前立腺癌の治療

前立腺癌には、ゆっくり進行するという特徴があります。 治療は、経過観察や手術、放射線療法、ホルモン療法など、さまざまな方法があるため、癌の状態だけでなく、患者さんの年齢なども考慮して決定されます。 それぞれの分野の進歩により、根治や癌を抑え続けることが目指せるようになってきています。 それぞれの違いや、長所と短所などをよく理解して選択しましょう。 担当医と相談してそれぞれの治療法を理解し、納得した上で治療を受けることが大切です。


■前立腺癌の治療

癌の状態や患者の年齢、希望などに応じて行なわれる

前立腺癌には多くの治療法がありますが、主なものは「待機療法、手術療法、放射線療法、内分泌療法」 の4つです。どの治療法を選択するかは、癌の状態や患者さんの年齢などを考慮して決定されます。

▼経過観察(待機療法)
前立腺癌はゆっくり進行します。患者さんが高齢で癌が小さく、悪性度も低い場合などは、治療しなくても天寿をまっとうできるケースがあります。 そのため、特に治療はせず、 経過観察が行なわれることもあります。

▼内分泌療法(ホルモン療法)
薬を使って、前立腺癌の増殖に関わっている男性ホルモンの分泌を抑えたり、前立腺への男性ホルモンの影響を抑えたりして、癌の進行を防ぎます。 前立腺癌は、男性ホルモンの刺激を受けて大きくなる性質があるので、その性質を利用して治療するのです。 内分泌療法は唯一、すべての病期で行なわれている治療法です。

▼手術療法
前立腺ごと癌を取り除く治療法です。病期A~Bの癌が主な対象です。

▼放射線療法
前立腺全体に放射線を照射し、放射線によって癌を死滅させます。 病期AとB、Cの一部の癌を対象に行なわれます。

前立腺癌は、高齢者に多く、他の癌に比べると進行が遅いため、特に治療を受けない人もいます。 それは、治療の合併症や薬の副作用のために、治療を受けることで、かえって生活の質を落とす恐れがあるためです。 そのため、あえて積極的な治療を行なわずに、経過を観察する方法を選ぶことがあります。 これを「待機療法」といいます。 待機療法は、主に病期A~Bで、特に悪性度の低い人に行われます。待機療法中は、PSA検査を定期的に受け、 必要に応じて「生検」を受けるなどして、癌の進行を定期的に確認します。 PSAの値が上昇してきた場合などは、治療方針の再検討が行なわれます。


■治療法を決める要因①

癌の病期や悪性度などで治療法が異なる

治療法を決めるために特に重要なのは、癌の状態です。 癌の状態は、「病期(進行度)」「悪性度」などで判定されます。

●病期の分類法

前立腺癌は、主に次のような2つの方法で病期が分けられます。

▼ABCD分類
癌の広がりなどにより、病期Aから病期Dまでの4期に分類されます。 前立腺癌の治療法は、癌の進行度や合併症の有無、患者さんの年齢や希望を考慮した上で選択されます。

▼TNM分類
癌の大きさや広がり(T)、リンパ節への転移の状況(N)、他の臓器への転移の状況(M)によって、評価します。

病期 癌の状態
T1a 直腸診や画像検査などでは発見できず、前立腺肥大症の手術での前立腺組織の切除によって 偶然発見された癌。小さいものがT1a、大きいものがT1b。
T1b
T1c 直腸診では触れないが、PSA検査で発見された癌。前立腺内にとどまっている。
T2 直腸診で触れることができ、前立腺内にとどまっている癌。
T3 前立腺の被膜の外や、精嚢に広がっている癌。
T4 精嚢だけでなく、膀胱や尿道括約筋、直腸などにも広がっている癌。
N1 前立腺の近くのリンパ節に癌が転移している。
M1 前立腺から離れたリンパ節や臓器、骨などにも癌が転移している。


●悪性度の分類法

前立腺癌の悪性度は、「グリーンスコア」を元に評価します。 「生検」で採取した癌細胞の組織の形態を顕微鏡で観察し、そのうち1番目と2番目に面積の大きいものを、 最も悪性度の低い1から、最も悪性度の高い5まで55段階で評価し、2つの数値を合計したものがグリーンスコアです。 評価は2~10の9段階で、合計の数値が高いほど悪性度が高くなります。 また、「PSA」の値が高い場合には、低い場合に比べて治りにくいことがわかっているため、PSAの値も治療法を選択する際の参考にします。


■癌の進行度に応じた治療法

前立腺癌は、進行が緩やかなのが特徴です。早期であれば、根治が期待でき、前立腺癌が原因で亡くなる人は極めて少ないと考えられます。 ただし、癌が骨など、前立腺から離れた場所に転移している場合、根治は難しくなります。 それでも、最近は新しいホルモン薬が登場したことなどによって、以前よりも癌を抑え続けることができるようになってきています。 治療法は、癌の進行度に応じて選択されます。

▼限局癌
治療法には、監視療法(定期的に検査を受けながら経過観察を続ける)、手術、放射線療法があります。 多くの場合、放射線療法には、一定期間ホルモン療法が併用されます。 75歳未満の人や75歳以上の人でも体力のある人は、手術や放射線療法によって根治を目指すことが勧められます。 治療を受けた人の多くは10年以上癌を抑えることができます。 長期の合併症を考慮して、50歳代など比較的若い人には手術が、体への負担を考慮して75歳以上の人には放射線療法が勧められますが、 選択に当たっては患者さんの希望も重視されます。 他に病気があったり、高齢で体力が低下しているなどの場合は、ホルモン療法で癌の進行を抑えていく選択肢もあります。

▼局所進行癌
手術に加え、必要に応じて放射線治療やホルモン療法が行われます。 局所進行癌は、検査ではわからない小さな転移があると再発する可能性が高くなります。 そのため、手術後には他の治療を追加することもあります。
また、手術は行わずに、放射線治療と一定期間のホルモン療法のみを行う治療法もあります。 放射線療法を行う場合、最初からホルモン療法を行うほうが治療成績が良いことがわかっているからです。

▼転移癌
主にホルモン療法が行われ、状況に応じて抗癌剤が使われます。

■治療法を決める要因②

年齢や治療による合併症も考慮する

治療法の選択には、患者さんの年齢や健康状態、前立腺癌以外の病気なども考慮されます。 担当医とよく相談し、治療による合併症についてよく理解したうえで、納得して治療を受けましょう。 合併症は、治療法によってさまざまです。主な合併症に、「尿漏れ」や「排尿痛」などの「排尿障害」、 あるいは、「勃起不全」や「性欲低下」などの「男性機能障害」などがあります。 しばらくすると回復するものもあれば、回復が難しいものもあります。

●治療の効果と合併症

▼手術療法
・根治の可能性がある
・お腹を切るが負担の少ない方法もある
・尿漏れや男性機能障害が起こることもある

▼放射線療法
・根治の可能性がある
・外照射療法と組織内照射療法がある
・排尿障害や下痢などが起こることもある

▼内分泌療法
・癌の進行を抑える
・主に注射薬や内服薬を使う
・骨粗鬆症や男性機能障害が起こることもある

前立腺癌の治療を受けるときは、担当医とよく相談し、十分に納得した上で、治療法を決定するようにしましょう。


■前立腺癌の治療方法