をもつ物質は、 糖尿病治療薬や特定保健用食品の有効成分として使用されているといっています。