膀胱癌
■症状と特徴
発熱や腹痛などの症状を伴わない血尿が多く見られます。 膀胱癌は、癌が膀胱内の粘膜下層にとどまり、転移のみられない表在性癌と、粘膜下層よりも下の筋層へ広がっている浸潤性癌の2種類に分けられます。 表在性癌は膀胱内で再発しやすく、浸潤性癌は膀胱の奥まで広がって転移しやすいという特徴があります。 高齢の男性に多く、発生率は女性の4倍です。
■原因
化学物質や喫煙、尿路感染症との関係が指摘されています。
■治療
癌の状態によって治療法は異なります。 表在性癌では、尿道から内視鏡を入れて癌を切除する手術の後、再発予防のために抗癌剤かBCGを膀胱内に注入する膀胱内注入療法が行われるのが一般的です。 何度も再発を繰り返す場合や浸潤性癌への進行が心配される際には、膀胱をすべて摘出する、根治的膀胱摘出術を行う場合もあります。 浸潤性癌の場合も根治的膀胱摘出術を行うのが一般的です。これは、膀胱から尿路、骨盤内のリンパ節、男性の場合には精嚢と前立腺も含めて切除するものです。 尿を体外に出す尿路を変更する必要があるため、尿管摘出術も同時に行います。 なお、癌の広がりが狭い場合には、例外ではありますが、膀胱部分切除術が行われる場合もありますが、転移しやすいので注意が必要です。 このほか、放射線療法や全身化学療法が用いられることもあります。放射線療法は、合併症があって手術できない場合や高齢者などを対象に行われます。 数種類の抗癌剤を組み合わせて用いる全身化学療法は、根治的膀胱摘出術の前後に行われたり、転移性の癌などに適用されます。
■膀胱癌は血尿を見逃すな
男性に多い「膀胱癌」。早期に発見して根治を目指すために、病気のサインに気を付けましょう。
●膀胱癌発症の最大の危険因子は”喫煙”
膀胱は、尿を一時的にためておく器官です。腎臓で作られた尿は、尿管を通って膀胱に送られ、尿道から排出されます。
これらの尿の通り道(尿路)の内側は、尿路上皮という粘膜に覆われていて、膀胱癌の90%以上は、この粘膜から発生する「尿路上皮癌」というタイプです。
膀胱癌を発症する人は、日本では年間2万人以上に上ります。男性に多く、発症数は女性の3倍以上です。
膀胱癌の最大の危険因子は喫煙で、男性に喫煙者が多いことが関係していると考えられています。
タバコに含まれる発癌物質は、尿の中にも排出され、尿路上皮に影響を及ぼします。
なかでも、尿が溜まる膀胱の尿路上皮は、特に癌が発生しやすいと考えられます。
実際に、タバコを吸ったことがない人に比べて、喫煙している人では約3.5倍、膀胱癌を発症しやすいことが報告されています。
加齢も膀胱癌発症の原因とされていて、60歳を超えると膀胱癌を発症する人が急増します。
日本では、社会の高齢化に伴い、過去15年のうちに、膀胱癌を発症した人の割合は約1.4倍高くなっています。
また、現在は製造禁止になっているものですが、特定の種類の染料などの化学物質を扱う職業の人に、職業性の膀胱癌が多く発症することが報告されていました。
海外では、家族に膀胱癌を発症した人がいるとリスクが上がるとの報告もありますが、日本では少ないと考えられています。
膀胱癌の進行は、早期癌、局所進行癌、転移癌の3段階に大きく分けられ(下図参照)、
患者さんの約3/4は、早期癌の段階で診断されています。早期癌は根治できる場合が多いので、早期発見のサインをよく知っておくことが大切です。
●一度でも血尿があれば、受診して検査を
早期発見の重要なサインとなるのが、目に見える血尿です。
多くの場合は赤い色の尿が出ますが、血液の色は時間がたつと変化するため、黒っぽくなったり、茶色っぽくなることもあります。痛みは伴いません。
膀胱癌による血尿は、何日も続くことは少なく、多くの場合、翌日には消えます。
そして2~3ヶ月後に再び血尿が出るということもしばしばあります。
血尿が出て、すぐに泌尿器科を受診すれば、多くの場合、早期癌の段階で発見できます。
このような、痛みを伴わずに目に見える血尿で膀胱癌が見付かる人は、全体の約7割といわれています。
しかし、残りの3割では、はっきりとわかる血尿は現れないので、早期発見のためには、健康診断などで行われる尿検査を定期的に受けることが大切です。
特に、50歳以上で喫煙歴のある人は、年に1回は尿検査を受けることが勧められます。
尿検査で目に見えない微量の血尿を調べる「尿路血」という項目が陽性の場合は、必ず泌尿器科を受診しましょう。
泌尿器科では、まず主に2つの検査が行われます。
◆まずは2つの検査を受ける
■膀胱癌が疑われたら
尿細胞診や超音波検査で膀胱癌が疑われた場合や、高齢者などリスクの高い人には、精密検査が行われます。
- ▼膀胱鏡検査
- 局所麻酔をして、尿道から膀胱内に直径6mmの軟らかい内視鏡を入れて膀胱の中を観察します。 検査時間は5~10分間で、通常は外来で行えます。
- ▼MRI検査
- 癌が膀胱の壁に食い込んでいる深さを、画像に写しだします。
- ▼CT検査
- 癌が、膀胱以外に、腎臓や尿管にできていないか、またリンパ節や肺、骨、肝臓などに転移していないかを調べます。
MRI検査やCT検査は、局所進行癌が疑われる場合によく行われます。
◆癌だとわかったら
治療方針を決めるために、癌の深さや悪性度を調べます。 そのための検査を兼ねて行われるのが「経尿道的切除術(TURBT)」という手術です。 TURBTでは、全身麻酔または脊椎麻酔をして、筒状の内視鏡を尿道から膀胱に挿入し、電気メスで組織を切除します。 早期癌の場合は、これによって癌を根こそぎ切除できて、治療が終わることもあります。 手術時間は1時間ほどで、4~6日間の入院が必要です。 切除した組織は顕微鏡で観察し、癌の深さや悪性度を調べます。 この結果は、再度TURBTを行って残った癌を取り除く必要があるのかどうかや、膀胱をすべて提出する必要があるのかどうかなどの判断をするのに役立ちます。 癌の悪性度は、その後の経過・進行に関わります。悪性度が高い場合は、進行や再発の危険性が高くなるため、癌が浅くても、薬による治療などを追加します。 また、局所進行癌と診断された場合は、転移していないかどうかも必ず検査します。
最近(2020年)は、「PDD(光力学的診断)」という診断方法を使ったTURBTが行われるようになっています。 患者さんに癌を光らせる物質を飲んでもらい、膀胱内に青色の光を当てると、癌だけが赤く光って見えます。 それによって、従来のTURBTでは見えにくかった病変もはっきりわかり、より確実に癌を切除することができるようになりました。
顕微鏡で癌の組織をみると、組織の形状や密度などが異なり、ここから癌の悪性度がわかります。 細胞の核(黒い粒)の大きさが均一で、細胞の形や大きさが揃っているのは、悪性度が低い組織。 核や細胞の形や大きさにばらつきがあると、悪性度が高い。