子供の難聴(先天性難聴)

先天性難聴は治療が難しいとされてきましたが、最近は聴力を改善できるようになってきました。


■先天性難聴とは?

遺伝子や妊娠中の感染症、トラブルで新生児に難聴が起こる

日本では、新生児の1000人に1人が生まれつき難聴を伴っているといわれています。 そうした先天性難聴の原因の約半分が遺伝子によるもので、残りの半分は妊娠中の感染症やトラブルによって起こるとされています。 特に、近年大きな問題になっているのが妊娠中の風疹です。 胎児にも風疹が感染すると、さまざまな障害を来す先天性風疹症候群が引き起こされます。 2013年には特に多く、全国で32人の先天性風疹症候群のある新生児が生まれました。 先天性風疹症候群の多くが高度の難聴を伴うといわれています。


■難聴の検査

新生児に刺激音を聞かせ、脳波などの反応を調べる

先天性難聴は、2000年ころまでは早期発見が難しく、子供が2~3歳になってから発語が悪いのに周囲が気付いて、 医療機関で検査を受けて難聴とわかる場合が大半でした。 最近は、新生児聴覚スクリーニングという検査によって、生まれてすぐに難聴の可能性を調べることができるようになっています。 新生児聴覚スクリーニングは、新生児にある刺激音を聞かせて、脳波などの反応を分析し、音がどれぐらい聞こえているかを調べます。 難聴の早期発見に非常に重要で、全国で検査が行われていますが、新生児全員に検査を行っている施設の割合は都道府県によて異なり50%以下のところが約半数です。 その背景には、必要な機材の普及や自治体による助成金の有無などがあると考えられます。

●発見が遅れると言葉の発達に影響

難聴の発見が遅れると、言葉の発達に影響が及び、その後の学校での勉強や日常生活に支障を来します。 日本耳鼻咽喉学会や日本産婦人科学会などでは、難聴の早期発見とその後の対応のためにも、この検査を非常に重視しています。 原則としては、産婦人科などで生後1か月以内に新生児聴覚スクリーニングで、難聴の疑いがあるかどうかを調べて、 疑いがある場合、3ヵ月までに耳鼻咽喉科で聴力検査を受けます。 診断が確定した場合は、生後6か月以内に療育と呼ばれる専門的な対応を開始することが大切です。 生後6か月以内に療育を開始すれば、その後良好なコミュニケーション能力を得られる可能性が3倍高くなるといわれています。 早期に療育を開始するためにも、新生児聴覚スクリーニングが重要になります。

◆療育とは?

補聴器や手話を使って、コミュニケーション能力を高める

療育では、補聴器や手話を使って言葉の刺激を与えます。 これがコミュニケーション能力を高めるために最も大切なことで、行っていくうえでは親の理解と協力を得るための指導も必要です。 岡山県の研究では、重い難聴でも知的能力に差がなければ、生後6か月から早期療育を受けた場合、6歳になったときに獲得した語彙力は、 難聴のない子供と同レベルであることがわかりました。 そのため、現在では、多くの自治体で軽度の難聴であっても補聴器の使用が推奨されています。 補聴器を購入するための助成金を支給する取り組みも、多くの自治体で行われています。


難聴の検査


■人工内耳とは?

補聴器では効果が得られない時は人工内耳の手術を受ける

補聴器を使っても効果が得られない場合には、「人工内耳」を使う方法があります。 最近は人工内耳の性能が進歩して、重度難聴の子供でも、聴力の劇的な改善が期待できるようになりました。

●人工内耳の仕組み

人工内耳は、手術によって体内に埋め込んで使う装置と、体の外に着けて使う装置に分けられます。 体内で使う装置は、受信用アンテナとアンテナから伸びるケーブルで構成されます。 手術で側頭部の骨に大人の小指が入る程度の孔をあけ、受信用アンテナを皮膚の下に埋め込み、ケーブルは耳の奥にある聴覚器官の蝸牛に送り込みます。 体の外で使う装置は、マイクの着いた本体と本体から伸びる送信用アンテナから成ります。 本体は耳に掛けるなどして使い、送信用アンテナは皮膚を挟んで磁石で受信用アンテナに密着させ、固定します。 マイクが集めた音は電気信号に替えられて、送信用アンテナから受信用アンテナを経て蝸牛に送られます。 ケーブルの電極が蝸牛内の聴神経を刺激することで、電気信号が脳に伝えられて音として認識されます。 鼓膜の内側の中耳から蝸牛までは、産まれた時すでに完成しているので、体内に埋め込む装置は、基本的に大人になっても使い続けます。 一方、体の外に着ける装置は、必要に応じて交換します。 入浴する場合は、体の外に着ける部分を外します。外しておけば、水遊びをしたり、プールに入って泳ぐこともできます。 運動も小学校の体育の授業で行われる程度のものなら、特に制限する必要はありません。 手術を受けて音が聞こえるようになっても、言葉を理解していなければ会話はできません。 音が聞こえるようになるまで習得できなかった言語力を補うため、手術後は聞き取りや会話のトレーニングを受けることが必要になります。


●手術は1歳になったら早めに受ける

子供場合、1歳以上で両耳とも90デシベル以上の重度難聴なら人工内耳の適応になります。 手術は健康保険の対象になり、自己負担額は多少軽減されます。 なお、手術は早めに受ける方がよいとされています。 現在、日本では18歳未満の人工内耳利用者は約2500人いるといいます。 ただし、手術を受けても効果がない、非常に効果が乏しいといったケースも約1%程度はあるといいます。 事前に画像検査などを受けて、効果の見通しについてきちんと相談することが大切です。
人工内耳の手術は、主に大学病院などの大きな医療機関で行われています。 小さな子供なので、手術を受けることに不安もあると思いますが、人工内耳の手術に関しては子供だからリスクが多くくなるということはありません。 手術による最も重い合併症は、顔の左右半分が麻痺する顔面神経麻痺ですが、発生頻度は0.1%程度とされています。 しかし、どんな手術にもリスクは伴いますから、担当医と相談し手術のメリットとリスクをよく考えたうえで判断することが大切です。


人工内耳の仕組み