前立腺肥大症の薬物療法

前立腺肥大症の薬物療法』は、排尿障害を軽減し、患者のQOL(生活の質)の改善を主な目的として行なわれます。 治療のための薬には、機能的閉塞を軽減する「α遮断薬」、機械的閉塞を軽減する「抗男性ホルモン薬」が主に用いられます。 そのほか、症状の改善を図るために、「植物製剤」「アミノ酸製剤」「漢方薬」「抗コリン薬」などが用いられることもあります。


■薬物療法

『前立腺肥大症の薬物療法』は、排尿障害を軽減し、患者のQOL(生活の質)の改善を主な目的として行なわれます。 治療のための薬には、機能的閉塞を軽減する「α遮断薬」、機械的閉塞を軽減する「抗男性ホルモン薬」が主に用いられます。 そのほか、症状の改善を図るために、「植物製剤」「アミノ酸製剤」「漢方薬」「抗コリン薬」などが用いられることもあります。


●α遮断薬(交感神経α受容体遮断薬)

『α遮断薬』は、 前立腺や膀胱の出口(頚部)の筋肉を弛緩させる作用を持つ薬で、尿道の機能的閉塞を軽減して、尿の通りを改善します。 前立腺肥大症の治療では「第一選択薬」とされ、通常、まずこの薬を用います。 「塩酸プラゾシン」「ウラピジル」「塩酸テラゾシン」「塩酸タムスロシン」「ナフトビジル」 「シロドシン」という薬があり、種類によって、1日に1~2回内服します。 効果は比較的速やかに現れ、通常、1~2週間で排尿困難の症状が改善してきます。 ただ、服用をやめると、再び尿道が塞がって症状が出てくる可能性があります。
前立腺や膀胱頚部の筋肉は、交感神経の指令によって収縮します。この指令は、交感神経から放出される 神経伝達物質(ノルアドレナリン)が筋肉にある受容体に結合することで伝わります。 α遮断薬は、α受容体と結合して”ふた”をすることで、ノルアドレナリンがα受容体に結合できないように遮断し、 前立腺や膀胱頚部の筋肉の緊張を緩める薬です。

◆α遮断薬の副作用・使用上の注意

α遮断薬はもともと高血圧の治療のために開発された薬で、血管壁にあるα受容体を遮断することで、 血管の緊張を緩め、血圧を下げます。血圧低下は、降圧薬としては目的とする作用ですが、 前立腺肥大症の治療薬としては副作用になってしまいます。そのため、特に、降圧薬としても用いられる 塩酸プラゾシン、ウラピジル、塩酸テラゾシンでは、血圧低下と、それに伴うめまい、頭痛などが起こりやすくなります。

α受容体にはいくつかのタイプがあり、前立腺や膀胱頚部と血管とではどのタイプが多いかが異なります。 そこで最近では、前立腺や膀胱頚部に多く分布するタイプのα受容体に強く作用し、 血管壁に多く分布するタイプのα受容体にはなるべく作用しない薬の開発が進められてきました。 塩酸タムスロシン、ナフトピジル、シロドシンといった比較的新しいα遮断薬では、血圧低下に伴う副作用は軽減されています。 ただ、これらの薬は前立腺や膀胱頚部の筋肉を弛緩させる作用が強力なだけに、射精の際に精液が膀胱に逆流する 「逆行性射精」や性機能障害は起こりやすくなります。 また、勃起障害の治療薬である「PDE5阻害薬」の併用には注意します。 α遮断薬とPDE5阻害薬はどちらも血管を拡張させる作用を持つため、併用すると、 血圧が下がりすぎる危険性があるからです。


●抗男性ホルモン薬

前立腺の肥大には、男性ホルモンが関わっていることがわかっています。抗男性ホルモン薬は、 男性ホルモンが前立腺に取り込まれて作用するのを抑える薬で、内服薬の「酢酸クロルマジノン」 「アリルエストレノール」などがあります。肥大した前立腺を縮小させることで、 尿道の機械的閉塞の軽減を図ります。ただし、排尿障害を改善する効果は、α遮断薬ほどには強くありません。 前立腺肥大症の薬物療法ではα遮断薬から使い始めることが多いので、その効果が不十分な場合に 抗男性ホルモン薬を併用するのが一般的です。通常、1日1~2回内服し、効果が出るまでには 1~2ヶ月ほどかかります。α遮断薬と違って、肥大した前立腺肥大自体が2~3割小さくなるといわれていますが、 使用を中止するとまた前立腺が肥大してきます。

◆副作用・使用上の注意

抗男性ホルモン薬は、前立腺だけでなく全身に作用するため、「性欲低下、勃起障害、女性化乳房」などの副作用が起こることがあります。 また、前立腺がんの腫瘍マーカーである「PSA」の値は、前立腺がんの早期発見のために重要な検査項目ですが、 抗男性ホルモン薬を使っている間は、PSAの値が下がってしまうため、前立腺がんが起きても、 PSAで見つけるのは難しくなるという問題があります。 肝障害が起こることもあるので、肝機能に問題がる人には、通常使われません。


●その他の薬

前立腺肥大症の症状を緩和するための薬として、以下のようなものがあります。

◆植物製剤、アミノ酸製剤、漢方薬

前立腺肥大症の症状を和らげるために、植物のエキスを配合した植物製剤の「セルニチンポーレンエキス」 や「オオウメガサソウエキス・ハコヤナギエキス配合剤」、たんぱく質を構成するアミノ酸を配合した アミノ酸製剤の「グルタミン酸・アラニン・アミノ酢酸配合剤」などが使われることがあります。 漢方薬の中では「八味地黄丸」がよく使われています。 これらは、前立腺の炎症を抑えたり、浮腫(むくみ)を取ったりして、周辺症状の軽減に役立つと考えられます。 どのような作用で効果が出るのかはよくわかっていませんが、古くから経験的に使われてきた薬で、副作用はあまりありません。 いずれも、主に他の薬と併用されます。

◆抗コリン薬

前立腺が肥大して膀胱頚部への圧迫が強くなると、神経が過敏な状態になり、膀胱が収縮しやすくなって、頻尿を招きます。 これを「過活動膀胱」といって、前立腺肥大症の人に多く見られます。 こうした頻尿改善のために、神経の過敏性を抑えて筋肉の緊張をとる抗コリン薬が用いられることがあります。 通常、α遮断薬と併用して、補助的に用いられます。 ただ、この薬を使うと、膀胱の排尿する力が弱くなり、残尿が増えることがあるので、残尿の多い人には使えません。