前立腺癌の転移癌の治療
『前立腺癌』は転移が起こりやすい癌です。 ただ、さらなる進行を抑えるための治療法は、さまざまあります。 骨転移がある場合などでも、しっかりと治療を行っていくことが大切です。
■転移癌の治療
生活の質を保つためにも、諦めないで治療を続ける
前立腺癌は骨に転移しやすい特徴があり、転移の約80%は骨に起こるといわれています。骨に転移が起こると、「背中や腰の痛み」 「脚のしびれ」などの症状が現れることがあります。これらの症状が出ることによって、初めて前立腺癌に気付く人も少なくありません。 前立腺癌の多くは進行がゆっくりで、骨などに転移が起きても、すぐに命に関わる状況にはなりません。 ただ、骨転移の痛みで行動が制限されるようになる人はいます。生活の質を維持するためにも、痛みを我慢したりせず、 諦めずに治療を続けることが大切です。
●転移癌の治療の目的は2つある
転移癌を治療する目的は2つあります。1つは、癌のさらなる増大を抑えることです。 もう一つは、痛みなどの症状を軽減することです。そのためには、骨に対する治療も必要になります。
●ホルモン療法
男性ホルモンが働かないようにして、癌の増大を抑える
転移癌の治療の中心となるのは「ホルモン療法」です。前立腺癌は、男性ホルモンの刺激で増殖するので、 男性ホルモンが働かないようにすることで、癌の増大を抑えます。「注射薬」による治療と「手術」の2本柱です。
- ▼LH-RHアゴニスト
- 最もよく使われている注射薬です。脳からは、精巣から男性ホルモンを分泌するように指令するホルモンが、 分泌されています。このホルモンに似た薬を投与すると、脳が指令となるホルモンの分泌をやめてしまうため、 精巣から男性ホルモンが分泌されなくなります。この薬は1ヶ月に1回、あるいは3ヶ月に1回注射します。 最近では「LH-RHアンタゴニスト」という注射薬も使われるようになっています。 脳からホルモンが分泌されるのを抑える薬で、LH-RHアゴニストと似た効果を現します。
- ▼精巣摘出術
- 両側の精巣を切除する手術です。男性ホルモンを合成し、分泌している精巣を取り除くことで、 男性ホルモンの分泌を抑えることができます。 治療効果に関しては、注射をきちんと継続すれば、注射薬による治療でも手術でもほぼ同等です。 それぞれの特徴をよく理解したうえで、患者さんが自分の希望に沿って選択することができます。 手術に抵抗がある人は、注射薬による治療を選択することができます。ただ、手術には「注射薬より経済的負担が少ない」 「通院回数が少なくて済む」「何らかの理由で通院できなくなったとしても、影響があまりない」などの利点があります。
●抗男性ホルモン薬を併用することも
注射薬による治療や精巣摘出術に「抗男性ホルモン薬」を併用する、「CAB療法」という治療も行われています。 抗男性ホルモン薬は、男性ホルモンが前立腺癌に働きかけるのを抑える薬です。 精巣以外に、副腎からも僅かに男性ホルモンが分泌されていますが、このホルモンの働きも抑えることができます。 1日に1~3回服用します。
■副作用への対処法
休薬や薬の種類の変更、間欠療法などがある
LH-RHアゴニストなどの注射薬による治療や、精巣摘出術を受けると、副作用として「性機能障害」が起こります。 そのほかに、「ほてり」「発汗」「骨粗鬆症」など、女性の更年期障害とよく似た症状が出ることがあります。 また、抗男性ホルモン薬による治療では、「乳房の張りや痛み」「肝機能障害」などの副作用が出ることがあります。 副作用が出た場合には、担当医に相談してください。休薬したり、薬の種類を替えたりできる場合もあります。 ホルモン療法の副作用を軽減したり、治療費用の負担を軽減したりする目的で、「間欠療法」が行われることもあります。 ホルモン療法は、効果がある限り継続するのが原則ですが、治療によってPSA値が下がっている場合は、 約9ヶ月経ったところで治療を休止します。 休んでいると、再びPSA値が上がり始めるので、ある一定の値になったところで、再度ホルモン療法を開始します。 このように、治療と休薬を繰り返していくのが間欠療法です。
■再燃癌への治療
抗癌剤とステロイド薬で、癌の増大と副作用を抑える
ホルモン療法は2~10年ほどで効かなくなり、やがて男性ホルモンに関わらず増大する癌細胞が現れてきます。 このように、ホルモン療法が効かなくなり、増大した癌を、「再燃癌」といいます。 再燃癌に対しては「抗癌剤治療」が行われ、「ドセタキセル」という薬が使われます。 通常、初めの2~3週間は入院して治療を受け、効果の現れ方や副作用の出方をチェックします。 その後は、3週間に1回、通院で点滴を受けます。 副作用で最も注意が必要なのは「白血球の減少」で、感染症の危険性があります。 そのほか、「血小板減少」「だるさ」「むくみ」「手足のしびれ」「脱毛」なども起こりやすくなります。 そこで、ドセタキセルは「ステロイド薬」と併用することがよくあります。 ステロイド薬にはドセタキセルの副作用を抑える作用だけでなく、癌の増大を抑える作用もあるといわれています。
●新しいホルモン薬での治療に期待
現在、「エンザルタミド」と「アビラテロン」という2種類の新しいホルモン療法が開発されています。 先のホルモン療法が効かなくなり、抗癌剤も使用した患者さんに対して、生存期間を延ばす効果が明らかになっています。 ここ数年での実用化が期待されています。
■骨転移した癌への治療
前立腺癌の骨転移に関しては、「ビスフォスフォネート」という薬がよく使われます。
骨の破壊を抑え、骨転移の進行を抑える効果が期待されています。3~4週間に1回、点滴で投与されます。
似た作用を持つ「デノスマブ」という薬も使われるようになっています。4週間に1回投与されます。
痛みに対しては、「鎮痛薬」などを適切に使用することが基本です。
さらに、放射線療法が行われます。方法の1つは、外照射で、痛みのある骨転移病巣に、体の外側から放射線を照射します。
もう1つは、「放射性ストロンチウム」を使用する方法で、体のさまざまな部位が痛む場合に適しています。
ストロンチウムは骨の代謝が活発な部位に集まります。
そのため、全身の骨転移病巣にストロンチウムが行き渡り、そこで放射線を放って、痛みを抑えるのです。
●いずれの場合も副作用を我慢しない
ビスフォスフォネートやデノスマブによる治療では、低カルシウム血症による「手足のしびれや痙攣」、 場合によっては「意識障害」を起こすこともあります。 また、「顎骨壊死」といって、顎の骨が溶けて顎の腫れや痛みが現れることがあります。 これを防ぐためには、口腔内を清潔に保つことが大切です。