前立腺癌

前立腺癌は男性だけの病気で、患者が急速に増加しています。 初期は症状はなく、進行すると尿が出にくい、尿が細くなる、尿が近くなる、夜間多尿、下腹部不快感など 「前立腺肥大症」と同じ症状が見られます。 特に50歳以上になると患者数が増加していきます。 前立腺癌は、ここ30年ほどで患者数が急激に増えている癌で、ゆっくり進むのが特徴です。 前立腺癌は、早期には症状がほとんどありませんが、進行すると 「排尿障害」などが現れてきます。 最近では、血液検査で前立腺癌の可能性をチェックできる方法が普及し、早期の段階で発見できるようになっています。 早いうちに発見できれば、その分治療の選択肢も広がり、治る可能性も高くなります。


■前立腺癌とは?

高齢者に多い男性特有の癌。患者数の増大が予測されている

「前立腺」は男性特有の生殖器官の1つで、膀胱の出口付近に位置し、中心を尿道が通っており、大きさは15~17mL程度で、ほぼクルミ大です。 役割の1つは、精液の約30%を占める「前立腺液」を分泌することです。 もう1つ、排尿をコントロールする役割もあります。 前立腺の下にある括約筋と共に、尿漏れを防ぐ働きや、排尿を促す働きをしています。 この前立腺から発生する癌が、「前立腺癌」です。
前立腺癌は、高齢の男性に多い癌で、患者全体の約90%を60歳以上の人が占めています。 2017年の統計では、日本で前立腺癌を発症した人は年間約9万人で、男性に発症する癌の第1位です。 しかし、前立腺癌は進行が比較的ゆっくりで、死亡率はほかの癌に比べるとあまり高くないのが特徴です。 前立腺癌は男性であればだれでも発症する可能性があります。


●患者数が増えている理由

1つ目は食生活の欧米化です。肉や乳製品などから動物性脂肪を摂り過ぎることが関係していると考えられています。 2つ目は、高齢者が増加していることです。前立腺癌は、50歳代から見られるようになり、60歳代で急に増加し、70歳代でピークになります。 高齢者が増えれば、前立腺癌の患者さんも増えるのです。 3つ目は、前立腺癌の発見に役立つ血液検査が普及してきたことです。 検査・診断の進歩により、癌の発見率が高くなったことなどが指摘されています。 4つ目は家族歴との関係です。特に、父親や兄弟に前立腺癌を発症した人がいると、発症リスクが2~5倍程度高くなるといわれています。

■前立腺癌の特徴

進行が遅いのが特徴で初期のうちは症状が現れにくい

前立腺癌には次のような特徴があります。

▼症状が出にくい
前立腺は、内側の「内腺」と外側の「外腺」から成り、それを「被膜」が包んでいます。 尿道に近い内腺に起こる「前立腺肥大症」とは異なり、 前立腺癌の多くは尿道から遠い外腺に発生するため、初期のうちは排尿への影響はほとんど現れませんが、進行して癌が大きくなると、尿道が圧迫されて 「排尿障害」などが現れるようになります。 癌が前立腺内にとどまっている場合を「限局癌」、癌が大きくなって前立腺の被膜を破ったり、 近くの臓器に進行した場合を「局所進行癌」といいます。局所進行癌でも、症状が出ることはあまりありません。 ただし、尿道側や膀胱側に癌が進行した場合には、「血尿」や「頻尿」などの症状が出ることがあります。

▼骨に転移しやすい
前立腺癌は骨に転移しやすく、骨盤の骨や腰椎などによく転移します。 そうなると腰や背中が痛むようになり、その痛みで癌に気付くことがあります。 骨盤骨や脊椎(背骨)に転移すると「骨盤や腰、背中の痛み」が起きたり、 背骨に転移した癌が神経を圧迫して「神経麻痺」「歩行障害」などが現れたりすることもあります。

▼ゆっくり進行する
前立腺癌には、進行がゆっくりしているという特徴があり、早期には症状がほとんど現れません。 そのため、かつては、発生して数十年たって癌が進行してから発見されることが多くありました。 しかし現在では、早期発見に役立つ検査が普及し、早い段階で発見されるケースが増えています。 早期に発見できれば、その分治療の選択肢も広がり、適切に治療できれば、多くは完治が可能です。 早い段階で見つかれば、前立腺癌で命に関わることはほとんどありません。 50歳を過ぎたら、自治体などの検診を定期的に受けることをお勧めします。
前立腺癌の進行

■前立腺癌の検査

まずは血液検査で「PSA」の値を調べる

前立腺癌が疑われるときは、次のような検査が行なわれます。

●血液検査(PSA検査)

