前立腺癌の手術療法

手術療法は、主に早期の前立腺癌が対象で、癌を前立腺ごと切除する「前立腺全摘除術」が行なわれます。 癌は前立腺内の数ヶ所に発生することが多いため、根治のためには前立腺と精嚢をすべて切除することが必要です。

■手術療法(前立腺全摘手術)

前立腺と精嚢を取り除く

前立腺癌の手術療法は、前立腺と精嚢、周囲のリンパ節(所属リンパ節)を切除するもので、「前立腺全摘手術(全摘除術)」と呼ばれています。 手術には、「開放術式(開腹手術)」「腹腔鏡下前立腺全摘除術」の2つの方法があります。 開腹して行なう場合は、おへその下、あるいは肛門と陰嚢の間にある「会陰部」を切開して手術します。 最近では、お腹に小さな孔を複数あけ、そこから手術器具を入れて行う腹腔鏡手術が多く行われています。


●開放術式(開腹手術)

▼恥骨後式
かつて最も広く行なわれていた方法です。へその下から恥骨にかけて15~20cmほど切開し、恥骨の後ろから前立腺と精嚢を摘出します。 根治の可能性が高く、周囲のリンパ節を取りやすいというメリットもあります。 ただし、切開する範囲が広く、体への負担は比較的大きくなります。

▼会陰式
「会陰部(肛門と陰嚢の間)」を約5~6cm切開し、前立腺と精嚢を取り除きます。 恥骨後式に比べ、切開する範囲が小さいのが特徴です。 しかし、大きく肥大している前立腺の切除や周囲のリンパ節の摘出には適していません。 また、行なわれている医療機関はあまり多くありません。

どちらの手術でも、手術時間は2~4時間、入院期間は1~2週間程度です。


●腹腔鏡下前立腺全摘除術

腹部に5mm~1cm程度の孔を5ヶ所ほど開けて、内視鏡の一種である「腹腔鏡」や手術器具を挿入します。 医師は、モニターに映し出された画像を見ながら手術を行ないます。 開放術式に比べて切開する範囲が小さく出血も少ないのが特徴です。ただし、医師の高度な技術を必要とする方法です。 一般的に、手術時間は3~6時間、入院期間は5~7日程度です。 開放式術式と腹腔鏡下前立腺全摘術の両方の長所を生かした「小切開手術」もあります。 腹部を5~10cm程度切開して内視鏡を入れ、肉眼と内視鏡画像で患部を見ながら手術する方法で、リンパ節の摘出も可能です。 手術後の傷が開放術式より小さいのが特徴です。
最近は多くの場合、「ロボット支援にによる腹腔鏡手術」が行われています。 ロボット支援手術は、傷口が小さくて済むため、患者さんの体への負担が少なく、入院期間が短縮でき、後遺症も少ないとされています。


●手術療法の合併症

前立腺全摘手術では、前立腺の先端に位置する「尿道括約筋」を傷つけてしまうことがあります。 また、膀胱と前立腺の下にあった尿道を直接つなぐため、尿道括約筋に負荷がかかりやすくなります。 こうしたことから、手術後に「尿失禁」や「頻尿」などの「排尿障害」がしばらく続くことがあります。 排尿障害は、手術を受けたすべての人に起こりうる合併症ですが、3ヵ月後には約70%の人が、1年後には90~95%の人が改善するといわれています。 また、前立腺の近くを走る「勃起神経」が傷つくと「勃起障害」が起こることがあります。

手術の際、癌のある部位や広がりによって、勃起神経が温存できるかどうか決められます。 前立腺のすぐ横を走る勃起神経の近くに癌がある場合、この神経も切除します。 そのため、「勃起障害」が起こることがありますが、最近は神経をできるだけ温存する手術も行なわれています。 勃起神経を温存できれば、3ヶ月~1年ほどで男性機能が回復してきます。 予想される治療の効果と合併症のバランスをよく考えたうえで選択することが大切です。


■その他

▼手術後は積極的に歩く
手術後、横になっている時間が長いと、脚の血管に「血栓」ができやすくなります。 血栓が心臓から肺に繋がる動脈に詰まる「肺塞栓症」が起きると、突然死に繋がる恐れがあります。 また、手術中に全身麻酔などの影響で骨盤内の血流が滞ると、血栓ができやすくなります。 もともと「動脈硬化」がある人や手術時間が長い場合に、 特に起こりやすいといわれています。 肺塞栓症を防ぐためには、手術の前から後にかけて、「空気圧マッサージ器」や「弾性ストッキング」を脚につけて、脚の血行を促すようにします。 血栓を防ぐ薬が使われることもあります。 患者さん自身もできるだけ早めに床を離れ、積極的に歩くように心掛けましょう。