双極性障害(躁鬱病)の治療
●治療の目的
双極性障害と鬱病とでは治療法が異なります。鬱病の治療目的は、落ち込んだ気分を正常な状態に回復することですが、 双極性障害の治療目的は、気分の波を安定させて躁状態や鬱状態をコントロールし、寛解期を維持することです。
●治療の基本は薬物療法
双極性障害の治療は、病気の経過によって、「躁状態を抑える治療」「鬱状態を持ち上げる治療」「再発を予防する治療」の3段階に分かれます。 治療の基本は薬物療法です。中心になるのは、気分の波を平坦に近づけて安定作用がある「気分安定薬」と呼ばれるタイプの薬です。 躁状態と鬱状態の両方を改善する効果があるだけでなく、再発予防にも有効です。 この気分安定薬を基本薬として、患者さんの経過に合わせた治療が行われます。
●抗鬱薬は単独で使用しない
双極性障害の鬱状態に、鬱病の薬である「抗鬱薬」を単独で使うことはありません。 有効性が認められていないだけでなく、双極性障害に抗鬱薬を使うと、経過が不安定になったり、 急に躁状態が現れる「躁転」を引き起こしたりする危険性があるからです。 ただ、鬱状態が非常に重く、自殺の心配があるような場合は、気分安定薬を使ったうえで、抗鬱薬を慎重に併用することはあります。
●再発予防のための治療
躁状態や鬱状態から回復した後も、再発を予防するために、少なくとも2年間は、気分安定薬の服用を続けることが必要です。 患者さんの中には、症状がなくなると服薬を勝手にやめてしまう人もいるのですが、双極性障害は再発しやすい病気であることをよく理解して、 医師の指示通りに服薬を続けてください。また、治療中は、定期的に受診して、「薬の量は適切か」「副作用は出ていないか」 などのチェックを受けることが大切です。
●日常生活の注意点
双極性障害の再発予防には、薬物療法が不可欠ですが、それに並行して生活リズムを整えたり(社会リズム療法)、 発症の引き金になるストレスを回避したりすると、予防効果がさらに期待できます。
◆生活リズムを整える
働き過ぎや睡眠不足などによって生活リズムが不安定になると、再発しやすくなります。 起床、就寝、食事、仕事などの生活リズムをできるだけ一定に保つようにしましょう。 特に大切なのが睡眠のリズムです。徹夜は躁状態のきっかけになりやすいので、忙しくても睡眠時間はしっかり確保することが大切です。 自分の生活リズムを把握するために、睡眠や行動、気分などを毎日記録するとよいでしょう。
◆ストレス対策
人間関係や環境の変化などのストレスは、再発の引き金になったり、症状を悪化させる要因になります。 自分には何がストレスになりやすいのかを把握し、その状況をできるだけ避けるようにしましょう。 また、避けられないストレスがあった場合は、すぐに主治医に相談し、薬物療法を強化するなどの対策を取ることが大切です。
●再発前兆を見逃さない
いったん躁状態や鬱状態になってしまうと、患者さんは自分が病気だということがわからなくなってしまいます。 気分が安定している寛解期の正常な状態を覚えておいて、鬱状態や躁状態に切り替わりそうなときに、 自分でその変化に気付けるようにしておくと、早い段階での対応が可能になります。 ただ、患者さんだけでは気付かないこともあります。家族や周囲の人も患者さんの様子に注意し、「いつもと違う」と感じたら、早めに受診を勧めることが大切です。 特に、一度でも躁状態になったことがある場合は、再発の兆候を見逃さないようにしましょう。