前立腺癌の初期は、自覚症状がほとんどありません。 早期発見のためには、前立腺から血液中に漏れ出した「PSA」を採血して調べる、PSA検査が重要です。 「 PSA(前立腺特異抗原)」は、 前立腺の細胞で作られるたんぱく質の1種です。 健康な状態でも、また前立腺肥大症がある場合でも血液中に漏れ出しますが、前立腺癌がある場合、癌が大きくなるほどその量が多くなります。 基準値(4ng/mL以下)を超えると「前立腺癌の疑いがある」と判断され、より詳しい検査が行なわれます。 ただし、前立腺肥大症でも基準値を超えることがあり、サイクリングや性行為などで前立腺が刺激された場合にもPSA値は上がることがあります。 一方、癌が小さい場合は、漏れ出るPSAの量が少ないために、癌があってもPSAは基準値を超えないことがあります。 そのため、基準値に収まっていても油断は禁物です。定期的にPSA検査を受けることが勧められます。
PSA検査は、人間ドックや医療機関を受診して受けることができます。また、自治体によっては、住民検診でPSA検査を行っている場合もあります。 定期的にPSA検査を受け、PSAの値が急上昇してきたときは要注意です。

前立腺癌の検査

◆癌が疑われる場合の精密検査

PSA検査で前立腺癌が疑われる場合は、精密検査が行われます。

▼直腸診
医師が肛門から指を入れて直腸の壁越しに前立腺に触れ、癌の有無を調べます。 癌があるとその部位が硬く、ゴツゴツした感触があります。「前立腺肥大症」や「直腸癌」の有無も調べます。 50歳以上の人は1度受けるとよいでしょう。

▼経直腸的超音波検査
超音波を発する機器「超音波プロープ」を直腸に挿入し、前立腺の状態をモニターに映します。 前立腺の大きさや形状から、癌が疑われる部位があるかどうかを調べます。 癌のある部位や癌の大きさがわかる場合があり、治療方針の決定に役立ちます。

▼生検
前述の検査で、癌が強く疑われる場合や定期的なPSA検査で急に値が高くなった場合に、確定診断のために行われます。 前立腺に細い針を10ヵ所以上刺して組織を採り、顕微鏡で癌細胞の有無を調べます。 局所麻酔をして行うため、痛みは少ないですが、検査後、出血したり、尿が出にくくなることがあるので、多くの場合、1~2日入院して行われます。 また、直腸内から針を刺すため、直腸内の細菌が前立腺に入る可能性があります。 そのため、検査の前後に抗菌薬を使用するなどして、「感染症」が起こらないようにします。 最近では、MRI検査で細胞の密度の高い部分を映し出せるようになったため、その部分に集中的に針を刺すことで、癌細胞をより採取しやすくなっています。 生検は、外来や1泊程度の入院で受けることができます。

◆確定診断

生検で確定診断された場合は、さらに治療方針を決める検査が行われます。 癌の「悪性度」は生検で調べます。「進行度」については、MRIやCTなどの画像検査で、前立腺の内側や周囲の様子を調べて判定します。 リンパ節や周囲の臓器への転移の有無はCT検査で、骨への転移は「骨シンチグラフィー」という検査で調べます。 これらの検査結果を元に癌の病期(進行度)を判定し、治療方針を検討します。

【悪性度】
採取した癌組織を顕微鏡で調べ、その悪性度を2~10のスコアで評価します。 6以下なら悪性度は低く、7は中間、8以上は悪性度が高いと評定されます。

【骨シンチグラフィー】
癌の転移の有無を確認するための画像検査。骨の新陳代謝が活発な部位に集まる性質がある「放射性同位元素」という物質を含んだ薬剤を注射し、 その物質が放つ放射線の量を計測して画像化します。 画像のより白っぽくなっている部分が、骨転移した前立腺癌です。
骨シンチグラフィー

●癌が小さく、悪性度が低ければ「経過観察」という選択肢も

前立腺癌では、癌が小さく、悪性度が低い場合、定期的に検査を受けながら経過観察を続ける「監視療法」が行われるケースがあります。 「PSA値が10ng/mL未満」「限局癌である」「悪性度が6以下」「陽性スコアが2本以下」という条件がそろった場合に選ぶことができます。 監視療法では、基本的にPSA検査を3ヶ月ごとに、直聴診は6ヶ月ごとに、そして生検は前立腺癌と診断されてから1年後と、必要時に受けます。 生検で悪性度が7以上に上がったり、癌が明らかに大きくなってきたり、陽性スコアが3本以上になった場合は治療が検討されます。
手術などの治療を受けると、尿漏れや勃起障害などの後遺症が現れることがあります。 このような点を考慮して治療方法を選択することが大切です。

【陽性コア】
生検で針を刺して採取した前立腺癌の組織(コア)のうち、癌細胞が見つかったもののこと。 陽性コアが採取された針が多いほど悪性度が高くなります。


■その他

▼前立腺肥大症があると前立腺癌になりやすい?
前立腺肥大症と前立腺癌はまったく別の病気です。前立腺肥大症の人が前立腺癌を発症しやすいということはありません。 ただ、どちらも加齢に伴って増える病気ですし、前立腺の肥大は高齢の男性に多く見られますから、 前立腺癌に前立腺肥大が合併することは多いといえます。 そのため、前立腺肥大症があると前立腺癌が発症しやすいという誤解が生じることになったのでしょう。